せん妄状態が落ち着いている日は,くすりを使わなくてもよいですか?
『せん妄のスタンダードケア Q&A100』より転載。
今回は、抗精神病薬服用の注意点について解説します。
せん妄状態が落ち着いている日は,くすりを使わなくてもよいですか?
せん妄に用いられる薬剤は一般的に抗精神病薬です.症状の改善が得られても急に投薬を中止せず,薬剤を徐々に減量し中止します.
その際に症状の改善を正しく判断し,再発防止に努めることが重要です.
〈目次〉
薬剤の効果の見極めが重要
薬剤の中止時期を決定するために,薬剤の効果で状態がよくなっているのか,せん妄自体が改善したのかを正しく見極める必要性があります.
病態の評価としては,せん妄症状のモニタリング(夜間の状態)および内服の可否(嚥下能力,内服可否)です.せん妄症状が改善し状態がほぼ安定した日から数日経過後,薬剤を徐々に減量し中止を検討します.
認知症がある場合
認知症がなければ数日で漸減後中止,用量が少ない場合は頓服へ変更し,認知症がある場合は行動異常に注意しながら慎重に用量を調節します.
抗精神病薬の作用
抗精神病薬はドパミンD2受容体を遮断することで,抗精神病作用をもたらすと考えられていますが,そのほかの受容体にも遮断作用をもっています(メジャートランキライザーって何ですか?参照).
抗精神病薬の長期服用の問題点
抗精神病薬の長期使用による問題点として,ドパミンD2遮断作用によるアカシジア,錐体外路症状,嚥下困難,もっとも重篤な副作用である「悪性症候群」が生じることがあります.
長期服用の抗精神病薬の急激な中止・減量の問題点
長期にわたって服用していた抗精神病薬の急激な中止・減量は,ドパミンD2以外(多くはムスカリン受容体遮断作用)の解除により,不眠,不安,不穏,腹部症状などが生じますこれを離脱症状(禁断症状)といいます.
memo悪性症候群
持続的な37.5度以上の発熱,筋強剛・振戦などの錐体外路症状,意識障害,頻脈・血圧上昇・発汗などの自律神経症状を特徴とし,血液データでCPK(クレアチンフォスホキナーゼ)の上昇(典型的には万単位)や白血球増多,ミオグロビン尿などを認める病態です.
適切な処置をしないと,腎不全などで死亡する場合があります.過剰なドパミンD2遮断によって生じると考えられますが,全身状態が悪い患者さん,脳障害のある患者さん,抗精神病薬の非経口投与,大量投与などが誘因となることが知られています.
診断後は,ただちに原因薬剤を中止し,補液などを行い,腎機能を評価し,ダントロレンナトリウムの点滴などを行います.場合によっては透析を行って,腎不全に対処することもあります.
[Profile]
石島 彩子 (いしじま あやこ)
千葉大学医学部附属病院薬剤部
石井伊都子 (いしい いつこ)
千葉大学医学部附属病院薬剤部
*所属は掲載時のものです。
本記事は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典]『“どうすればよいか?”に答える せん妄のスタンダードケア Q&A100』(編集)酒井郁子、渡邉博幸/2014年3月刊行