赤血球の働き(1)|ヘモグロビンの働き
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、赤血球の働きについての解説の1回目です。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
松本 裕
東海大学医学部看護学科講師
Summary
- 1. 赤血球は核や細胞内小器官(ミトコンドリア・小胞体など)をもたない。血液中での寿命は約120日である。
- 2. 赤血球の成分のほとんどはヘモグロビン(Hb)と水からなる。Hbはヘム(鉄を含んだ血色素)とグロビン(タンパク質)からなる。
- 3. Hbは酸素分圧の高い肺で酸素を結合し、これを全身の組織に届ける。酸素分圧の低い組織で酸素を放出する。
- 4. 二酸化炭素の多くは血液中の水と反応して重炭酸イオン(HCO3-)となり、血漿中に溶解する。また一部はグロビンと結合し、肺で大気中に排出される。
〈目次〉
赤血球
赤血球は、直径7~8μmの中央がへこんだ円盤状の細胞で核がない(図1)。
図1赤血球の形
核のない扁平な円板状をした細胞で中央がくぼんでいる。直径は約7~8μm、周辺の厚さ約2μm、中央のくぼんだ部分は約1μmである。
中央のくぼみにより表面積が大きくなり酸素のやり取りに好都合であるとともに、変形性が高く赤血球よりも径の小さい血管も通過できる。
末梢血液中の赤血球数は、成人男性の場合約500万/μL、成人女性の場合で約450万/μLである。
組織の酸素分圧が低下すると、腎でエリスロポエチン(赤血球造成刺激因子)が産生・放出され、骨髄の赤芽球系前駆細胞(BFU-E、CFU-E)に作用し、分裂を繰り返して成熟していく。赤芽球が成熟すると脱核して網状赤血球となり、末梢血で成熟赤血球となる。赤血球はミトコンドリアをもたず、活動エネルギーは解糖系から得ている。
赤血球は核をもたないため分裂できず、寿命が終ると、脾臓や肝臓で破壊される(1日に2,000億個の赤血球が産生され、同数の赤血球が破壊される)。赤血球の寿命は約120日である。このため、常に新しい赤血球を補充しなければならず、骨髄では休みなく造血幹細胞の分裂が繰り返される。
脱核直後の赤血球を網状赤血球という。網状赤血球は通常2日後に、成熟赤血球になる。したがって、網状赤血球の割合が多ければ造血が盛んであることになり、少なければ赤血球がつくられていないことになる。
網状赤血球の赤血球に占める割合は%、あるいは‰(パーミル、1,000分率)で表す。一般に男性で5~20‰、女性で5~10‰である。
ヘモグロビン〔hemoglobin〕
赤血球の成分の大半は、水とヘモグロビンである。酸素運搬は、ほとんどがヘモグロビンの働きによる。ヘモグロビンは、鉄を含むヘム (heme、赤い色素)とグロビン(globin)というタンパク質からなる。ヘモグロビン1分子中に、ヘムが4個入っている(図2の構造式)。
図2ヘムの化学構造と酸素結合部位
ヘムを1個だけ示したが、ヘモグロビンはこの単位4個からなる。
A:O2を結合していないヘム、 B:O2を結合したヘム
O2は鉄(Fe)に緩やかに結合する。
赤血球が壊れて血球外に出たヘモグロビン(hemoglobin、Hb)は、ヘムとグロビンに分解され、ヘムはさらにビリルビンと鉄に分かれる。鉄は次のHb合成に再利用され、グロビンもアミノ酸に分解されて再利用されるが、ビリルビンは肝臓から胆管を通って小腸に出される。
その一部は小腸から吸収され血液中に入って肝臓に戻り(ビリルビンの腸肝循環)、また腎臓に入ってウロビリノーゲンとなり尿中に排泄される。小腸で吸収されなかった大半のビリルビンは、酸化されステルコビリンとなり、糞便とともに排泄される(図3)。
図3ヘモグロビンの運命
糞便の色はステルコビリンの色である。血漿中のビリルビン濃度が高くなると皮膚が黄色にみえることがある。これを黄疸という。
胎児Hbはα1、α2、γ1、γ2の四量体で、出生が近づくとγ1、γ2が分解されて、成人Hbのα1、α2、β1、β2に変わっていく。γ1、γ2の分解で大量のビリルビンが作られ、新生児が空気中の約21%という高濃度の酸素を吸入したときに起こる酸化障害をビリルビンが酸化されることによって防いでいる。ビリルビンの酸化によって生成されるビリベルジンは緑色で、新生児の緑便はこの色である(「ヘモグロビンの分解」参照)。
※編集部注※
当記事は、2016年6月12日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『図解ワンポイント 生理学 第2版』 (著者)片野由美、内田勝雄/2024年7月刊行/ サイオ出版