解糖系と糖新生|栄養と代謝
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、解糖系と糖新生について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
解糖系〔 glycolytic pathway 〕とは
活動に必要なエネルギーは、栄養素(糖質・脂質・タンパク質)を代謝し、熱やATPに変換することによって得られるが、一般にエネルギーの産生には酸素が必要である。
しかし、糖質の代謝では酸素がなくてもエネルギー(ATP)を少量産生する過程がある。この過程を解糖系という(図1)。
解糖系では、グルコース(ブドウ糖)をピルビン酸(pyruvic acid)または乳酸(lactic acid)まで分解してATPを産生するが、酸素を必要としないので嫌気的解糖(anaerobic glycolysis)ともよばれる。
解糖系は、エネルギー産生に深く関与するミトコンドリア(「細胞の構造と機能(2)」図1参照)をもたない赤血球でも存在するATP産生系である。解糖系に関与する酵素は一般に細胞質に存在するが、ヘキソキナーゼ(hexokinase)は脳などではミトコンドリアに結合して存在する。解糖系では、グルコース1分子からATP2分子がつくられる。解糖系でグルコースから得られたピルビン酸は、TCA回路に入ってさらにATPに変換される(『TCA回路』参照)。
糖新生〔gluconeogenesis〕とは
解糖系の逆で乳酸、ピルビン酸からグルコースを合成する反応を糖新生という。アミノ酸やグリセロールからグルコースを合成する反応も糖新生という。解糖系と糖新生は完全な可逆反応ではなく、図1に示した酵素(調節酵素 regulatory enzyme)が関与する反応は不可逆である。糖新生があることにより、糖質を摂取しない肉食動物もヒトと同じくらいの血糖値を維持することができる。
ヘキソキナーゼとグルコキナーゼ
解糖系の第一段階に関与する酵素であるヘキソキナーゼ(hexokinase)は、肝臓ではグルコキナーゼ(glucokinase)として存在する。グルコキナーゼとヘキソキナーゼは互いにアイソザイム(isozyme*)で、いずれもグルコースをグルコース-6-リン酸〔glucose-6-phosphate(G6P)〕にリン酸化する酵素であるが、表1のような相違点がある。
グルコキナーゼはグルコースのみを基質として、しかもKmが約10mMと大きいので食後に血糖値が高くなったときに重要な働きをする(空腹時血糖値の基準値は、約90mg/dL=5mMで食後は2倍程度に上昇する)。肝臓に取り込まれたグルコースはG6Pにリン酸化され、グルコキナーゼは生成したG6Pによる阻害を受けないので効率よく反応が進みグリコーゲンを合成して貯蔵する。
肝臓へのグルコース取り込みはインスリンに依存しない(表2 GLUT2)が、糖尿病(diabetes mellitus)の患者ではグルコキナーゼが不足するので肝臓でのグリコーゲン合成が進まず、その結果、グルコースの取り込みも進まない。すなわち、食後に血糖値が高くなっても肝臓でグルコースが取り込まれないことになる。
NursingEye
グルコース・トランスポーター(表2)のなかでGLUT4だけは細胞内に存在する。血糖を下げるにはGLUT4を細胞内から細胞膜に移行させることが必要で、その機構として①インスリンと②筋収縮(運動)がある(『血糖調節ホルモン』図1参照)。経口糖尿病薬のスルホニル尿素薬〔sulfonylureas〕(SU薬)は、膵臓のランゲルハンス島B(β)細胞に作用してインスリン分泌を促進させる。糖尿病に運動療法が有効なのも②の機構に基づく。
[次回]
TCA回路|栄養と代謝
⇒〔ワンポイント生理学〕記事一覧を見る
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版