腎臓の血流の特徴|尿の生成と排泄
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、腎臓の血流の特徴について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
腎臓の血流の特徴
腎臓の血流には2つの特徴がある。
- ①血流量が多い。
- ②毛細血管の血圧が高い。
臓器100gあたりの血流量を比較すると、腎臓が最も多く、安静時の概略値(mL/分/100g)は腎臓420、心臓80、肝臓60、脳54である。片方の腎臓の重量は約100gなので両方の腎臓で血流量は約1,000mL/分となり、腎血流量は心拍出量の約1/5に相当する。
一般に毛細血管の動脈側の血圧は約35mmHg(静脈側で約15mmHg)であるが、腎臓の毛細血管(糸球体)では例外的に約60mmHgと高い。
スターリングの仮説 Starling hypothesis によると、毛細血管では血圧による血管外への水の移動と膠質浸透圧 colloid osmotic pressure による血管内への水の移動が存在する。糸球体では、膠質浸透圧の約25mmHgに加えてボウマン嚢圧の約15mmHgが濾過の抵抗として働く。その抵抗に逆らって血漿を濾過して尿をつくるために糸球体の血圧は他の毛細血管の血圧よりも高くなければならないのである。
このような血流の特徴から腎臓は、血圧低下の検知器として働く。血圧が低下すると腎臓は尿をつくれなくなるので、腎臓の傍糸球体細胞 juxtaglomerular cell (JG細胞)に血圧低下を検知し、血圧を上昇させるシステムがある。それがレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系 renin - angiotensin - aldosterone system (RAAS)である。
スターリングの仮説(図1)
毛細血管において、血圧は血管外に水を押し出す作用をし、膠質浸透圧は血管内に水を引き込む作用をする。毛細血管の動脈側および静脈側の血圧は、それぞれ約35および15mmHgである。膠質浸透圧は主にアルブミンの濃度で決まり、動静脈に関係なく約25mmHgである。
したがって、動脈側では(35-25)の圧差で血管外に水が出て、静脈側では(15-25)の圧差で血管内に水が引き込まれる。このような超微細循環があるというのがスターリングの仮説 Starling hypothesis である。
腎臓では例外的に毛細血管の血圧が高く、血管外に水を出しやすく(濾過しやすく)なっている。逆に肺では毛細血管の血圧が低く、血管外に水を出しにくく(肺水腫になるのを防ぐ)なっている。
水は必ず浸透圧の高いほうに移動するという例外のない原則がある。膠質浸透圧は血管外ではほぼゼロなので、膠質浸透圧が高い血管内に水が移動する。電解質浸透圧は血管内外ともに約290mOsm/kgH2Oで差がないので、電解質浸透圧は膠質浸透圧よりも200倍以上高い値であるが水の移動には関与しない。
Nursing EyeACE阻害薬
ACE阻害薬 ACE inhibitor は、血圧上昇物質であるAⅡ(アンジオテンシンⅡ)の生成を阻害し、血圧降下物質であるブラジキニンの分解を阻害するので、二重の意味で有効な降圧薬 hypotensor である。
この両面の作用としてACE阻害薬は、血管には拡張、心臓には後負荷減少、腎臓にはNa+の再吸収抑制、副腎皮質にはアルドステロン分泌抑制の作用があり、血圧を低下させる。ACE阻害薬にはSH基をもつカプトプリル captopril、SH基をもたない塩酸イミダプリル imidapril hydrochloride などがある。副作用としては、喀痰を伴わない咳(空咳) dry cough がある。空咳がひどい場合は、AⅡ受容体拮抗薬が使われる。
Nursing Eyeクワシオルコル症候群kwashiorkorsyndrome
飽食の時代といわれる現代でも、地球上には飢餓に苦しむ地域がある。そのような地域の子ども達は乳児期には母乳でタンパク質が供給されるが、離乳期に入ったときに食料不足でタンパク質欠乏になる。これによって引き起こされるのがクワシオルコル症候群である。
クワシオルコルとはアフリカの言葉で“weaning disease"、すなわち離乳病を意味する(A.L.Lehninger:Principles of Biochemistry)。摂取するタンパク質が不足すると、身体はまさに身を切るように体内のアルブミンを消費する。アルブミンが減少すると、膠質浸透圧が低下して、組織液から毛細血管に戻る水分が減少して浮腫edemaが起こる。
手足が骨と皮のようにやせ細りながら、おなかはパンパンに腫れている子どもの写真を見ることがあるが、それは離乳病の子ども達である。
[次回]
腎臓の基本的機能|尿の生成と排泄
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版