高齢者は転倒するリスクが高いので、 術翌日は歩かせないほうがいい?|早期離床
『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「高齢者の術翌日の離床」に関するQ&Aです。
吉井真美
大阪市立大学大学院医学研究科消化器外科学病院講師
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長
高齢者は転倒するリスクが高いので、術翌日は歩かせないほうがいい?
いいえ。転倒には十分注意が必要ですが、離床は必要です。
〈目次〉
なぜ術後に歩かせたほうがよいのか?
消化器手術の術翌日には多くの場合、腹腔ドレーン、点滴ルート、尿道カテーテル、硬膜外カテーテルなど、多くの管が挿入されています。また術後には創部の痛みもあり、高齢者のなかには術後は安静にしているべきという考え方をもっている患者も少なくありません。
そういった状況で、手術の翌日から歩行を促すといっても、なかなか大変なことであり、早期離床に対する看護介入については、多くの研究が報告されています(1)。
術後の長期臥床は、さまざまな合併症をもたらすといわれています。
排痰ができず肺炎や無気肺を生じたり、下肢静脈血栓の形成から肺塞栓を生じたり、その他にもイレウス(腸閉塞)や術後せん妄を発症する危険性が高まります。高齢者の場合は特に、急速に筋力低下が進み、手術をきっかけに、そのまま寝たきりの状態になるという可能性もあります。
以上のことから、術後早期離床は、術後合併症の予防に大きな役割を果たしているといえるのです。
術後はどのようにして歩かせたらよいか?
高齢者の場合には、確かに転倒のリスクがあります。しかし、前述のような理由から、術翌日から歩かせる必要があると考えます。その際、歩行器を使用したり、管が何本もある場合は絡まないように工夫してまとめたり、付き添いのもとで歩行させたり、転倒リスクを少しでも軽減するよう十分に注意しましょう。
また、疼痛コントロールを十分に行っておくことや、周術期の歩行の重要性を患者へ理解してもらうことも、スムーズに歩き出すきっかけとして大切です。
早期離床
「手術の後は、しばらく絶対安静が必要」と思っている患者も少なくないようですが、現在では、術後の早期離床は強く推奨されています。その理由は、早期離床によって、さまざまな術後合併症を防ぐことができるからです。
具体的には、①肺炎、無気肺などの肺合併症、②血栓症、褥瘡などの循環合併症、③腸閉塞、④排尿障害、⑤骨・筋肉・関節の機能低下、⑥術後せん妄などが挙げられます。
術後疼痛や、転倒リスクがあるなど、離床を阻害する要因を少しでも軽減させながら、できる限り早期の離床を促すことが、結果として術後の良好な経過をもたらすと考えられています。
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社