肺胞気および動脈血のO2およびCO2分圧|呼吸
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、肺胞気および動脈血のO2およびCO2分圧について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
Summary
〈目次〉
肺胞気のO2およびCO2分圧を推定する肺胞気式
混合気体は、その成分量に比例する圧をもつ。この圧を分圧という。
肺胞気のO2およびCO2分圧(PAO2、PACO2)は、ガス交換状態を把握するために知らなければならない重要な量であるが、直接測定することは困難である。近似的には呼出最後に出てくる呼気終末 end tidal のガスを採取し、測定することでPAO2およびPACO2を推定できる。
CO2については肺胞気-動脈血間の分圧較差が無視できるので、動脈血のCO2分圧(PaCO2)を測定してPACO2とすることが行われる。すなわち、
PACO2=PaCO2・・・(1)
しかし、O2については、後述のように健常者でも肺胞気-動脈血間の分圧較差(AaDo2)が存在するので、以下に述べるような肺胞気式を使ってPAO2を推定する。
PAO2=PIO2-〔FIO2+(1-FIO2)/RQ〕PACO2・・・(2)
ここで、PIO2およびFIO2は、それぞれ吸入気のO2分圧および濃度である。
この肺胞気式は、O2摂取量(Vドットo2)およびCO2排出量(Vドットco2)を求める式をRQ=Vドットco2/Vドットo2に代入して式を整理すれば得られる(RQ:呼吸商)。(※)
〔〕内は、{(RQ-1)FIO2+1}/RQと変形できるが、(RQ-1)FIO2≪1であることを考慮すると
PAO2=PIO2-PACO2/RQ・・・(3)
とみなすことができる。
さらに空気呼吸時でPIO2≒150Torr、RQ≒0.8とし、(1)を使えば、
PAO2=150-PaCO2/0.8・・・(4)
となり、測定可能なPaCO2だけからPAO2を推定することができる。
PaCO2=40Torrの標準値のときはPAO2=100Torrとなる(表1)。
表1種々の状態でのO2およびCO2分圧および含量(安静時の標準値)
AaDo2の成因
肺胞気-動脈血O2分圧較差 alveolar-arterial oxygen difference (AaDo2)の成因には、①換気血流比不均等分布 ventilation-perfusion ratio inequality、②シャントshunt、③拡散障害 diffusion disturbance の3つがある。
重力を受けながら生活することに起因する①および解剖学的な血管走行に起因する②は健常者でも存在し、約5TorrのAaDo2がある。肺疾患があると③が加わり、AaDo2は30~40Torrにまで開大する。
シャント
右心室から肺動脈に流入した混合静脈血は、通常、肺の毛細血管を通過するときに肺胞と接触し、酸素化されて動脈血となって肺静脈から左心室に流入するが、このルートが短絡されて、混合静脈血が酸素化されずに流出することがある。この現象をシャントという(図1)。
[次回]
⇒この〔連載記事一覧〕を見る
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版