血糖調節ホルモン|内分泌
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
今回は、血糖調節ホルモンについて解説します。
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
1. 血糖を低下させるホルモンはインスリンだけである。2. 血糖を上昇させるホルモンにはグルカゴン、アドレナリン、コルチゾールなどがある。
3. インスリンは、骨格筋細胞で、GLUT4を細胞膜に移行させることにより血糖値を下げる(図1)。
図1骨格筋に対するインスリンの作用
血糖調節ホルモンとは
血糖を低下させるホルモンがインスリンだけであるのに対し、上昇させるホルモンはインスリンと拮抗するグルカゴンだけでなく、アドレナリン、コルチゾール、甲状腺ホルモン、成長ホルモンなど多数ある(脂肪細胞から分泌されるレプチン〔leptin〕も代謝を亢進させ、血糖値を上昇させる、表1)。
表1血糖調節に関与するホルモン
世界の多くの国の人々は飢餓から解放されている。しかし、食糧に困らないようになったのは人類の歴史からみればつい最近のことで、ヒトも他の動物同様、満腹よりも飢えに耐えるための生体機能が優位になっている。このため、血糖を増加させるホルモンのほうが、低下させるホルモンよりも多いと考えられる。
このような動物一般の特性に反して暴飲暴食を繰り返すとインスリンの分泌が追いつかなくなり、また、インスリンの働きも低下(インスリン抵抗性)するため、膨大な数の糖尿病患者が生み出されている。
褐色脂肪組織の種類
脂肪細胞には白色と褐色の2種類があり、身体の脂肪組織の大半は白色脂肪組織(white adipose tissue)で、細胞内の大部分は中性脂肪である。一方、褐色脂肪組織(brown adipose tissue、BAT)は、ミトコンドリア (mitochondria)が豊富で、そのため褐色に見える(ミトコンドリアにある電子伝達系〔electron transport system〕の酵素はヘム〔heme〕を補欠分子族〔prosthetic group〕として含むので褐色に見える)。
BATには、電子伝達系を脱共役(uncoupling)させる脱共役タンパク質(uncoupling protein、UCP)があって熱産生を行う。この熱産生を非ふるえ熱産生(nonshivering thermogenesis)といい、体温調節機能が未成熟な新生児における体温維持や冬眠動物の覚醒に重要な働きをもっている。
UCPはBAT以外にも種々のアイソザイム(isozyme)が存在することが明らかになり(「UCPのアイソザイム」参照)、UCPの欠損と肥満(obesity)との関係が注目されている。脂肪組織にはアドレナリンのβ3受容体があり、アドレナリン刺激で脂肪分解、熱産生が促進される。この受容体の欠損も肥満につながる(「2アドレナリン受容体のサブタイプ」参照)。
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表1からも分かるようにインスリンは脂肪合成を促進させるので、インスリンの過剰分泌は肥満につながる。いわゆる早食いによって急激にインスリンが上昇すると特にその傾向が大きい。インスリンは「ため込むホルモン」という認識が必要である。
グルコースを摂取したときのインスリン分泌量に対し、グルコースと等量の糖質を摂取したときのインスリン分泌量の比をGI値(glycemic index)という。GI値が大きい食材のほうが、食後のインスリン上昇が急激で肥満につながるといわれている。同じデンプンでも粒食のほうが粉食よりもGI値が低い。
※編集部注※
当記事は、2017年3月17日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『図解ワンポイント 生理学 第2版』 (著者)片野由美、内田勝雄/2024年7月刊行/ サイオ出版