血液と酸塩基平衡|呼吸
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、血液と酸塩基平衡について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
pH-bicarbonateダイアグラム
表1の3通りのグラフ中で、アシドーシス、アルカローシスの評価が分かりやすいpH-bicarbonate(重炭酸)ダイアグラムについて概略を示すと図1のようになる。
図1pH-bicarbonateダイアグラム(酸塩基ダイアグラム)
図1で、緩衝線(buffer line) に沿ってpHaが低下した場合が呼吸性アシドーシス〔respiratory acidosis〕(RAc)、pHaが上昇した場合が呼吸性アルカローシス〔respiratory alkalosis〕(RAl)、等PaCO2線isoPaCO2lineに沿ってpHaが低下した場合が代謝性アシドーシス〔metabolic acidosis〕 (MAc)、pHaが上昇した場合が代謝性アルカローシス〔metabolic alkalosis〕(MAl)である。
なお、緩衝線の勾配は、緩衝価(buffer value)に相当し、血液について緩衝価の標準的な値は、29mEq/L/pHである。緩衝価の単位mEq/L/pHをスライク〔米国の生化学者D.D. Van Slyke(1883~1971)に由来〕という。
pHの維持
血液はO2、CO2の運搬だけでなく、酸塩基平衡(acid-base equilibrium)の維持にも重要な役割を果たしている。CO2の水和反応は、炭酸脱水酵素〔carbonic anhydrate〕(CA)の存在下に進行する。
この反応の左側はCAがないと非常に遅く、律速反応になっている。CAは赤血球内にあり、血漿を通して運ばれてきたHCO3-は赤血球に入り、(1)の反応でCO2になり肺胞に排出される。CAは赤血球(CO2排出)のほか、胃底腺の壁細胞(胃酸分泌)、近位尿細管の上皮細胞(H+排出)などにある。これらの細胞に共通するのは酸産生細胞ということである。
(1)の平衡反応に平衡式の法則(mass action law)を適用すると、平衡定数Kは
と書ける。
CO2の溶解度係数(solubility coefficient)をαとすると[CO2]=αPaCO2であり、溶質に比べて水は大量にあり[H2O]は一定と考えてよいので(2)式は
となり、ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式(Henderson-Hasselbalch equation)が得られる。
血液ガス検査では、採取した動脈血血漿のpHとPCO2を血液ガスアナライザーで測定して、(3)式から[HCO3-]を算出する([HCO3-]は、pHやPCO2と異なり簡単に測定する方法がない)。
生理的なpHaおよび温度ではpK'=6.1およびα=0.03mmol/L/Torrなので、(3)式はpHa、[HCO3-]aおよびPaCO2の3つの変数からなる式と考えることができる。3つの変数から2つを選んでx軸およびy軸にとる方法は表1に示す3通りがある。
アシドーシスを防ぐ肺と腎臓
生体はATPを産生するときにCO2やH+という酸性物質をつくるので、生体はアシドーシスに傾く宿命にある。それを防いでいるのが肺と腎臓である。肺機能が低下すれば呼吸性アシドーシスになり、腎機能が低下すれば代謝性アシドーシスになる。呼吸性アシドーシスの特徴はPaCO2の上昇、代謝性アシドーシスの特徴は[HCO3-]aの減少である。
NursingEyeアニオンギャップ
血漿中の陽イオン(Na+)濃度と陰イオン(HCO3-+Cl-)濃度の差をアニオンギャップという。代謝性アシドーシスには、アニオンギャップが増加する場合(糖尿病性、乳酸性など)と増加しないで基準値(12mEq/L)を保つ場合(尿細管性、下痢など)に分類できる。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版