在宅人工呼吸療法患者の歯磨きは、どうすればいい?

『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は「在宅人工呼吸療法患者のオーラルケア」に関するQ&Aです。

 

松田千春
東京都医学総合研究所難病ケア看護プロジェクト主任研究員

 

在宅人工呼吸療法患者のみがきは、どうすればいい?

 

在宅人工呼吸療養者でも、病院や施設と同様に「歯みがき」にとどまらないオーラルケアの実施は可能です。
誤嚥に注意し、呼吸管理ができるケア実施者によってオーラルケアを実施します。

 

在宅人工呼吸療法患者のオーラルケア

在宅では、家族介護者と限られた支援時間・支援者で多くのケアを実施しなければならない(表1)。そのため、オーラルケアの目的を達成できるような実施体制を整える必要がある(図1)。

 

表1在宅人工呼吸療養者のオーラルケアを難しくさせている問題

 

在宅人工呼吸療養者のオーラルケアを難しくさせている問題

1 呼吸状態に注意が必要である(特にNPPV実施者の場合)

 

  • ほぼ24時間装着する場合、 口腔ケア実施時にマスクを外すと呼吸困難を生じる可能性がある→NPPVの限界
  • 従圧式設定の場合、EPAP値が高いと呼気がうまくできず、誤嚥しやすく含嗽が困難である

2 嚥下障害に注意が必要であるが、誤嚥防止策がとりづらい

 

  • 含嗽できない(難しい)
  • ヘッドアップ・側臥位・顔を横向きにすることは、療養者が下記の症状をきたすためできない
    易疲労、顎や肩の痛み、開口できる姿勢が限局している、拘縮により体位変換ができない
  • 開口できる頭部後屈位では、喉元に唾液がたまりやすい
  • バイトブロックにより開口しようとすると、顎の痛みが生じる
  • カフ付やサイドチューブ付の気管切開チューブを本人が望まず使用できない
  • カフ圧計をもっていない、使用したことがない

3 療養者の口腔の状態

 

  • 開口制限
     ・歯ブラシが歯列内に入らず、歯の裏、奥歯、舌、口蓋などを磨きにくい。そのため、通常使用する歯ブラシに加えて数種類の歯ブラシが必要である
     ・口腔の十分な観察ができない
  • 舌の問題
     ・乾燥し、触れると敏感に反応する
     ・一部疾患では舌が肥大し、口腔のスペースを制限している

4 支援者・支援体制の問題

 

  • より優先したいケアがあり、時間の確保が難しい
  • ケア実施者の確保が難しい
     ・吸引の判断、実施ができる介助者が必要である
     ・症例によっては意思伝達法が特殊な場合がある
     ・複数の訪問看護ステーション、ヘルパーステーションが入っており、ケア方法の共有が難しい

5 療養者の個別性に応じたケア用品が必要である

 

  • 開口困難
     ・吸引カテーテル付ブラシの場合、口が開きにくい療養者の口腔まで入らない
     ・開口器(バイトブロック)は顎が痛くなり使えない
     ・子ども用の歯ブラシは、ヘッドが小さい反面柄が短いため、成人の場合奥まで磨けないことがある
  • 舌を咬んでしまう
  • 経済的な問題
     ・介護用歯ブラシを日常的に使用するには価格が高い
     ・使い捨てブラシを複数回使い、壊れた経験がある

6 療養環境

 

  • ベッド上の限られたスペースで口腔ケアを安全に行う必要性がある

7 歯科診療や処置を受けることが困難である

 

  • 往診してくれる歯科医を見つけられない

 

図1歯科医によるオーラルケアの実際

 

含嗽剤や洗口剤をうまく活用すると、より有効に口腔の細菌を減少させることができる。しかし、在宅では、高齢な家族介護者や非医療職が実施することもあるため、洗浄法だと誤嚥のリスクが高まるとアセスメントした場合は、ケア方法を変える、ケア実施者を特定するなどの対応が必要である。

 

オーラルケア後、しばらくは唾液分泌過多になるため、ケア実施者はケア後の確認により唾液を回収し、誤嚥予防に努める。

 

在宅ではカフ圧計はほとんど普及していないが、オーラルケア実施時にカフ圧を勘で上げず、適正なカフ圧で実施することを勧める。

 

カフ上部吸引は誤嚥予防に有効である。装着できない理由がない限り、カフ上部吸引が可能な気管切開チューブを選定する。

 

ALS(筋萎縮性側索硬化症)など、流涎過多で常に持続吸引器を利用している場合は、オーラルケア時も持続吸引を利用し、唾液の効果的な回収を行う(図2)。

 

図2持続吸引可能な機器の例 

 

 

 

口腔の状態は、病気の進行の程度や病態によって異なるため、病初期から歯科の訪問診療を計画し、歯科診療と定期的ケアを受け、多職種協同のもとにケアを選択し実施できるようにする。

 

略語

 

  • ALS(amyotropic lateral sclerosis):筋萎縮性側索硬化症

[文献]

  • (1)8020推進財団;平成20年3月㈶8020推進財団指定研究,「入院患者に対する包括的口腔管理システムの構築に関する研究」研究班,主任研究者:寺岡加代.:入院患者に対するオーラルマネジメント.8020推進財団,東京,2008.
  • (2)川村佐和子監修,中山優季編:ナーシングアプローチ難病看護基礎と実践.桐書房,東京,2014.
  • (3)石川悠加 編:NPPVのすべて これからの人工呼吸.医学書院,東京,2008.
  • (4)中山優季:在宅人工呼吸ケア.道又元裕編,人工呼吸ケア「なぜ・何」大百科,照林社,東京,2008:457.
  • (5)中山優季:在宅人工呼吸療法の実際.道又元裕,小谷透,神津玲編,人工呼吸管理実践ガイド,照林社,東京,2009:292-302
  • (6)川口有美子,小長谷百絵編著:在宅人工呼吸器ポケットマニュアル.医歯薬出版,東京,2009.
  • (7)特定疾患患者の生活の質(QOL)の向上に関する研究班「工呼吸器装着者の訪問看護研究」分科会編:人工呼吸器を装着しているALS療養者の訪問看護ガイドライン.2000.
  • (8)東京都福祉保健局:難病患者在宅人工呼吸器導入時における退院調整・地域連携ノート.http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/joho/soshiki/hoken/shippei/oshirase/taiintyousei_tiikirenkeinoto.files/tiintyouseirenkeino-to250711.pdf(2014年11月18日閲覧).

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社

SNSシェア

看護ケアトップへ