発作性上室性頻拍|P波が見つからない心電図(4)
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看護師のための心電図の解説書『モニター心電図なんて恐くない』より。
[前回の内容]
今回は、発作性上室性頻拍について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
〈目次〉
発作性上室性頻拍とは
では、図1の心電図。
全体像はどうでしょう。幅の狭い正常QRS波が規則正しく出ているようです。P波は、少なくともQRS波の前には見えません。PP間隔も不明ですね。
ディバイダーでRR間隔をチェックしてみましょう。一定で約10コマですね。0.04×10=0.4秒周期で規則正しく心室は興奮しています。心拍数は1500÷10=150回/分で100以上ですから頻拍ですね。
これは、発作性上室性頻拍(paroxysmal supraventricular tachycardia:PSVTまたはSVT)です(以下、PSVTと記述)。
“発作性”は心房細動、心房粗動でも説明しましたが、洞調律の状態から突然、発作的に発症するという意味です。“上室性頻拍”はヒス束より上つまり上室が原因の頻拍という意味で、ヒス束以下は順序正しく伝導して心室が興奮しますので、洞調律と同じ形の幅の狭いQRS波の頻拍です。
このままの定義だと、幅の狭いQRS波の頻拍で、発作性に出現するもの、たとえば心房頻拍、発作性心房細動・粗動も含まれてしまいますが、現場ではリエントリーの関与する上室性頻拍、本コラムではとくに房室結節をリエントリー回路に含む上室性頻拍をPSVTとします。
ではリエントリーの復習です。簡単にいうと興奮の旋回ですが、その輪のなかには、一度興奮した心筋が不応期から脱するための時間的余裕をつくる目的でゆっくり伝導してタメをつくる部分が必要です。ゆっくり伝導してタメをつくる……まさに房室結節ですね。
房室結節を含むリエントリー回路を興奮がグルグル回っている不整脈がPSVTです。この回路は2種類あります。
1つは、房室結節周囲で興奮はゆっくり時間をかけて房室結節内に入って、比較的速い速度で房室結節から心房側へ抜けるルートです。ゆっくり伝導する経路をスローパスウェイ(slow pathway)、素早く伝導する経路をファストパスウェイ(fast pathway)といいます。
図1の心電図をもう一度よく見てもらうと、Ⅱ誘導、Ⅲ誘導、aVFのQRS波の直後に陰性のP波が見られます。このP波は、洞性ではなく房室結節から素早い伝導(ファストパスウェイ)で心房に入って、心房を下から上に興奮させますので、Ⅱ誘導、Ⅲ誘導、aVFでは陰性のP波(非洞性なのでP′波とします)として現れます。
この心房興奮は時間をかけて房室結節内をヒス束に伝導(スローパスウェイ)して心室を興奮させますから、P′波から次のQRS波は間隔があいています。
房室結節を含めて、その周囲を旋回しているリエントリー回路によるPSVTで、房室結節回帰性頻拍(AVNRT)といいます。心房興奮(P′波)からヒス束までの伝導時間によっては、P′波がQRS波内に埋もれて判別できないことがあります。
もう1つの回路は、心房心室間にヒス束以外の伝導路がある場合です。これは副伝導路といい、人口1000人に数人いるといわれています。
房室結節をゆっくりヒス束に順行伝導して心室が興奮し(ヒス束・脚・プルキンエ線維と伝導しますから正常のQRS波です)、この興奮が副伝導路を心房側へ逆行伝導して心房を下部から上部へ興奮(下から上ですから陰性のP′波になります)させます。
房室結節と副伝導路を含む興奮の輪がグルグル回転しているPSVTで房室回帰性頻拍(AVRT)といいます。
この2つがPSVTのほとんどすべてを占めます。まれに洞結節周囲のリエントリーによる頻拍がありますが、この場合はP波(洞調律に似た形のP波)が見られます。
AVNRTもAVRTも、P波がQRS波に埋もれてよくわからないことが多く、たとえ判別できても、PSVT発作中の心電図でこの両者を鑑別するのは困難です。
しかも、接合部調律(前述)もQRS波に陰性P波が埋没していますから、頻拍傾向の接合部調律との鑑別も問題になります。
以下の点で区別しましょう。
- 接合部調律:頻拍になることはほとんどない。突然心拍数が変化することはない。
- 発作性上室性頻拍:150~200回/分程度の頻拍になることが多い。洞調律が基本で突然頻拍発作が起こる。
ちなみに、PSVTの心拍数は、リエントリー回路の興奮旋回速度で決まります。0.4秒で1回転すれば、1回転に1回心室と心房が興奮しますから、心拍数は60÷0.4=150回/分になりますね。
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では、日本列島新聞。キーマンは房室結節ゲートオジさんです。このオジさんと周囲の心房北海道地域が新聞配達の輪をつくって新聞を順番に出しています。ヒストンネルに入った新聞は、脚高速・プルキンエ高速から心室各家庭に通常とおりの流れで配達されます。
また、ヒストンネルとほぼ同時に素早く心房北海道に新聞が戻り、心房北海道南部から北部に新聞が配達され、通常とは逆順に心房の興奮が波及します。洞結節宗谷岬は新聞が届き続け、リセットし続けています。
タイミングとしては、心室本州と心房北海道への配達がほぼ同時に行われることになります。この新聞の輪のスピードは、房室結節ゲートオジさんのところで遅くなります。
したがって、北海道の逆行性配達(下向きP′)の後、房室結節ゲートオジさん通過、本州QRSまでは少し間が空きます。この繰り返しがPSVTになり、RR間隔は命令の輪の回転速度に依存します。
発作性上室性頻拍の対応
洞調律から突然150回/分以上の頻拍になるわけですから、動悸や胸部不快感、場合によっては循環不全による血圧低下、冷汗、失神などが起こる場合があります。
房室結節を含むリエントリー回路の旋回ですから、房室結節の伝導を抑えて不応期を延長すると、旋回できなくなって頻拍が停止し、洞調律に復帰します。
房室結節の伝導を抑える方法としては、頸動脈マッサージや息こらえによって、迷走神経を亢進させる方法、ATP(アセチルコリン製剤)、ベラパミル(カルシウム拮抗薬)などの薬剤を用いる方法があります。根治的には、カテーテルを用いて回路の一部を焼いて伝導できなくするアブレーションという治療法もあります。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 モニター心電図なんて恐くない』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版