下垂体後葉ホルモン|内分泌
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、下垂体後葉ホルモンについて解説します。
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
Summary
- 1. 下垂体後葉ホルモンには抗利尿ホルモン(ADH)とオキシトシンがある。
- 2. ADHは、バゾプレッシンともよばれ、血漿浸透圧が上昇すると分泌される。
- 3. ADHは、集合管における水の再吸収を促進させて、血漿浸透圧を正常に戻す。
- 4. オキシトシンは、子宮の収縮を促進させる。
ADHとオキシトシン
下垂体後葉ホルモンには抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone、ADH)とオキシトシン(oxytocin)がある(表1)。
表1下垂体後葉ホルモン
ADHとオキシトシンは、視床下部の室傍核でつくられ、神経軸索を通って下垂体後葉(posterior pituitary)に運ばれる神経ホルモンである(「内分泌の特徴」参照)。ADHはバゾプレッシン(vasopressin)ともよばれる。
下垂体後葉ホルモンは、刺激ホルモンとしての前葉ホルモン(TSH、ACTH、FSHおよびLH)と異なり、内分泌腺に直接に作用して生理作用を示すホルモンである。その意味で、ADHとオキシトシンも、GHおよびPRLと同様に効果器ホルモンである。
ADHは腎臓の遠位尿細管(distal renal tubule)および集合管(collecting tube)における水分透過性を亢進させる結果、水分の再吸収が増え尿量を減少させる。ADHの分泌が低下すると、数十リットルに及ぶ大量の希釈された尿が排泄される。この疾患を尿崩症(diabetes insipidus)という。口渇(thirst)、多飲、多尿 (polyuria)という点で糖尿病(diabetes mellitus、DM)と似ている。
尿崩症と糖尿病
ギリシャ語の diabetes は英語の siphon に相当し、あふれるように尿が出ることを示している。mellit は、ラテン語で蜂蜜の意味である。一方、insipid にはラテン語で無味の意味がある。すなわち、糖尿病と尿崩症は、多尿という共通点があるが、尿に糖(グルコース)が出ると出ないという相違がある。3,500年前の記録にあるとされる糖尿病に症状が似ていたので尿崩症にこのような名が付いた。
ギリシャ語で vasopressin の vaso は血管、press は押さえるの意味がある。in は促進させる物質なので、結局、vasopressin には血管収縮物質という意味がある。
オキシトシンの作用
オキシトシンには、①分娩時の子宮平滑筋収縮作用、②授乳時の乳汁射出作用がある。
①の作用は、卵胞ホルモンのエストロゲン(estrogen)によって促進され、黄体ホルモンのプロゲステロン (progesterone)によって抑制される(progesterone block という)。
②の作用については、乳児が乳首を吸引する刺激がオキシトシンの分泌を亢進させる。
oxytocin の oxy には、ギリシャ語で鋭いという意味がある。toco には、同じくギリシャ語で分娩の意味がある。in は、tropin などと同様に促進させる物質の意味である。すなわち、oxytocin には「鋭く分娩を促進させる物質」という意味がある。ちなみに、酸素(oxygen)は、鋭く舌を刺すような酸味の素という意味からきている。
NursingEye尿崩症とSIADH
血漿浸透圧の基準値は、約290mOsm/kg H2Oである。浸透圧受容器は視床下部にあり、血漿浸透圧がこの値より上昇するとADHの分泌が増加する。
浸透圧が上昇してもADHが分泌されない状態が尿崩症である。逆に血漿浸透圧がこの値よりも低いにもかかわらずADHが分泌される状態が不適切ADH分泌症候群(syndrome of inappropriate secretion of ADH、SIADH)である。
概念的に図示すると図1のようになる。
図1血漿浸透圧と尿崩症およびSIADHの関係
※編集部注※
当記事は、2017年2月5日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『図解ワンポイント 生理学 第2版』 (著者)片野由美、内田勝雄/2024年7月刊行/ サイオ出版