ALP、γ-GTの読み方|「胆管の病態」を読む検査

 

『エキスパートナース』2015年10月号より転載。
ALP、γ-GTの読み方について解説します。

 

 

重藤翔平
信州大学医学部附属病院臨床検査部遺伝子検査室

 

ALP:alkalinephosphatase、アルカリホスファターゼ
γ-GT:γ-glutamyltranspeptidase、ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ

 

ALP、γ-GTの基準範囲

  • ALP:106-322U/L
  • γ-GT:男性13-64U/L
        女性9-32U/L

上昇↑に注意

 

ALP、γ-GTはどんなときに見る?

  • 以下の疾患が疑われるとき

肝胆道系疾患、骨疾患、アルコール性肝障害 など

 

 

〈目次〉

 

ALP、γ-GTとは

血清中のALP、γ-GTは「胆道系酵素」として知られ、胆汁うっ滞で高値となるため肝胆道系疾患の発見およびモニタリングに重要なルーチン検査です。

 

また、胆汁うっ滞を伴う病態だけではなく、ALPは骨形成性疾患や腫瘍の骨転移、γ-GTはアルコール性肝障害などの病態において上昇するのが特徴です。

 

ポイントはALP、γ-GTが同時に上昇しているか、それぞれ単独で上昇しているかを見きわめることです(図1)。

 

図1ALP、γ-GTの異常値

ALP、γ-GTの異常値

 

文献12を参考に作成)

 

同時に上昇していれば、肝胆道系の疾患を疑います。ALPのみ優位に上昇している場合は、多くは骨疾患の検索への手がかりになります。γ-GTのみ上昇している場合は、まずアルコールに起因する病態が背景にないかを考慮します。

ALP、γ-GTの読み方

 

(手順1)疾患を推測する前に、検査手技や併用薬の影響がないかを考慮する

1抗凝固剤入りの採血管を使用していないか確認する

ALPは亜鉛を必要とするため、抗凝固剤であるEDTAやクエン酸ナトリウムの混入で偽低値となります。抗凝固剤入りの採血管を用いないようにしましょう。

 

2薬歴を考慮する

ALP、γ-GTは、薬剤による合成の誘導や肝障害によって上昇する例が高頻度に経験されます。

 

てんかん薬や副腎皮質ステロイドではγ-GTが高値になることが知られており、ALPも各種薬剤(抗てんかん薬、経口避妊薬、ワルファリンなど)で上昇することが報告されています。

 

しかし、薬剤による両酵素の値の動きは、両者が並行して動く場合やどちらか単独の動きの場合など、いずれのパターンも認められるため、常に薬歴を考慮する必要があります。

 

3小児の著しい高値は、一過性高ALP血症も疑う

「一過性高ALP血症」という病態があります。これは、小児においてALPが一過性に基準範囲上限の50倍を越すような高値を示すもので、約1か月でほぼ正常に回復します。背景にウイルス感染が存在すると言われており、発熱や咳などに加えて下痢などの消化器症状を伴うことが報告されています。

 

ALPアイソザイムで診断が可能であるため、同じ検体から追加での検査を検討します。

 

(手順2)両方とも上昇している場合:上昇の程度と他の検査値を考慮して原因を推測する

血中の両酵素の値は肝・胆道系に特異的であり、その上昇は排泄障害(胆汁うっ滞)や合成亢進により起こります。

 

通常、肝・胆管で合成されたALP、γ-GTは、胆汁中に分泌され、十二指腸へ排泄されます。しかし胆管閉塞などにより、胆汁排泄に障害が生じ胆汁がうっ滞すると、両酵素の排泄もうっ滞するため、胆汁のうっ滞を反映して血中ALP、γ-GT値が上昇します(図2)。

 

図2ALP、γ-GTの肝・胆管での動態と病態

ALP、γ-GTの肝・胆管での動態と病態

 

両酵素の合成亢進は、肝炎、肝硬変や薬剤性肝障害などの肝細胞傷害によって起こります。また、うっ滞した胆汁による刺激によっても細胆管上皮での合成が亢進します。

 

なお、ALP、γ-GT値は連動するほかの肝関連項目と一緒に考えることで、肝疾患の重症度を推察し、より正確な病態の把握ができます。

 

AST・ALTは、肝細胞傷害の有無および重症度を推定できます。

 

1両者が高値であれば、「胆汁のうっ滞」を疑う

黄疸があれば、「肝外胆管の閉塞」が原因

ALP、γ-GTの高値(めやすとしてALP:400U/L以上、γ-GT:100U/L以上)とともに、黄疸(直接ビリルビンの上昇)を伴えば肝外胆管の閉塞が考えられます(図2-①)。

