聴覚|感覚
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
今回は、聴覚について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
- 聴覚は空気の振動を耳で感知して音を知る機能である。
- 耳は、外耳(耳介と外耳道)、中耳(鼓膜、鼓室、耳管)および内耳(聴覚および平衡覚の受容器)に分類される。
- 聴覚の感覚中枢は大脳皮質側頭葉にある。
聴覚とは
聴覚は空気の振動を感知して音を知る機能である。聴覚の感覚中枢は大脳皮質側頭葉にある。
空気の振動を感じる耳は、外耳、中耳および内耳に分類される。
外耳 external ear は耳介と外耳道からなる。中耳 middle ear は鼓膜、鼓室および耳管からなる。内耳 inner ear に聴覚と平衡覚の受容器がある。
音の伝搬
音(空気の振動)は鼓膜で感知され、下記のように伝わる。
鼓膜の振動→ツチ骨→キヌタ骨→アブミ骨→前庭窓の振動→外リンパの振動→内リンパの振動→有毛細胞で感知→神経インパルス→大脳皮質側頭葉
ヒトの聴きうる音の振動数は約16~20,000Hzで、会話音の領域1,000~4,000Hzで感度が最も高い。20,000Hz以上の音を超音波という。
年齢とともに高い周波数の音が聞きにくくなる。17,000Hzのモスキート音とよばれる音が30歳代以上の人には聞きにくいことから、若者や子どもに対象を絞った警告放送や商品の宣伝にこの音が利用されている。
ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨の3つを耳小骨 auditory ossicles という。
ツチ(槌)、キヌタ(砧)、アブミ(鐙)は、それぞれ漢字では括弧内のように書き、名称は形がそれらに似ていることによる。
伝音系と感音系
伝音系(conductive system)は、音(空気の振動)を効率よく集める部分で外耳および中耳がその働きをする。
外耳は集音器として機能し、中耳は鼓膜の振動による音エネルギーを減少させないように内耳に伝える。感音系(auditory sensory system)は、空気の振動を活動電位に変換して大脳皮質に送るシステムで内耳がその働きをする。
内耳の蝸か牛ぎゅうcochleaにはリンパ液が満たされていて、アブミ骨の振動が前庭窓(卵円窓)の振動となり、リンパ液を振動させる。蝸牛の中にあるコルチ器(organ of Corti)には有毛細胞 hair cell があり、リンパ液の振動を感じて活動電位を発生させる。それが神経インパルスとなって大脳皮質に伝わり、音として認識される。
有毛細胞を取り囲む内リンパはカリウムイオン(K+)濃度が高く、K+が有毛細胞に流入することにより活動電位が発生する。ナトリウムイオン(Na+)が流入して脱分極を起こす一般の細胞と違っている。
骨伝導
伝音系が障害された場合でも内耳の感音系(コルチ器の有毛細胞と聴神経)に異常がなければ頭蓋骨からの骨伝導で音が聴こえる。
我々は自分の声を鼓膜で感知する空気の振動と骨伝導音の混合として聞いているので、自分の声をテープに録音して聞くと骨伝導の部分がないから他人の声のように感じる。聴力にも気導聴力と骨導聴力がある。
骨伝導を利用したイヤホンやヘッドホンがある。周囲に音を漏らさないことは通常のイヤホンやヘッドホンと同じであるが、耳はふさいでいないので警笛などの外部音も聞くことができる。ジョギングしながら音楽を聴くときなどに便利である。
NursingEye
中耳炎 otitismedia は小児に多い。それは、小児では耳管が成人に比べ水平に近いため、喉頭炎を起こしている細菌が中耳に入りやすいからである。小児が寝ながら食べたり、乳児に寝ながらミルクを与えることも同様の理由で避けたほうがよい。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版