妊娠に伴う皮膚変化

『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は妊娠に伴う皮膚変化について解説します。

 

宇津正二
聖隷三方原病院

 

 

Minimum Essentials

1妊娠特有のホルモン分泌亢進状態のため、血流増加や体温上昇、さらに全身の急激な増大などにより特異的な体表環境を呈する。

2妊娠線、色素沈着肝斑、雀斑、発汗、ニキビ、多毛/脱毛、血管拡張/静脈瘤など、違和感やかゆみで始まるものが多い。

3かゆみに対する予防/ケアが重要であり、外用薬は躊躇せず使用する。

4ほとんどの症状は妊娠・産褥期間中だけで消退するが、妊娠線や局所の色素沈着のような皮膚変化は、母性の証として存続する。

 

妊婦の皮膚変化(とくにかゆみ)に対するケア

妊娠中の皮膚は(とくに内股や外陰部、乳房など元来敏感な反応を示す部位は)、ちょっとした刺激に対してもさらに敏感な状態になり、むずむず感や瘙痒感を訴える。したがってかゆみに対する適切な指導、対策、治療が必要である。

 

常日頃からを短く切り、下着や衣服は清潔で刺激の少ない素材をゆったり着用して、できるだけ搔きむしってしまわないような生活習慣づけが大切である。

 

いったんかゆくなると、どんどんかゆみは増強し、持続的・慢性的になってくると不眠や自律神経の乱れをきたしたり、流早産まで引き起こす危険性もある。
 

 

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妊娠経過中に発現してくる生理的な皮膚の変化

色素沈着

妊娠ホルモン(主としてエストロゲンプロゲステロン)の影響による。乳頭乳輪、腋窩、臍窩、下腹部正中線、外陰部、会陰部など元々生理的にメラニン色素の多い部位が一段と濃い褐色調になる。

 

さらに、しみ(肝斑)、そばかす(雀卵斑)、あざ(色素性母斑)、ほくろ(黒子)などにも、色調の増強や変色範囲の増大、新生などが起こる。出産後には薄くなるが、ある程度の色素沈着は残る。

 

多毛と脱毛

妊娠中は、毛髪の成長期が延長するため身体全体の体毛や産毛が濃くなり、産後は休止期に入るため逆に脱毛が目立つ。体毛の増加は、妊娠時の卵巣腫大による男性化現象の1つとして起こる。

 

一方、頭髪の脱毛は前頭部に目立つ。全般的に発毛サイクルは産後ただちに正常化し始め、15ヵ月以内には妊娠前の状態に戻る。

 

汗腺・皮脂腺の変化

妊娠初期は全身的に乾燥状態〜脱水傾向で、汗や皮脂の分泌は抑制されている。一方、妊娠後半~産褥期には全体的な循環血液量が増えて水血症傾向になり、発汗や皮脂分泌は亢進する。

 

爪甲の変化

一般に爪質がやわらかくなり脆弱化する。先端が剝がれたり、割れたり横溝ができやすくなるので、長く伸ばしたり、ネイルアートやデコレーションをすることは避ける。

 

結合組織の変化

いわゆる妊娠線(皮膚萎縮線条)は90%の妊婦にみられ、下腹部、腰部、大腿部、乳房部などに赤紫色~黒褐色の亀裂様の線条として発症する(図1)。

 

図1皮膚萎縮線条(モンゴメリー腺)

皮膚萎縮線条(モンゴメリー腺)
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妊娠に伴う副腎皮質ホルモンの分泌亢進と、皮膚の急激な伸展によって生じる。出産後は数ヵ月して白く透明な銀色の線条として残る。経産婦では前回の妊娠時の妊娠線が多少赤くなる程度で、新たな発生はほとんどない。

 

全身各所の筋膜や靱帯は、全身的にやわらかく緩くなってくる。

 

血管の拡張と新生

妊娠性のホルモン(エストロゲン)の影響や全身の循環血液量の増加により、皮下表在の毛細血管は新生、分枝、拡張し、表面から透けて見えるようになる。静脈はうっ滞/拡張が目立ち、はっきり浮き出して見える。手掌紅斑は約 60%の妊婦にみられる。

 

