急変時の対応~心肺停止の心電図
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心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回は、急変時の対応~心肺停止の心電図について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
[前回]
〈目次〉
はじめに
“急変”とは、突然の状態悪化です。原則的には予想外の病状変化であり、緊急の対応が必要です。悪性腫瘍の末期状態などで、蘇生不要の指示があれば、特別な対応はしません。
「急変だ」と思ったら、まず意識の確認。意識がある場合は、循環機能は保たれているはずです。
次にバイタルサインの確認。症状の聴取、呼吸状態、血圧、脈拍、酸素飽和度、麻痺の有無などを素早く確認して、報告します。指示をもらって、心電図モニター、酸素投与、静脈ライン確保を行います。標準12誘導心電図、血液ガス、採血、レントゲンなど、急変の原因をつきとめて対処します。
意識がない場合は、循環機能が停止しているかもしれません。心肺停止の項で解説します。
突然の徐脈
モニター心電図、あるいは脈拍触知で、徐脈であった場合は、急変の原因が徐脈によるものかどうかを判断しましょう。全身状態の悪化や、急性の呼吸不全でも徐脈になるので、まず患者さんの状態を把握してください。
もし、徐脈が原因で急変している場合は、ペースメーカーが必要になる可能性が高いので、すぐに報告しましょう。
突然の頻脈
突然の頻脈を認めた場合、まず状態を確認します。意識がない場合は、次項の心肺停止の手順で対応します。意識があれば標準12誘導心電図をとりましょう。
・幅広QRS頻拍の場合:心電図モニター、報告とともに除細動の準備をしましょう。
・正常幅QRS頻拍の場合:循環状態が悪い場合は除細動を行うこともありますが、原則的には、医師に報告のうえ処置を仰ぎます。心電図モニターと状態の継続観察は必要です。
心肺停止
急変と判断して、意識がない場合は、心肺停止状態と考えて対応します。対応や処置について、AHAガイドライン2010に沿って説明します。
***
あなたは、3年目のナース洋子です。他のスタッフは検温や処置で不在、1人で病棟にいるところに、ナースコールが鳴ります。
洋子「どうしましたか?」
患者さん「となりのベッドの田中さんの様子がおかしいんだけど」
洋子「わかりました。いま行きますね」
田中さんのもとに駆けつけると、様子がヘンです……1
洋子「田中さ~ん」と肩を叩きますが、反応がありません。
緊急事態です。震える手でベッドサイドのナースコールを押します。
洋子「田中さんが急変です。救急カートと除細動器をお願いします」
洋子は、意識のない田中さんの左側に立ち、右手を額に当て、左手で顎を上げて気道を確保しました……2
右耳を顔に近づけて呼吸の有無を確認します。胸の上下動がありません。呼吸音は聞こえません。空気の流れは感じられません。……3:見て・聞いて・感じて
心肺停止と判断しました。スタッフが到着してバッグバルブマスクで2回換気しましたが、変化ありません。
別のスタッフがモニター心電図を装着しました。マッサージを一時中断して、確認すると波形は波打っているだけで、はっきりしたQRS波がありません。
「VFです。除細動しましょう」駆けつけた青嶋医師は、素早く除細動を行います。
青嶋医師「下がって、除細動」……5
バチッという音とともに、身体が弾みます。
モニター心電図は……息をのみます。“ピッ……ピッ・ピッ・ピッ”
心拍が再開しました。青嶋医師が頸動脈を触れます。
「拍動あり、呼吸を確認して呼吸補助を続けて」
胸郭の上下動があります。洋子が顔を近づけると、呼吸音を感じます。
洋子は血圧を測定します「80あります」
“よかった~”。心の中でほっとする洋子でした。
***
1.意識の確認と応援の要請
肩(が無難だと思いますが)を叩きながらよびかけます。触れて話しかけるのでtouch&talkといいます。反応がなければ、とにかく人をよびます。病棟なら救急カートと除細動器を準備します。応援・救急カート・除細動器は救命の3点セットです。
2.A(Airway):気道確保
意識がなくなると舌根が気道を塞ぎ、空気の通り道がなくなるので、気道を開いてあげる必要があります。手のひらをおでこに押し当てて、頭を反らせるようにし、反対の手の指であご先を引っ掛けて持ち上げます。
3.B(Breathing):呼吸の確認と人工呼吸
気道確保をしたまま、口・鼻に触れるほど近づけて、同時に胸の上下運動を「見て」、耳で呼吸音を「聞いて」、頬のあたりで空気の流れを「感じて」、呼吸の有無を確認します。もし舌根が落ちて呼吸していないだけなら、呼吸が再開するかもしれません。
もし呼吸がなければ、人工的に酸素を送ってあげなければ回復しません。なぜなら脳も心臓も酸素不足で刻々とダメージを受けているからです。病棟など病院内なら、バッグバルブマスクを使い、2回酸素化した空気を送り込みます。
4.C(Circulation):心臓マッサージ
AHAガイドライン2010では、呼吸なし=循環停止とみなして、循環確認なしで心臓マッサージを行います。本来は、肋骨の下縁から指を中央に滑らせ、胸骨下端のデッパリの剣状突起を探して、そこから指2本分頭側に手首側の手のひらを置き、そこにもう一方の手を添えて、垂直に100回/分で圧迫します。あわてているでしょうから、両方の乳首を結んだ線でも構いません(図1)。
5.D(Defibrillation):除細動
心肺停止には4種類あり、そのなかで心室細動(VF:ventricular fibrillation)と無脈性心室頻拍(pulseless VT:pulseless ventricular tachycardia)の2つには、電気的除細動が必須です。速やかに除細動を行うことが、救命のキモです。
