視覚|感覚
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
今回は、視覚について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
- 眼とカメラには類似性がある。
- 視覚の受容器は、網膜の視細胞で錐状体および杆状体の2種類がある。
- 視覚の感覚中枢は大脳皮質後頭葉にある。
視覚とは
視覚は、眼に入った光を感知して形や色を判断する感覚である。視覚の感覚中枢は大脳皮質後頭葉にある。眼の機能はカメラと比較すると分かりやすい(表1)。
視細胞
視細胞には、錐状体(すいじょうたい)と杆状体(かんじょうたい)がある(表2)。
錐状体 cone は円錐に近い形態、杆状体 rod は円柱に近い形態からそのような名前が付いている。錐状体および杆状体は、それぞれ色および光(明暗)の識別をする。
杆状体のほうが圧倒的に数が多いのは、生体にとって色よりも形を知る明暗の情報のほうがはるかに重要だからである。
例えば、道路を横断するとき、向こうから車が来るか来ないかが生死にかかわる重要な情報であり、その車の色が何色なのかは分からなくてもよい。実際、動物のなかには色が判別できないものが多い。
錐の訓読みは「きり」で、板に穴を開ける工具の「きり」は漢字で書くと「錐」である。円錐、角錐など「錐」には尖っているという意味がある。道路工事中などを示す円錐形の標識をコーンというのもこの錐 cone である。ソフトクリームのコーンも cone であり、corn(とうもろこし)ではない。
大脳皮質の運動野から脊髄に運動命令を伝える上位運動ニューロンが錐体路であり、大脳皮質の細胞が円錐形なのでこのようによばれる。英語では pyramidal tract である。エジプトのピラミッドは四角錐であるが、pyramidal という言葉は一般的に尖った形を示す。
色覚異常
錐状体には、可視光線の長波長側(赤)に感度が高い赤錐体、中間的波長(緑)に感度が高い緑錐体、短波長(青)に感度が高い青錐体の3種類がある。
それぞれの欠如により第1(赤)色覚異常、第2(緑)色覚異常、第3(青)色覚異常をきたす。頻度としては第1および第2色覚異常が多く、赤緑色覚異常とよばれる。赤緑色覚異常は、X連鎖劣性遺伝をするので男性に多く、女性は片方のX染色体に赤緑色覚異常があっても保因者であり、発症はしない。
色覚異常のことを色盲といったこともあったが、差別的用語になるとして現在は使われない。
夜盲症
杆状体にはロドプシン rhodopsin とよばれる色素タンパク質が含まれていて、光を吸収して構造変化するので光(物の形)を感知できる。ロドプシンはタンパク質部分とレチナール retinal からなり、レチナールはレチノール retinol(ビタミンA)からつくられるので、ビタミンAが不足するとロドプシンが不足して夜盲症になる。レチノールのCH2OH基が脱水素酵素の働きでレチナールのCHO基になる(retinol→retinal+H2)。
NursingEye
白内障 cataract は水晶体が混濁した状態で、加齢によって起こることが多い。また、糖尿病で血糖値が高い状態が続くと最終糖化反応物(advanced glycation end-product、 AGE)やソルビトール sorbitol が水晶体に蓄積して白内障を起こす。糖尿病の合併症の1つである網膜症は微小血管の循環障害に起因するが、糖尿病による白内障にも注意する必要がある。
緑内障 glaucoma は眼圧が上昇して視神経が障害される疾患である。眼圧を減少させる薬物としてアドレナリンβ受容体遮断薬点眼薬、プロスタグランジン関連点眼薬、炭酸脱水酵素阻害薬内服薬・点眼薬、副交感神経作動点眼薬などがある。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版