呼吸不全の状態|呼吸

看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。

 

[前回の内容]

血液と酸塩基平衡|呼吸

 

今回は、呼吸不全の状態について解説します。

 

内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授

 

Summary

  • 1. PaO2が60Torr以下に(SpO2が90%以下)に低下した状態を呼吸不全という。
  • 2. PaO2が50Torr以下になるとチアノーゼが現れる。
  • 3. PaCO2が上昇するとCO2ナルコーシスになる。

 

呼吸不全と動脈血O2分圧

呼吸不全(respiratory failure)は動脈血O2分圧 PaO2 < 60Torr となった状態である。チアノーゼ(cyanosis) が呼吸不全の特徴的外見症状である。

 

表1のように PaO2基準値は95Torrであるが、PaO2は年齢とともに低下する。

 

表1種々の状態でのO2およびCO2分圧および含量(安静時の標準値)

種々の状態でのO2およびCO2分圧および含量(安静時の標準値)

 

年齢を考慮したPaO2の目標値は下記の式で求められる。

 

PaO= 109 -(0.43×Age)Torr  (1)

 

例えば、80歳の場合、(1)式から、PaO2が75Torrでも許容範囲である。

 

また、PaO2の許容範囲は組織によっても大きく異なる。

 

は最も低酸素に弱く5分間の無酸素で回復不可能になるが、骨格筋は低酸素に強く、静止時ならば2時間の低酸素にも耐えられる。骨格筋は、SaO2=50%のときの PaO2(P50:約27Torr)程度まで低下しても耐えられる。

 

図1PaO2およびSaO2と呼吸不全

PaO2およびSaO2と呼吸不全

 

呼吸不全は、PaO2 < 60Torr となった状態であるが、これに加えて動脈血CO2分圧(PaCO2)が正常(40Torr、表1)よりも上昇した状態(表2、II型)は、より重症である。

 

表2呼吸不全の分類

呼吸不全の分類

 

PaCO2が上昇すると集中力がなくなったり、重症になると意識障害が起こり、陶酔したような状態(CO2ナルコーシス narcosis の症状)が現れる(自己陶酔 narcissism のような状態になることに由来する)。CO2ナルコーシスでは、PaO2が低下しているからといって急激にO2を投与すると自発呼吸が停止して危険である。人工換気でまず PaCO2を下げることが必要である。

 

NursingEye チアノーゼ

チアノーゼは還元ヘモグロビン(hemoglobin)濃度が5g/dL 以上になると現れる。ヘモグロビン濃度の基準値は、約15g/dLなので、このときの動脈血O2飽和度(oxygen saturation、SaO2)は、SaO2={(15-5)/15}×100 ≒ 67%となる。安静時の SaO2(SpO2)は約97%なので、この67%という値は相当低く、静脈血の酸素飽和度程度である。PaO2では、だいたい50Torr以下に低下したときのSaO2に相当する。ただし、貧血になるとヘモグロビンが減少するので、低酸素になってもチアノーゼが現れないことがあるので注意が必要である。チアノーゼ(cyanosis)は、cyanが示すように皮膚が青紫色になる。

Point

呼吸循環系に異常がなければ、嫌気的作業閾値(anaerobic threshold)程度の運動をしても換気の亢進で SPO2は基準値(約98%)を維持する。

 

しかし、高地では吸入気酸素分圧の低下で安静時でもSPO2が90%以下になる(高地でも大気圏なので空気中のO2濃度は平地と同じ約21%)。高度を変えて測定したSPO2心拍数とから動静脈O2較差が標高の2次関数で近似でき、動静脈O2較差 = 0となる高度(O2ボンベが必要になる高度に相当)が2次方程式の根から5,980mと得られた(Uchida K.Noninvasive estimation of mixed venous oxygen content.J Phys FitnessSports Med. 2014; 3 : 27-33)。

 

※編集部注※

当記事は、2016年9月18日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。

 

[次回]

消化管の構造と機能|消化吸収

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版

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