ここまでを一次ABCDサーベイ(プライマリーABCDサーベイ)といいます。次の段階、気管内挿管、薬剤投与などが二次ABCDサーベイ(セカンダリーABCDサーベイ)です(図2)。
心肺停止(CPA)の心電図波形
まず、いちばん大切なことを心に刻みましょう。「モニターを見るな、人を見よ」たとえ心電図モニターがどんな波形を示そうと、患者さんの意識・呼吸がなければ、それは心肺停止ですから、前述の方法で心肺蘇生法を行います。
だから、まず患者さんの状態を把握することが必要です。そのうえで、心電図の解析が必要な理由は、唯一除細動が必要かどうかを判定するためです。
その点をよーくキモに銘じておきましょう。
心肺停止の心電図には、4つあります。4つの波形を2種類に分けます。一方は除細動が必須な波形、もう一方は除細動が必要ない波形です。
・除細動が必須:心室細動と無脈性心室頻拍
・除細動が不要(逆に有害ともいわれています):心静止と無脈性電気活動
1.心室細動
P波もQRS波もなくて、基線が波打っているだけですね(図3)。
これが心室細動(VF)です。特徴は不規則な基線のユレが見られるだけという点です。心室はピクピクと痙攣しているだけで、有効な血液の拍出は行われていません。当然のことながら血圧もなく、脈が触れるわけもありませんよね。
2.無脈性心室頻拍
幅の広いQRS波が、短い間隔で連続していますね(図4)。とりあえずは幅広=心室性、短い間隔で連続=頻拍ですから、無脈性心室頻拍(pulseless VT)と考えましょう。無脈性かどうかは、とにかく患者さんのところに行ってみないとわかりません。心室頻拍でも、血圧も下がらずほとんど無症状の人もいますから。
3.心静止
心静止(asystole)の心電図はご覧のとおり、ただただ1本の横線です(図5)。心臓がなんの活動もしていない、すなわち“静止”している状態です。横1本線なので“フラットライン”、あるいは英語の発音が“エイシストール”なので通称“エイシス”とよびます。
解説も何もありませんが、ここにも落とし穴があります。
1つは電極はずれ。これはベッドサイド・ダッシュで簡単に判明しますね。
もう1つは、波高の低い心室細動の場合です。モニターの感度を下げていると、心室細動が心静止と誤認されることがあります。誤認してはいけない理由は、心室細動なら除細動が必要、心静止なら不要だからです。これを防ぐためにフラットライン・プロトコール(a〜c)を行います。本当に心静止かどうかを確認する手順です。
a.リードを確認:電極ははがれていないか。リードが心電計につながっているか
b.感度を上げる:感度の下がりすぎで心室細動を見逃していないか
c.誘導を替える:誘導を切り替えてみて、心室細動でないことを確認する
すべて、ホントに心静止か、VFは隠れてないかという疑惑を確認しているわけです。リード・カンド・ユウドーを確認しますから「3つの“ド”を確認」などとウマイこという人もいます。これで本当に心静止と確認できれば、除細動せずに心臓マッサージを続けて、次の蘇生処置に移るわけです。
4.無脈性電気活動
この心電図の説明は難しい。なぜなら、「この心電図がPEAです」という波形はないのです。図6のように、心電図としては全く正常な波形でも、患者さんが心肺停止状態ならば、それは、無脈性電気活動(pulseless electrical activity:PEA)です。
急変患者があったときに、心肺停止を確認してモニターを付けた。そこで出た波形が、心室細動でも心室頻拍でもない。でも何か出ているから心静止でもない。
そうです、心肺停止患者でVF・VT以外の何かの波形が出ていれば、たとえ正常波形でもすべてPEAです。どんな波形であろうとも、除細動の必要がなければ、人工呼吸と心臓マッサージを続けて、薬剤投与など次の蘇生処置に移るのです。
日頃の習性で、とくに医師はモニター心電図の波形が正常だと、心臓が正常に活動しているように錯覚し、一息ついてしまいます。でも、目の前の患者さんをみましょう。呼吸していません、脈も触れません、心肺停止です。
心肺蘇生は続けなければなりませんよ。ここです、最初にキモに銘じてもらったのは。もう一度しつこく言います「モニターを見るな、人を見よ」。心肺停止の判断はモニター心電図ではなく、患者さんの状態なのです。
5.歯磨き不整脈
番外編ですが、病棟のモニター心電図では「歯磨き不整脈」が存在します。これは、その歯磨き不整脈ですが、まるで心室細動のようです(図7)。
看護師があわてて駆けつけると「なんかあったの?」という顔でモクモクと歯磨きをしている患者さんがいました。体動などに伴うアーチファクトの混入です。人騒がせですが、この“あわてて駆けつける”のが最重要です。
まとめ
- 急変時は意識を確認。意識があればバイタルサインチェック、心電図他。意識がなければ応援と除細動器を要請してABC
- ABCを続けながら、モニター心電図を確認。心室頻拍・心室細動では除細動を行う
- 心静止・無脈性電気活動では救命処置を継続するが、心静止は、リード・感度・誘導をチェックし心室細動ではないことを確認
最後に心肺蘇生について付け加えておきます。
本人、ご家族、医療チームの間で、蘇生をしないことが決定され、文書などで示されている場合はDNAR(Do Not Attempt Resuscitate:蘇生を行うな)ですから、事前にわかっていれば、心肺蘇生は行いません。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
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[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版