最終更新日 2018/01/29

PAO2

PAO2とは・・・

PAO2(ぴーえーおーつー)とは、肺胞気酸素分圧のことで、肺胞内の酸素の分圧を表す。

 

単位はTorr(とる:トルチュエリの略)、またはmmHg(みりめーとるえいちじー)。日本では、生体内の圧力の単位としてTorrを、血圧を示す単位としてmmHgを使うことが慣習である。なお、国際的にはPa(パスカル)を使う。

 

分圧とはその気体がもっている圧力のことで、圧力の比は濃度に置き換えることができる。たとえば、1気圧の空気中の酸素の分圧は約160 Torrである。大気圧(1気圧)は760 Torrなので、酸素濃度は160÷760≒0.21すなわち21%となる。また、二酸化炭素は空気中にほとんど存在しないため分圧は0 Torrである。

 

PAO2の定義(計算式)

「肺胞気酸素分圧(PAO2)=(大気圧〈PB〉-飽和水蒸気圧)✕ 吸入酸素濃度(FiO2)-動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)÷呼吸商」

 

の式で定義される。
上記の式で多くの場合、大気圧=760 Torr、飽和水蒸気圧=47 Torr、呼吸商=0.8で求められる。PaCO2動脈血液ガス分析で測定され、健常人であればPaCO2=40 Torrで一定であるため、下記のように定義できる。

 

PAO2=(760-47)✕FiO2-40÷0.8 

 

この式で、FiO2とは吸入酸素濃度のことで、吸入される酸素濃度が大きくなればPAO2も大きくなる。空気の場合、FiO2=0.21となり、上記の式は以下に変換される。

 

PAO2=(760-47)✕0.21-40÷0.8≒100 

 

1気圧の室内環境にいる健常人の多くが、上記の値に近似する。

 

PAO2の使用法

A-aDO2(えーえーでぃーおーつー)を計算する際に有用である。A-aDO2とは、肺胞のガス交換の状態を示し、この値で低酸素血症の原因が鑑別できる。

 

肺胞気動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)=肺胞気酸素分圧(PAO2)-動脈血酸素分圧(PaO2)」

の式で定義される。
PaO2は動脈内の酸素分圧のことで、血液ガス分析で測定される。これも血液ガスで測定される。
A-aDO2は肺胞に流れ込む酸素の分圧と肺胞内の実際の酸素の分圧の差を示している。理想の値は0であるが、現実は解離があり、A-aDO2の正常値は5~15 Torrである。

 

低酸素血症の患者の場合、A-aDO2の値が診断の参考になる。

 

A-aDO2<15 Torr

PaO2が低下している場合でも、肺胞でのガス交換には問題がないことを示す。この場合は、PaCO2が高いため、換気が少ないこと(肺胞低換気)による肺胞での酸素不足による低酸素血症を想起する。

 

A-aDO2>20 Torr

肺胞でのガス交換に障害があることを示す。障害は、(1)拡散能低下(2)シャント(3)換気-血流(VA/Q)不均衡の3つに分けられる。具体的には、下記の通りである。 
(1) 拡散能低下:肺炎などの肺胞の障害 
(2) シャント:肺塞栓症などの血流の問題 
(3)換気-血流(VA/Q)不均衡:肺血流の多い部分と換気の多い部分との釣り合いが悪い状態を指し、特に重症な肺炎で顕著である。すべての肺の障害に起こり得る。

 

以上のように、PAO2を吸入酸素濃度(FiO2)とPaCO2から求め、PaO2との差=A-aDO2を計算することは、肺胞に流れ込む酸素分圧を知りうるだけでなく、低酸素血症の原因を鑑別するためにも有用である。

執筆: 江角 亮

三重大学医学部附属病院 救命救急センター医員

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