2度房室ブロック
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看護師のための心電図の解説書『モニター心電図なんて恐くない』より。
[前回の内容]
今回は、PQ間隔が長い、P波のあとにQRS波がない心電図の解説の2回目です。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
〈目次〉
2度房室ブロック(ウェンケバッハ型)
「1度あれば2度ある」のが世の常です。図1の心電図はどうでしょう。
図12度房室ブロック(ウェンケバッハ型)の心電図とブロック位置
ではディバイダー。全体を見ると……どうも乱れていますね。何かおかしいですね。
洞調律で、洞不整脈はありますが心房は正常のリズムで、約68回/分くらいですね。問題は房室伝導です。房室伝導はPQ間隔に反映されています。
この心電図では、1~3拍までのPQ間隔は、5コマ、7コマ、8コマと徐々に延長して、4拍目のP波の後にQRS波が見られません。この4拍目の心房興奮は心室に伝導されなかった、すなわちブロックされたのです。その次の5拍目のP波の後には、QRS波が続いていますね。QRS波は、幅が狭くヒス束~脚~プルキンエ線維を正常に伝導しています。
2拍以上伝導して、1拍だけブロックされるタイプを2度房室ブロック(2nd degree AV block)と定義しました。この2度房室ブロックには2種類あって、このように房室伝導時間すなわちPQ間隔が徐々に延長して、1拍だけブロックされる2度房室ブロックをウェンケバッハ型(Wenckebach type)とよびます(モビッツ〔Mobitz〕Ⅰ型2度房室ブロックともいいます)。
この“徐々に延長する”という性質は、房室結節特有のものです。房室結節は他の心筋組織のなかでもとりわけ伝導速度がゆっくりです。
房室結節は、興奮が通過すると不応期に入りますが、不応期から脱した直後あたりに次の興奮が進入してくると、もともと伝導速度が遅いくせに、さらにゆっくりと伝導します。時間をかけて通過するので、さらに長い不応期を残して、その次の興奮がまた輪をかけて遅い伝導になり、しまいにブロックされてしまいます。
ブロックされると、次の興奮が来るまで1拍分時間が空くのでリフレッシュして、伝導機能は元気になり、不応期、伝導速度が回復します。この繰り返しがウェンケバッハ型2度房室ブロックです。
PQ間隔が徐々に延長するというのが、房室結節の特徴です。房室結節青函トンネルゲートのオジさんが疲れて、だんだんスローペースになって、数回に1回お休みしてしまいます。
2度房室ブロック(モビッツⅡ型)
わざわざ「ウェンケバッハ型」というからには別の型の2度房室ブロックもあるのでは、とお疑いのあなた。あなたは鋭い!
図2の心電図がそうです。
PP間隔は一定で洞リズムですから、少なくとも心房興奮は正常ですね。QRS波も幅が狭く心室内の伝導は正常のようです。問題は房室間の伝導にあります。2拍以上の房室伝導(P波とQRS波がつながった)があって後に、1拍だけ房室間にブロックをきたす(P波とQRS波がつながらない)という状態は、2度房室ブロックです。
2度房室ブロックのうち、この心電図のようにPQ間隔の延長なしに心室への伝導が1拍ブロックされるタイプをモビッツⅡ型(Mobitz type Ⅱ)といいます。
ウェンケバッハ型(モビッツⅠ型)との本質的な違いは、ウェンケバッハが房室結節内のブロック(PQ間隔が徐々に延長してQRS波が脱落)であるのに対して、モビッツⅡ型はヒス束より下位のブロック(なんの前触れもないQRS波の脱落)であるという点です。
ヒス束内の伝導障害あるいは、両脚を含む心筋の広い範囲の伝導障害が原因です。房室接合部青函トンネルを抜けて本州の料金所が、なんの前触れもなくストライキに入るのです。
ここで、2度房室ブロックを復習しておきましょう。
まず2度ブロックは“2拍以上連続した房室伝導後に1拍のみQRS波が脱落”するものです。なぜ“2拍以上連続”かといえば、2拍以上連続して伝導していないと“徐々に延長して”か“延長なしに”ブロックされるかが判定できないためです。表1にして対比しましょう。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 モニター心電図なんて恐くない』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版