洞不全症候群|洞性P波から読み解く不整脈(4)
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[前回の内容]
今回は、洞不全症候群について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
〈目次〉
洞不全症候群とは
症候群とは、ある病的異常に起因して発生する一連の症状をきたす疾患です。洞不全症候群(sick sinus syndrome:SSS シックサイナスシンドローム)は、洞機能の低下による徐脈や一過性の心停止による症状を呈します。
具体的には徐脈の持続による倦怠感や息切れ、心不全症状、また一過性の心停止による、脳虚血症状でめまい、失神が出現します。洞機能が低下する原因は、
であり、このように原因があるものは、洞不全症候群とはいわず、続発性(二次性)または症候性洞機能不全といいます。
洞不全症候群は高齢者に多いので、洞結節の変性、細胞自体の機能低下が原因と考えられています。洞不全症候群も続発性洞機能不全も結局、現象としては洞結節からの信号が出にくい、出ないというのが本質です。
では、洞機能不全とはどんな心電図になるのでしょう。
持続性洞性徐脈
図1の心電図で説明しましょう。
P波は上向きで洞性P波のようですが、PP間隔が著しく延長していますね。規則正しい間隔ですが、PP間隔は約40コマで、心拍数にすると1500÷40=38回/分と随分ゆっくりの心臓です。PQ間隔、QRS波の幅は問題ないので、洞性徐脈です。
この患者さんはめまいや倦怠感を訴えていて、夜間は20台の心拍数であり、1日中洞性徐脈が続くので持続性洞性徐脈といいます。持続性洞性徐脈による症状がありますので洞不全症候群と診断されます。
洞停止
大分慣れたでしょうから、図2の心電図ではPP間隔だけを見てみましょう。
3拍目まではPP間隔が37コマで延長していますが、規則正しく洞性徐脈ですね。しかし、4拍目は108コマ(0.04×108=4.3秒)の間にP波は見られず、PP間隔は著明に延長していますね。
P波が出ないということは洞結節から信号が出ていないことを意味し、このように3秒以上P波が見られない場合を洞停止(sinus arrest;サイナス アレスト)といいます。
洞房ブロック
図3の心電図をぱっと見て4拍目までのリズムと5・6拍目のリズムが違うのがわかりますね。
PP間隔は4拍目まで25コマ(0.04×25=1秒)ごとに一定に出現していますが、その後50コマ(0.04×50=2秒)に延長しています。心拍数でいうと60回/分から30回/分に減少しています。
何か気づきましたか。そうですねPP間隔がちょうど2倍になっています。当然心拍数は半分になっています。
これは、洞結節からは25コマ(1秒)間隔で信号が発信されているのに、心電図上の4個目と5個目の間の洞結節からの信号が心房に伝わらなかったのです。次の洞結節の信号は心房に伝わり5個目のP波になっています。ですから4・5心拍間のPP間隔は、洞周期25コマのちょうど2倍になっているのです。
これは洞結節自体ではなく、洞結節の出口で信号がブロックされて起こり、洞結節-心房間のブロックで洞房ブロック(SA block:エスエーブロック)といいます。
もしも、2回連続で洞結節からの信号が洞房ブロックを起こせば、PP間隔は基本洞周期の3倍、3連続で洞房ブロックが起こればその部分のPP間隔は基本洞周期の4倍になります。
つまり、基本洞周期の整数倍(通常は2倍が多い)にPP間隔が延長していれば、洞房ブロックといえます。
洞房ブロックは、洞結節自体は正常に機能していますが、心房への伝導が悪いために心房が興奮しないわけです。しかし現象としてはP波が出ないので、洞不全症候群として扱います。洞結節には少し気の毒ですね。
徐脈頻脈症候群
図4の心電図を見てみましょう。
図4徐脈頻脈症候群の心電図
5拍目まではP波がはっきりせず、基線がゆれています。QRS幅は3コマ以内で同じ形ですが、RR間隔は一定ではありません。
これは心房細動という不整脈で、心房が痙攣していて不規則に興奮して無秩序に信号を出している状態です。心室にも不規則な間隔で伝導しますので、心室のリズムも不規則になります。
