敗血症の治療は?

『エキスパートナース』2015年8月号<「急変」になる前に病棟で見抜きたい!「敗血症」の気づき方>より抜粋。

 

今回は敗血症について説明します。

 

近藤 豊
順天堂大学医学部付属浦安病院救急診療科准教授

 

〈目次〉

 

2016年2月 敗血症の新しい定義が発表されました。
敗血症の定義が変更。 臓器障害の有無が重要に

 

はじめに

敗血症の患者のケアをスムーズに行うためには、敗血症の治療の流れを知っておく必要があります。

 

2002年、「5年間で重症敗血症患者の死亡率を25%減らしましょう」という目標を掲げたキャンペーンが開始されました。これはSSC(Surviving Sepsis Campaign)と呼ばれているもので、2004年にはこの目標を達成するために、有名なSSCG(Surviving Sepsis Campaign Guidelines)と呼ばれる敗血症治療の国際ガイドラインが発表されました。

 

2012年には改定版が出てさらにアップデートされています1。敗血症の治療を語るうえで、SSCGは非常に重要な概念ですので十分理解しておきましょう。またSSCGで推奨されている初期蘇生は、2001年にRiversらが提唱したEGDT(early goal-directed therapy:早期目標指向型治療という早期目標指向型治療が基礎となっています2。「SSCG」「EGDT」という用語は難しいですが、敗血症治療ではよく出てくる用語なのでしっかりと覚えておきましょう。

 

敗血症は、発症して間もない段階での初期治療が非常に重要です。これは初期治療が遅れると患者の予後は有意に悪化するためで、SSCGでは敗血症治療に関して時間の目標が設けられています。これらの一連の治療をまとめて“敗血症蘇生バンドル”と言います。

 

診断後3時間以内に達成すべき目標

診断後3時間以内の目標として、表1をすべてクリアすることが挙げられています。

 

表1診断後3時間以内に達成すべき目標

 

特に抗菌薬の投与は重要なので、敗血症の院内急変患者に遭遇した場合には、すみやかに血液培養を採取して抗菌薬を投与します。

 

血液培養を採取する理由ですが、血液培養を採取することで「感染症の存在の証明」「感染源の推定」「原因菌の同定」「薬剤感受性」「抗菌薬投与の期間の設定」などさまざまな情報が得られます。

 

なお血液培養は2セット採取します。血液培養ボトルもきちんと準備しておきましょう。

 

以上の目標を達成できた場合には、次の治療目標に移ります。

 

診断後6時間以内に達成すべき目標

表2のすべての治療が、6時間以内に終了するようにします。

 

表2診断後6時間以内に達成すべき目標

 

これらのモニタを一般病棟で診ることが困難な場合には、「HCU(high care unit)」や「ICU(intensive care unit)」に移動して治療を継続します。

 

またモニタが装着されると数値に目が行きがちですが、モニタの数値以上に患者の状態をベッドサイドで観察することは非常に大切です。特に重症の敗血症患者では意識障害を合併することが多く、これらのモニタでは意識障害の有無は判別できないため、注意しましょう。

 

蘇生後の治療

敗血症の急性期を過ぎた患者の治療や看護ケアではどのようなことが必要とされるのでしょうか。

 

敗血症の初期蘇生が終了すると、当然次の治療に移ります(表3)。

 

表3蘇生後の治療

蘇生後の治療

 

循環作動薬の投与、人工呼吸管理、血糖コントロールなどがあり、これらの治療をまとめて“敗血症管理バンドル”と呼びます。

 

このなかで重要と思われるものやケアと関連するものをピックアップして述べます。

 

1循環作動薬の投与

循環作動薬は先述の通り、平均動脈圧(mean arterial pressure、MAP)65mmHg以上を目標として、通常はノルアドレナリンを第1選択として投与します。

 

適切な血圧を保つためにアドレナリンを使用することも可能です。またノルアドレナリンへの反応性が低下している場合にはバソプレシンを併用することも可能です。ドパミンの使用は頻脈を惹起したりするため、限定する必要があります。

 

また、腎保護目的での低用量のドパミンの使用は、有効性を示す明確なエビデンスが存在しないため推奨されていません。

 

2人工呼吸管理

ARDSを合併している場合、1回換気量の目標は6mL/kgと設定されています。ケアに関係する項目としては、推奨度は弱いながらPaO2/FIO2≦100の敗血症によるARDS患者には経験のある施設であれば、うつ伏せの体位を用いてもよいとされています。

 

また、人工呼吸器関連肺炎(ventilator associated pneumonia、VAP)の予防のために頭部を30~45°挙上することは非常に重要です。すぐに実践できるケアなので、覚えておきましょう。

 

3血糖コントロール

連続した2回の血糖値測定で180mg/dLを超えたときに、スライディングスケールなどのプロトコル化された方法でインスリンを用いた血糖管理を始めます。

 

このプロトコルですが、血糖値の目標は180mg/dL以下にすべきであり、以前行われていた強化インスリン療法(血糖値80~110mg/dLを目標)は低血糖発生率が高い、などの理由から現在は推奨されていないため注意しましょう。

 

4栄養管理

栄養は、できる限り早く開始することが重要です。SSCGでは重症敗血症の診断後48時間以内に開始することが推奨されています。また発症後1週間は通常のカロリーより少なめの栄養投与がよいとされており、これを“permissive underfeeding(パーミッシブ アンダーフィーディング)”と呼びます3

 

5ステロイド投与

基本的にショックがなければステロイドは不要です。 ショックを伴う場合には、200mg/日のステロイド補充療法を考慮します。

 

6播種性血管内凝固症候群(DIC)対策、免疫グロブリン、タンパク分解酵素阻害薬(ウリナスタチン、シベレスタットナトリウム等)

それぞれ使用の是非をめぐって、『SSCG』1と『日本版敗血症診療ガイドライン』4では意見が分かれています。そのため、これらの薬剤を使用する、しないは主治医によって異なるかと思いますが、個々の病態や主治医の考え方が異なるためで、決して敗血症の治療が間違っているということではありません。

 

今後、さらなる研究の成果が期待されます。

 

7急性血液浄化療法

循環が安定しない敗血症患者には、持続血液浄化療法を施行します。その場合、通常ICUに移動して治療を行う施設が多いと思われます。

 

現在のところ、血中尿素窒素やクレアチニンなどの腎機能を指標とした明確な基準はありません。

 

***

 

敗血症の治療について概説しました。“敗血症蘇生バンドル”と“敗血症管理バンドル”をまとめて“敗血症バンドル”と呼びます。多職種の教育プログラムを作成し、このバンドルを遵守すると死亡率を減少させることも報告されています5

 

敗血症の治療を十分理解するとおのずとケアの要点も見えてきます。自信をもって看護できるようがんばりましょう。

 

コラム:SSCGにも示される看護ケアの重要性

『SSCG』では看護ケアの大切さも強調されています。

 

『SSCG』では「ケアの目標設定」という項目があり、表4-①に示したようなことがらについて、それぞれ推奨度(表4-②)とともに示されています。

 

表4SSCGにおけるケアの目標設定

 

2012年に発表された『日本版敗血症診療ガイドライン』4には看護ケアに対する項目がありませんが、非常に重要な項目であると考えられます。

 

 

 


 


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P.32~「敗血症の治療は?」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2015年8月号/ 照林社

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