1度房室ブロック
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看護師のための心電図の解説書『モニター心電図なんて恐くない』より。
[前回の内容]
今回は、1度房室ブロックについての解説です。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
〈目次〉
PQ間隔が長い、P波のあとにQRS波がない心電図
ここまでは、不整脈の解析を心房リズムから読み解く勉強をしました。心房は川の上流にあたります。川上の心房の流れが速いか、遅いか、乱流かで川下の心室のリズムも変わります。
ここからは、川上心房と川下心室の間にある、房室接合部ダムと、川下心室の流れについて勉強します。
正常の心臓の興奮は、洞結節から始まり心房から房室伝導を経て心室と伝導します。川が源流から下流へ流れるのと同じです。房室接合部はダムのようなもので、興奮をためて心室に放流するのを遅らせます。
また、上流の心房が乱流、濁流になってしまった場合、下流の心室が氾濫しないように水量を調節しています。
心房を興奮させた信号は、房室接合部で潜行します。房室接合部は、心房内にある房室結節と心室につながるヒス束を合わせた房室間のつなぎ部分で、伝導を遅らせるのは房室結節です。この興奮潜行部分は、心電図ではPQ間隔に反映されます。
房室伝導をチェックする場合、まずP波の後にQRS波があるかどうか確認します。
最初に全体の流れを見てリズムを確認していれば、まず見落としはないと思います。しかし、P波の後にQRS波がなければ、心房の興奮が心室に伝わっていないということになり、これは異常ですね。
次にPQ間隔をチェックしましょう。P波の始まりからQRS波の始まりまでの間隔で、心房興奮の開始から心室興奮の開始までの時間を意味しています。
さらに各心拍で、PQ間隔が一定かどうかを確認し、その間隔を計測しましょう。下限は0.12秒(=3コマ)、上限は0.20秒(=5コマ)です。0.12秒未満はPQ短縮、0.21秒以上はPQ延長といいます。
短縮は房室接合部の伝導速度が速すぎるか、ヒス束以外に伝導路がある場合(副伝導路)に見られます。
延長は房室接合部の伝導速度が遅いために房室伝導に時間がかかっていることを示しています。
以上の判定には条件がつきます。
PQ間隔チェックは、あくまでもP波が洞性P波の場合のみです。洞結節からの信号で心房が興奮して、房室接合部を経て心室に至る場合の基準です。
たとえば、上室性期外収縮が早いタイミングで発生すると、房室結節の不応期にあたり心室に伝導しない場合があります。これを非伝導性上室性期外収縮といいますが、これは房室結節の伝導が本質的に悪いわけではなく、期外収縮のタイミングが早すぎたために、房室伝導が機能的にブロックされた結果です。
また、たとえば心房頻拍で、心房が250回/分の心拍数で暴走した場合は、房室結節の心室保護機能(不応期が長いという性質)で、ある程度の心房興奮をブロックして心室に伝えません。これも機能的なブロックといえます。
さらには、心房細動や心房粗動ではP波自体がないのでPQ間隔を判定しようがありませんよね。ですから、PQ間隔の判定はあくまでも洞調律、洞性P波の場合にかぎります。
1度房室ブロック
図1の心電図はいかがでしょうか。
P波は規則正しく出ていて、その間隔は約20コマですから、心房の心拍数は約75回/分程度で、形もおかしくないので正常洞調律です。
では、PQ間隔はどうでしょうか。P波の始まりから数えると、なんと7コマすなわち0.04×7=0.28秒もあります。
QRS波は幅が狭く、心室内は正常伝導路を通って、心安らかに収縮が完結しているようです。
つまり、この心電図はPQ間隔だけが異常に長いが、後は正常ということになります。PQ間隔は房室結節での電気の潜伏時間を反映していますから、この場合は、房室結節での伝導時間が長いということです。
このようにPQ間隔は一定で、5コマすなわち0.20秒を超える場合を、1度房室ブロック(A-V block、atrioventricular block)といいます。房室とは心房心室間のことですが、PQ間隔は長いといえども心房の興奮は心室につながっています。それなのに、ブロックというのはおかしいような気もしますが、用語の取りきめなのであしからず。
房室結節青函トンネルゲートのオジさんの仕事が遅いんですね。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 モニター心電図なんて恐くない』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版