 

閉塞性黄疸を起こす疾患は、総胆管結石、胆管がん、膵頭部がんなどがあります。ただし、肝外胆管の閉塞がなくても、重度の肝炎や薬剤性肝障害、あるいは症候性原発性胆汁性肝硬変などでは黄疸が認められることがあります。

 

黄疸がなければ、「胆汁のうっ滞」が原因

黄疸がない場合は、肝内毛細胆管での胆汁うっ滞が考えられ(図2-②)、薬剤性肝障害、肝内占拠性病変(肝細胞がんや肝膿瘍)あるいは肝内胆管結石などの疾患が考えられます。また、治療中の悪性腫瘍の肝転移でも、両酵素の上昇が見られます。

 

2両者が軽度の上昇であれば、「ALP、γ-GTの合成亢進」を疑う

両者の軽度の上昇(めやすとしてALP:100U/L以上、γ-GT:100-160U/L)が見られれば、肝内毛細胆管での胆汁うっ滞や、薬剤性肝障害、ウイルス性肝炎、肝硬変などの肝細胞傷害による合成亢進が考えられます。

 

AST、ALTをチェックし、実際に肝細胞傷害があるのかを検討します。

 

(手順3)片方のみ上昇の場合:肝胆道系疾患以外の原因を含めて他の検査値を見る

1「ALP」の単独上昇は、ALPアイソザイムで原因を探る

ALPは肝・胆管以外の臓器でも合成されるアイソザイムが存在しており、原因が推定できないALPの上昇がある場合は、ALPアイソザイムで由来臓器を特定できます(表1)。

 

表1ALPアイソザイム

ALPアイソザイム

 

文献2を参考に作成)

 

ALPが単独で上昇しているときは、肝・胆管以外で産生された他臓器由来のALPについて考えます。

 

「ALP3」の上昇は、骨疾患や悪性腫瘍の骨転移を疑う

骨由来の「ALP3」は、骨形成性疾患(骨折の治癒、白血病、骨肉腫、骨髄線維症、骨髄腫、副甲状腺機能亢進症)や骨代謝亢進(甲状腺機能亢進症)で高値となります。これらの基礎疾患がないときは、悪性腫瘍の骨転移を疑う必要があります。

 

ただし、小児は骨の成長と相関して基準値が成人の2~3倍であるため、値の解釈には必ず年齢を考慮します。

 

「ALP1」「ALP2」の上昇は、薬剤性肝障害を疑う

「ALP1」「ALP2」が上昇しており、γ-GTの上昇が認められない場合は、薬剤性肝障害により合成が誘導されている場合が多いと考えられています。新たに使用し始めた薬剤の影響を考えます。

 

「ALP4」は妊娠、「ALP5」は血液型にも左右される

妊娠中の女性は、胎盤由来の「ALP4」が妊娠30週以降に妊娠前の2~3倍に上昇するため、そのことを加味する必要があります。分娩後は、1週間ほどで妊娠前の値に低下します。また、まれに悪性腫瘍由来に上昇する場合があります。

 

また、B型やO型の血液型の人は、脂肪食摂取後に小腸由来「ALP5」が血中に軽度上昇するため、食前の採血による評価が適切です。

 

2「γ-GT」の単独上昇では、まずアルコールの影響を考える

個人差はありますが日常的飲酒があるとγ-GTの上昇がみられ、アルコール性肝障害ではγ-GTのみの上昇が顕著になります。通常、アルコール摂取によるγ-GT高値は、禁酒後数日から1週間後には従来の半分以下の値にまで低下します。

 

入院当初にγ-GTのみが高い場合は、入院前の飲酒の影響を考える必要があります。禁酒しても低下が顕著でない場合は、重度のアルコール性肝障害や、薬剤性肝障害など他の疾患によるものが考えられます。

 

入院期間中のγ-GTのみの上昇は、薬剤性肝障害をまず考えます。

 


[引用・参考文献]

 

  • (1)高木康編:最新酵素・アイソザイム検査─測定法とその臨床的意義─.臨床病理レビュー2001;116.
  • (2)広範囲血液・尿化学検査,免疫学的検査─その数値をどう読むか─第6版.日本臨牀2004;62(12).
  • (3)河合忠,屋形稔,伊藤喜久,山田俊幸編:異常値の出るメカニズム第6版.医学書院,東京,2013.
  • (4)本田孝行:ワンランク上の検査値の読み方・考え方─ルーチン検査から病態変化を見抜く─.救急・集中治療2012;23(11-12).表1 ALPアイソザイム

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有©2015照林社

 

P.45~「ALP、γ-GT」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2015年10月号/ 照林社

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