高熱・熱中症|体温とその調節
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、高熱について解説します。
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
- 1. 高熱は、熱産生 > 熱放散となることに起因する。
- 2. 高熱には、解熱薬は無効で、物理的に冷却するしかない。
- 3. 高熱の特殊なものに吸入麻酔薬で起こる悪性高熱がある。
はじめに
高熱(hyperthermia)は、熱産生 > 熱放散となることに起因する。
高熱には解熱薬が無効である。高熱には冷風、氷などで物理的に身体を冷却する以外に対処法がない。
夏季に激しい運動を行った場合など暑熱環境で起こる高熱を熱中症(heat disorder)という。高齢者では発汗機能の低下や温熱に対する感覚低下により、運動をしなくても熱中症にかかるおそれがある(図1)。
図1熱中症予防の運動指針
(河原貴ほか:熱中症予防ガイドブック.p.12、日本体育協会、1999より改変)
悪性高熱症 〔 malignant hyperthermia 〕とは
吸入麻酔薬により骨格筋の熱産生が異常に亢進することによる高体温をいう。
骨格筋細胞の筋小胞体(sarcoplasmic reticulum、SR)から Ca2+が異常に放出され、筋収縮が亢進するためで、SRのリアノジン受容体(ryanodine receptor)の遺伝子異常との関連が示唆されている。
日本での発生頻度は1/60,000例であるが、20歳代男性では1/11,000例と高い。筋弛緩薬のダントロレン(dantrolene sodium)で治療する。抗精神薬の副作用として表われる悪性症候群(Neuroleptic Malignant Syndrome)も高熱を起こすが、別の疾患である。
熱中症の新分類
熱中症(heatstroke)は、暑熱環境で生じる熱平衡(heat balance)の破綻で、症状によりI~IIIに分類される(日本救急医学会、表1)。
表1熱中症の新分類
「中る」は「あたる」と読む。「中毒」は「毒にあたる」ことであり、「脳卒中」は「突然に脳があたる(血管障害が起こる)」ことである。「熱中症」は、「熱にあたる」疾患の総称である。
NursingEye
2003年の夏、猛暑に襲われたフランスで熱中症により多くの人が亡くなった。その大部分は高齢者であった。高齢になると発汗量が少なくなるので、熱中症に対する注意が特に必要である。
熱中症の患者は、汗をかきにくくなっているので、水を含ませたスポンジで体表面を濡らし、風を送ることにより蒸発による熱放散を人工的に行わせる。また、首、わきの下、足のつけ根など、太い血管が体表面近くにある部位をアイスパックなどで冷やすとよい。
手のひらには動静脈吻合(arteriovenous anastomoses)があるので、湿度が高く発汗が起きにくいときは、冷水を入れたペットボトルなどを握ると効率よく熱放散させることができる。
※編集部注※
当記事は、2016年11月25日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『図解ワンポイント 生理学 第2版』 (著者)片野由美、内田勝雄/2024年7月刊行/ サイオ出版