喀痰検査(細菌検査)|検体検査
『看護に生かす検査マニュアル』より転載。
今回は、喀痰検査について解説します。
高木 康
昭和大学医学部教授
〈目次〉
- 喀痰検査とはどんな検査か
- 喀痰検査の実際
- ・検体の観察
- ・塗抹検査
- ・培養検査
- ・薬剤感受性検査
- 喀痰検査前後の看護の手順
- 喀痰検査において注意すべきこと
- ・検体採取時
- ・検体の輸送
- 喀痰検査に関するQ&A
喀痰検査とはどんな検査か
喀痰検査は下気道感染の起因菌を知るための検査である。呼吸器系には上気道と下気道があり、喀痰は主に下気道(気管・気管支、肺胞組織)の炎症性分泌物である。
喀痰検査の実際
検体の観察
- 採取された喀痰の性状観察を行う。
- 喀痰は唾液様から膿性痰まで品質にばらつきが大きいため、粘性部分と膿性部分の割合を品質基準とした「Miller & Jonesの分類」が用いられ、膿性の場合は検査に適し、良質と判定される(表1 )。
- 喀痰の臭気も感染症の判断指標の1つである。通常はわずかな甘様臭であり、放置により不快臭となる。これに対し、便臭やアルコール臭を呈する場合は炎症を伴うことが多く、特に嫌気性菌が関与した肺化膿症では腐敗性悪臭がある。
塗抹検査
- 一般細菌の観察にはグラム染色(図1)が用いられる。口腔内常在菌混入の指標としては、扁平上皮細胞と白血球数の割合を品質基準とした「Gecklerの分類」が用いられ、グループ1~3は唾液による汚染を受けていると推定され、グループ4~5が良質とされる(表2)。
- 結核菌の検出にはチール・ネルゼン染色(図2)が用いられる。喀痰中に含まれる結核菌の大まかな菌数は、「ガフキー号数」で表す(表3)。
培養検査
- 通常の分離培養は「好気培養」「炭酸ガス培養」が行われる。
- レジオネラ、百日咳菌、マイコプラズマ、嫌気性菌などが疑われる場合は、それぞれ目的菌検出用培地を用いて培養を行う。
- 結核菌は培養に時間がかかるため(約2~4週間)、迅速性に優れ、喀痰などの検体から直接検出可能なPCR法(核酸増幅法)が広く用いられている。
薬剤感受性検査
- 分離培養より検出された菌の内、呼吸器感染の起因になりうる菌について薬剤感受性検査を行う。
喀痰検査前後の看護の手順
1)患者への説明
- 下気道感染の起因菌を探る検査であるため、唾液ではなく気道からの喀痰を採取することが必要である。喀痰の正しい採取方法を以下に示す。
- ①早朝起きた直後に採取するのが最も良い。
- ②採取前に歯磨きを行い、口腔内常在菌の混入を最小限にする。
- ③その後、水道水で数回うがいをする。
- ④強く咳払いをして痰を専用容器に取る。この時、容器内に鼻汁や唾液を入れないよう注意する。
- ⑤ただちに細菌検査室へ提出する。やむを得ず保管・保存する場合は冷蔵庫(4℃)で保存し(24時間以内)、室温に長時間放置しないよう注意する(室温では2時間以内とする)。
2)準備するもの
- 滅菌済み容器(痰が入れやすい広口でフタがしっかり閉まる容器が良い)
喀痰検査において注意すべきこと
検体採取時
- 喀痰は唾液などの口腔成分が混入しやすいため、患者に採取法をよく説明し、最大限の協力を得ることが必要である。
- 雑菌混入をさけるため、必ず専用の滅菌容器を使用する。
- 喀痰採取後ただちに検査を行うことが望ましいため、外来患者の場合はできるだけ来院時に採取させる。
- 培養に適した喀痰か肉眼的外観を観察し、唾液様の痰は検査に不適切であることを説明し、再提出を促す。
- 咽頭粘液を喀痰の代用とすることはできない。
- 喀痰の喀出時は、病原体が周辺に飛散するため、個室などの隔離された部屋(採痰ブース)で採取する。喀出時に医療スタッフの同室での立会いは感染予防上避ける。
- 結核が疑われる場合は、患者を陰圧個室へ隔離し、入室者はN95マスクを着用する(空気感染予防策)。
検体の輸送
- 検体容器のフタがきちんと閉まっていて、検体が漏れ出ていないことを確認する。
- 検体容器は外側も病原微生物による汚染があると考え、ビニール袋などに入れてただちに検査室へ提出する。
- やむを得ず保管する場合は、必ず冷蔵保存(4℃)する。
喀痰検査に関するQ&A
Q.喀痰の検査をしたいのですが、痰が出ない場合どうすればよいですか?
A.喀痰の検査は下気道の炎症の原因を知るための検査ですから、咽頭粘液は代用できません。咽頭粘液は上気道の炎症原因を知るための検査です。喀痰の出にくい患者の場合は、3%高濃度食塩水の超音波ネブライザーによる吸入を行い、痰を誘発させて採取します。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版