在宅人工呼吸療法患者はずっと寝たきりになってしまうの?

『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は「在宅人工呼吸療法患者の日常生活行動」に関するQ&Aです。

 

中山優季
東京都医学総合研究所難病ケア看護プロジェクト副参事研究員

 

在宅人工呼吸療法患者はずっと寝たきりになってしまうの?

 

そんなことはありません。できるかぎり身体を起こすことは、廃用性障害の予防、リハビリテーションとしても有効です。

 

〈目次〉

 

在宅人工呼吸療法患者のケア

人工呼吸器を装着していることが原因で寝たきりになることはない。むしろ人工呼吸器を装着しながら活動することで、活動に伴う負加を軽減できる。

 

四肢麻痺を伴う利用者の場合、車椅子やリクライニング式ストレッチャーなどを利用するとよい。

 

移動に車椅子を必要とする者は、介護保険や身体障害者手帳障害者総合支援法)によって公的補助を受けることができる。介護保険ではレンタルが基本となるが、人工呼吸器を搭載できる車椅子はオーダーメードが多くなるため、身体障害者手帳を利用した補装具費の支給に基づく場合が多い。

 

車椅子使用時の注意点

車椅子は、呼吸器の形や大きさによって、下部に置き場を設けるものや背部にかけるなど、さまざまな工夫がある(図1)。

 

図1車椅子への呼吸器搭載(例)

 

下部の置き台には、人工呼吸器の他、吸引器やバッテリーなどを置く場合がある。リクライニング(背もたれの角度が変わる)やチルト機能(座っている角度のまま全体の角度が変わる)、座位補助装置など、体への負担を最小限にとどめる工夫も必要である。

 

移動に伴い、人工呼吸器回路の牽引や抜去などのトラブルが生じやすくなるため、慎重に移動方法を検討する。

 

移動時の注意点

全介助状態の場合の移動方法は、図2のようなアセスメントのもと、いくつかの方法(複数で持ち上げた平行移動、スライディングボードの利用、移動用リフトなど)から選択する。

 

図2全介助状態の移乗方法:アセスメントの視点

 

実施前に、状態が安定していることを確認し、下記についてアセスメントする

 

 

 

 

 

 

 

移乗は、いったん回路を外して行うほうが、回路の牽引の危険性は減る。しかし、移乗後すぐに回路を戻すことを忘れてはいけない。

 


[文献]

  • (1)8020推進財団;平成20年3月㈶8020推進財団指定研究,「入院患者に対する包括的口腔管理システムの構築に関する研究」研究班,主任研究者:寺岡加代.:入院患者に対するオーラルマネジメント.8020推進財団,東京,2008.
  • (2)川村佐和子監修,中山優季編:ナーシングアプローチ難病看護基礎と実践.桐書房,東京,2014.
  • (3)石川悠加 編:NPPVのすべて これからの人工呼吸.医学書院,東京,2008.
  • (4)中山優季:在宅人工呼吸ケア.道又元裕編,人工呼吸ケア「なぜ・何」大百科,照林社,東京,2008:457.
  • (5)中山優季:在宅人工呼吸療法の実際.道又元裕,小谷透,神津玲編,人工呼吸管理実践ガイド,照林社,東京,2009:292-302
  • (6)川口有美子,小長谷百絵編著:在宅人工呼吸器ポケットマニュアル.医歯薬出版,東京,2009.
  • (7)特定疾患患者の生活の質(QOL)の向上に関する研究班「工呼吸器装着者の訪問看護研究」分科会編:人工呼吸器を装着しているALS療養者の訪問看護ガイドライン.2000.
  • (8)東京都福祉保健局:難病患者在宅人工呼吸器導入時における退院調整・地域連携ノート.http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/joho/soshiki/hoken/shippei/oshirase/taiintyousei_tiikirenkeinoto.files/tiintyouseirenkeino-to250711.pdf(2014年11月18日閲覧).

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社

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