このとき洞結節はどうなっているかというと、心房からの土砂降りのような電気信号が連続して洞結節に入力し、連続してリセットされています。リセットが連続して起こると洞結節はお休みモードに入り、いざ信号を出すときにサボり癖がついて、時間がかかります。
この現象をオーバードライブ・サプレッション(overdrive suppression)といいます。
正常洞結節でも、1~2秒程度のオーバードライブ・サプレッションは見られますが、洞結節に機能不全があると、この現象は著明になります。
心電図に戻ってみますと、5拍目以降、心電図は基線となって、心臓のどこも興奮していない状態が90コマ(0.04×90=3.6秒)続いています。この部分は洞停止といえますね。
さて3.6秒後にP波が出ないまま、同じ形の狭いQRS波が見られます。これは、心房からの興奮が心室にやってこないため、接合部で自動能が働き、信号が発生して、心室を興奮させています。
なぜ接合部といえるかといえば、同じ形で狭いQRS波というのは、ヒス束~脚~プルキンエ線維は通常どおりの順序で伝導・興奮していることを表していますから、その上位の接合部で出現した信号と判断できます。
このように、長い洞停止が続けば、下位の自動能が働き補充調律が出現することがよくあります。心房が頻拍となって、洞結節が連続してリセットされた後に、頻拍が停止しオーバードライブ・サプレッションで洞停止をきたすものを徐脈頻脈症候群(brady tachy syndrome:ブラディータキシンドローム)といいます。
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4種類の分類を示しましたが、本質は洞機能または周辺の伝導能の低下であり、これらの所見が混在していることもよくあります。混乱してきたでしょうから、「日本列島新聞配達物語」に例えて説明しましょう。
洞不全症候群は、簡単にいえば洞結節宗谷岬の不調です。
本州は、需要も多いために新聞がほしいにもかかわらず、新聞が出ないために、情報不足が起こっています。支障が出ているわけですから生理的とはいえず、病的な状況です。あまりにも新聞がこないと、トンネルの接合部が自動能を発揮して、補充新聞を出すこともよくあります。
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分類としては
- ①持続性洞性徐脈:洞結節宗谷岬は規則正しく新聞を出していますが、その間隔が長すぎです。必要なニュースを各家庭に届けられない状態です。
- ②洞停止:規則正しく新聞を出していたのに、突然長時間沈黙してしまうものです。
- ③洞房ブロック:洞結節宗谷岬は規則正しく命令を出していますが、ときどき心房北海道に伝わらず、結果的に心房北海道以下は新聞が届きません。特徴は、延長した心房北海道の新聞配達の周期が、洞結節宗谷岬の発刊周期の整数倍になっていることです。この場合、洞結節宗谷岬は悪くありませんが、心房北海道との連携が悪いということで洞結節宗谷岬の責任として扱います。
- ④徐脈頻脈症候群:心房北海道が頻拍性不整脈で、頻回に自由新聞を出し、洞結節宗谷岬はカヤの外で連続してリセットされてすっかりやる気を失った状態から、心房北海道の頻脈が治ると、オーバードライブ・サプレッションという燃え尽き症候群のような状態で長時間新聞が出せなくなります。
洞不全症候群の原因と対処
原因の除去で改善すれば問題ありませんが、改善がなければペースメーカーを埋め込みます。
洞不全症候群のまとめ
- 洞不全症候群は洞結節自体に原因があって信号が病的に出にくくなっているもの
- 心電図上は洞性P波の出現間隔が長くなっている
- PP間隔が一定で心拍数50回/分未満の状態が続くものが持続性洞性徐脈
- 洞性P波が3秒以上出現しないものが洞停止
- PP間隔が基本洞周期の整数倍になっているものが洞房ブロック
- 頻拍による洞結節のオーバードライブ・サプレッションによって頻拍停止後に洞停止をきたすものが徐脈頻脈症候群
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 モニター心電図なんて恐くない』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版