「腹膜炎」は、フィジカルアセスメントだけで見抜けるの?
『いまさら聞けない!急変対応Q&A』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は腹膜炎をフィジカルアセスメントのみで見抜けるかについて解説します。
佐藤千雪
八戸赤十字病院 看護師長/救急看護認定看護師
「腹膜炎」は、フィジカルアセスメントだけで見抜けるの?
かなりの精度で見抜けます。腹痛があり、発熱や腹膜刺激症状(筋性防御、反跳痛)があったら腹膜炎を疑いましょう。
腹膜炎は、無菌の腹腔内に、何らかの原因によって細菌感染が生じたり、出血・外傷・穿孔などによる化学的刺激などが加わったりすることで生じます。原因として多いのは、消化管穿孔、急性虫垂炎、外傷、外科手術後(縫合不全)によるものです。
患者が腹痛を訴えたら、腹痛の部位や痛みの性状をよく聞き、発熱の有無などのバイタルサイン異常や腹膜刺激症状の有無を確認します。
腹膜刺激症状とは
腹膜炎の患者は、動いたり、ちょっとした衝撃を受けたりするだけで痛みが増悪するため、じっと痛みをがまんして動かないことが多いです。
腹膜炎の特徴的症状として、腹膜刺激症状が挙げられます(図1)。これは、壁側腹膜に炎症が及ぶために生じる症状で、筋性防御(デファンス)と反跳痛(ブルンベルグ徴候)を含みます。
腹膜刺激症状の見抜き方:触診と打診
痛みがあるので、患者は腹部を触られることを不安に感じます。そのため、触診の順序は疼痛部位を最後にし、はじめは弱く、次第に強く圧迫するようにします。
筋性防御・筋硬直の有無をみるには、必ず左右を比較します。反跳痛が明らかでない場合(または代用として)、咳で疼痛が増強するか聞くのも有用です。
打診は、触診の後に行います。消化管穿孔では太鼓を叩いたときのようなコンコンという響き(腹腔内遊離ガスが多いため)、進行した腹膜炎では打診でも痛みが強くなるなどの所見が認められます。
なお、高齢者などでは、自覚症状や腹部所見が乏しいこともあるため、注意が必要です。
***
もし、腹膜炎ならば一刻を争うため、迅速に対応します。しかし、時間がないなかでも、患者や家族への説明、疼痛や不安などに対する精神的サポートなどは必要です。
目次に戻る
引用・参考文献
1)谷口洋貴:急性腹症の病歴と身体所見.救急医学 2010;34(2):131‐139.
2)医療情報科学研究所 編:病気がみえるvol.1消化器 第4版.メディックメディア,東京,2010:160‐161.
3)井清司:救急外来腹部診療スキルアップ.シービーアール,東京,2006:190.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『いまさら聞けない!急変対応Q&A』 編著/道又元裕ほか/2018年9月刊行/ 照林社