糖尿病|内分泌
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
今回は、糖尿病について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
糖尿病の診断基準
糖尿病の診断基準は、1999年に表1のように改定された(より厳しい基準になった)。
1型、2型および“3型”糖尿病
先天的なインスリン分泌の低下 insulin deficiency が1型糖尿病、インスリン分泌能力はあるがインスリンの作用が低下 insulin resistance (インスリン抵抗性)するのが2型糖尿病で、かつては小児は1型、成人は2型といわれた。しかし、小児の生活習慣が成人同様(不活動なのに過剰な飲食)になってきたため、いまでは小児でも2型糖尿病のほうが多い。
神経細胞もインスリンを分泌することが分かってきた。脳内でインスリン抵抗性が起こることと過剰に分泌されたインスリンがβ-アミロイドの分解を妨げ、アルツハイマー病 Alzheimer's disease を発症すると考えられ、アルツハイマー病が“3型”糖尿病と解釈されるようになった。
HbA1c
血中のグルコースが高濃度になるとヘモグロビン(hemoglobin、Hb)のβ鎖の末端にグルコースが結合して糖化ヘモグロビンglycohemoglobinを形成する。糖化Hbのなかで最も量が多いのがHbA1cである。
正常でもHbA1cは、全Hbのなかに4.3~5.8%存在するが、この割合が6.5%を超えると糖尿病と診断される。HbA1cは、血糖値と異なり、食事の影響を受けないこと、数か月にわたる血糖の状態を把握できるという利点がある。
無症候性虚血疾患
経口糖尿病薬の1つであるスルホニル尿素剤(SU剤)は、膵臓ランゲルハンス島B(β)細胞の膜に存在するATP感受性K+チャネル ATP-sensitive K+channel を閉じることによって、細胞膜を脱分極させる。その結果、電位依存型Ca2+チャネル voltage-dependent Ca2+ channel を開いて細胞外のCa2+を流入させる。そのCa2+によってインスリン分泌が起こる(図1参照)。
図1膵臓ランゲルハンス島B細胞におけるインスリンの分泌
したがって、インスリンの生合成ができない1型糖尿病にはSU剤は無効である。ATP感受性K+チャネルは心筋細胞膜にも存在し、心筋梗塞などで心筋壊死が起こると細胞内のATPが低下してATP感受性K+チャネルが開いてK+が細胞外に流出する。そのK+が知覚神経を刺激して心筋梗塞などの痛みを感じる。
SU剤がランゲルハンス島B細胞だけでなく心筋細胞にも作用した場合、K+チャネルを閉じるので心筋梗塞が進行しても痛みを感じないことがあって危険である。これを無症候性虚血疾患 silent ischemia という。
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SU剤とは異なるタイプの経口糖尿病薬として「DPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)阻害薬」が最近承認された。食後に血糖値が上がったときに小腸から分泌されるホルモンであるインクレチンはインスリンの分泌を促進させて血糖値を下げる。インクレチンを分解する酵素DPP-4を阻害するこの薬が血糖コントロールを容易にさせる。
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骨格筋および脂肪組織の細胞内に血中のグルコースが取り込まれるためにはグルコース・トランスポーターのGLUT4が必要である。GLUT4は他のグルコース・トランスポーターと異なり、最初から細胞膜に発現しているわけではなく、インスリンまたは筋収縮の刺激により細胞内から細胞膜に移行する。
インスリンと筋収縮は異なる細胞内情報伝達を介してGLUT4を細胞膜に発現させるので、インスリン抵抗性のある場合でも運動療法は有効である。筋収縮によるGLUT4の細胞膜移行には筋細胞内のAMPキナーゼという酵素が関与している。
経口糖尿病薬でも塩酸メトホルミン metformin hydrochliride は筋収縮による経路を活性化させることによりGLUT4を発現させる作用があるので、インスリン分泌を促進させるSU剤とは異なる機構で血糖値を下げる。DHEAにもGLUT4を細胞膜に移行させる作用があるといわれている。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版