腹部から胸、顔の毛細血管が拡張し、大理石様皮斑、くも状血管、血管拡張性肉芽腫などが出現することもある。下半身では静脈のうっ滞 / 拡張が著明で、時に下肢から会陰部にかけての静脈瘤、脱肛、外痔核などがみられ、放置していると痛みを伴うこともある。

 

 

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妊娠時に発現する特異的な皮膚疾患

妊娠性皮膚瘙痒症

全妊婦の20%にみられる。特別な皮疹がないにもかかわらず、全身性いたるところにかゆみが発現する。とくに腹部や臀部、下肢は引っ搔きやすいため、かゆみ止めの内服・外用が必要である。妊娠に伴う肝臓内の胆汁うっ滞がかゆみの原因の1つであるとされている。

 

また、皮膚の過剰伸展もかゆみを誘発するため、妊娠線が発現してくる直前には瘙痒感が一層強くなる。

 

妊娠性痒疹

全妊婦の0.5~2%にみられる。妊娠3~4ヵ月頃、四肢、体幹に痒疹が出現する。経産婦に多く発現し、夜間就寝中などに突然に四肢伸側や腹部全体に激しいかゆみとともに発現する。小丘疹とかき傷が癒合した蕁麻疹様皮疹も混在する(図2)。母体や胎児への影響はない。

 

図2妊娠性痒疹

妊娠性痒疹
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妊娠性瘙痒性蕁麻疹様丘疹局面

240例の妊婦に1例程度発症するまれな疾患である1)。初産婦の妊娠後期に発症しやすい。

 

蕁麻疹様の広範囲の丘疹/紅斑が腹部に出現し、大腿、臀部にも拡大するが搔きむしるほどのかゆみはない。経産婦には再発することも少ない。

 

その他の妊娠性皮膚疾患

妊娠性瘙痒性毛包炎、疱疹状膿痂疹、妊娠性疱疹、妊娠性丘疹状皮膚炎などがあるが、非常にまれな疾患である。

 

 

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看護の役割

妊婦のかゆみに対しては、冬季はできる限り乾燥を避け、夏季は発汗やむれに対する工夫などの予防的な生活指導が大切である。また、必要に応じて皮膚科的治療を受けることを積極的に勧める。

 

妊娠中にはさまざまな皮膚の変化が発現するが、病気ではなく生理的な現象であることが多く、出産後は次第に軽減することを説明する。妊娠線や乳頭、乳輪、局所の色素沈着などは完全に元どおりにはならないが、母性の象徴として受容できるように指導する。

 

かゆみが妊娠に悪影響を及ぼさないよう、爪を短く切る、規則的な洗髪・整髪、綿製の下着や風通しの良い衣服の着用、帯下用のパットやシートは自分の肌に合う物をしっかり選ぶことなどを指導する。さらに、過剰な日焼けや搔きむしりなど、かゆみの増強因子となるような刺激を避けるように指導する。

 

妊娠継続中はほとんど治らないことを理解してもらったうえで、増悪防止に有効な外用剤や内服薬を使用しながら、搔破部からの感染を予防するようなケアの指導が重要である。

 

妊娠と薬情報センター

妊娠中や授乳中の母体への薬剤投与は、胎児や新生児への影響を心配して、一般的には拒否的な傾向が強く根付いている。しかし、偶発的に投与された薬で母体に薬疹が出たような場合でも、それでただちに胎児や新生児に悪影響を及ぼすことはないので、過剰な心配はしないように指導することが必要である。

 

最近では、国立成育医療研究センターの妊娠と薬情報センターや虎の門病院の妊娠と薬相談外来など、多数の症例実績を集積して薬理学的、臨床的に考察/再検討し、妊娠中に投与した薬剤についての作用機序や副作用、薬疹の有無など、知りたい情報を確実に提供してもらえる機関が常設されるようになった。

 

また、インターネットで情報検索することもできるので、相談された際に迷ったり悩んだり、心配になったときには、指導の際の参考資料として利用するのが得策である。 国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」のホームページは( https://www.ncchd.go.jp/kusuri/ )である。

 

 

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引用・参考文献

1)日本産婦人科医会研修委員会(編):研修ノート No95 『目で見てわかる膣・外陰・皮膚・乳房疾患のすべて』,日本産婦人科医会,2015

 


 

本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂

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