下垂体後葉ホルモン|内分泌
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、下垂体後葉ホルモンについて解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
ADHとオキシトシン
下垂体後葉ホルモンには抗利尿ホルモン antidiuretic hormone (ADH)とオキシトシン oxytocin がある。
ADHとオキシトシンは、視床下部の室傍核でつくられ、神経軸索を通って下垂体後葉 posterior pituitary に運ばれる神経ホルモンである(『内分泌の特徴』参照)。ADHはバゾプレッシン vasopressin ともよばれる。
下垂体後葉ホルモンは、刺激ホルモンとしての前葉ホルモン(TSH、ACTH、FSHおよびLH)と異なり、内分泌腺に直接に作用して生理作用を示すホルモンである。その意味で、ADHとオキシトシンも、GHおよびPRLと同様に効果器ホルモンである。
ADHは腎臓の遠位尿細管 distal renal tubule および集合管 collecting tube における水分透過性を亢進させる結果、水分の再吸収が増え尿量を減少させる。ADHの分泌が低下すると、数十リットルに及ぶ大量の希釈された尿が排泄される。この疾患を尿崩症 diabetes insipidus という。口渇 thirst、多飲、多尿 polyuria という点で糖尿病 diabetes mellitus (DM)と似ている。
尿崩症と糖尿病
ギリシャ語の diabetes は英語の siphon に相当し、あふれるように尿が出ることを示している。mellit は、ラテン語で蜂蜜の意味である。一方、 insipid にはラテン語で無味の意味がある。すなわち、糖尿病と尿崩症は、多尿という共通点があるが、尿に糖(グルコース)が出ると出ないという相違がある。3,500年前の記録にあるとされる糖尿病に症状が似ていたので尿崩症にこのような名が付いた。
ギリシャ語で vasopressin の vaso は血管、 press は押さえるの意味がある。in は促進させる物質なので、結局、 vasopressin には血管収縮物質という意味がある。
オキシトシンの作用
オキシトシンには、①分娩時の子宮平滑筋収縮作用、②授乳時の乳汁射出作用がある。
①の作用は、卵胞ホルモンのエストロゲン estrogen によって促進され、黄体ホルモンのプロゲステロン progesterone によって抑制される(progesterone blockという)。
②の作用については、乳児が乳首を吸引する刺激がオキシトシンの分泌を亢進させる。
oxytocinのoxyには、ギリシャ語で鋭いという意味がある。toco には、同じくギリシャ語で分娩の意味がある。inは、tropinなどと同様に促進させる物質の意味である。すなわち、 oxytocin には「鋭く分娩を促進させる物質」という意味がある。ちなみに、酸素 oxygen は、鋭く舌を刺すような酸味の素という意味からきている。
NursingEye尿崩症とSIADH
血漿浸透圧の基準値は、約290mOsm/kgH2Oである。浸透圧受容器は視床下部にあり、血漿浸透圧がこの値より上昇するとADHの分泌が増加する。
浸透圧が上昇してもADHが分泌されない状態が尿崩症である。逆に血漿浸透圧がこの値よりも低いにもかかわらずADHが分泌される状態が不適切ADH分泌症候群 syndrome of inappropriate secretion of ADH (SIADH)である。
概念的に図示すると図1のようになる。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版