細菌検査|検体検査

『看護に生かす検査マニュアル』より転載。
今回は、細菌検査について解説します。

 

高木 康
昭和大学医学部教授

 

〈目次〉

 

細菌検査とはどんな検査か

患者の検体から微生物を検出する。

 

細菌検査の目的

細菌検査では感染症患者の検体から起因微生物を検出し、診断と治療法を決定する。

 

細菌検査の実際

  • 塗抹検査、培養検査、同定検査、薬剤感受性検査を行う。
  • 検査の流れを図1 に示す(結核菌やマイコプラズなど特殊微生物は除く)。

図1微生物検査の成績報告の流れ(抗酸菌は除く)

微生物検査の成績報告の流れ

 

小栗豊子編:患者検体からの病原微生物の検査法、臨床微生物検査ハンドブック:26-31、三輪書店、2000より

 

塗抹検査

  • グラム染色:一般細菌の染色法として「Huckerの変法」が広く用いられている(図2)。細菌は染色されたあと、アルコールによって脱色されないもの(グラム陽性)と脱色されるもの(グラム陰性)に大別される。グラム染色の機序は細胞壁の組成の違いによる。グラム陽性・陰性に染色される代表的な菌種を表1に示す。

図2Hucker(ハッカー)の変法

Hucker(ハッカー)の変法

 

表1グラム染色で推定可能な代表的菌種

グラム染色で推定可能な代表的菌種

 

  • 抗酸菌染色:結核菌を代表とするマイコバクテリウム属の検出法として「チール・ネルゼン染色(図3)」、「蛍光染色(オーラミン染色)」がある。結核菌はグラム染色に難染性だが、チール・ネルゼン染色のような加温染色で染まり、一度染まると酸やアルコールに脱色されにくい性質(抗酸性)をもつ。

図3チール・ネルゼン法

チール・ネルゼン法

 

培養検査

  • 検体を寒天培地に塗布後、35~37℃のフラン器で培養する。
  • 菌種によって酸素に対する需要度が異なるため、目的菌に合わせて酸素量を調整する(表2)。
  • 通常の培養時間は24~48時間であるが菌によって発育速度が異なるため、目的菌により培養時間は異なる(結核菌は発育時間が遅いため2~4週間必要)。
  • 分離培地は一般細菌が発育可能な非選択分離培地(血液寒天培地、チョコレート寒天培地、BTB乳糖寒天培地など)と目的菌のみを発育させる選択分離培地がある。
  • 結核菌は普通寒天培地に発育しないため、卵を基礎とした固形培地(小川培地)や結核菌自動培養装置に対応した液体培地(ミドルブルック7H9培地)が用いられている。近年は高感度で発育時間を1週間短縮可能な液体培地が主流となっている。

表2酸素に対する菌の分類と培養方法

酸素に対する菌の分類と培養方法

 

同定検査

  • 「同定」とは微生物の分類上の属や種名(菌名)を決定することである。
  • 細菌の同定検査には形態学、グラム染色性、細胞壁のペプチドグリカンの組成、菌体脂肪酸組成や各種生化学的性状検査など様々な方法がある。近年はPCR法(核酸増幅法)等の遺伝子検査や質量分析による新たな同定方法も確立された。また、微生物の抗原(抗体)検査は検査材料から直接検出が可能で、感染症の迅速診断に優れている。表3に病原微生物別迅速診断検査法を示す。

表3病原微生物別迅速診断検査法

病原微生物別迅速診断検査法

 

薬剤感受性検査

  • 起因菌と推定される菌種について、各種抗菌薬の有効性を判断するため薬剤感受性検査を行う。
  • 薬剤感受性検査法はディスク拡散法と微量液体希釈法が多く用いられている。
  • ディスク拡散法:一定量の抗菌薬をしみこませた濾紙(ディスク)を、菌液を塗り広げた寒天培地上に密着させ培養すると、寒天中に薬剤が拡散しディスクの周りに阻止円が形成され、その大きさにより抗菌薬の有効(感受性)・無効(耐性)を判定する。
  • 微量液体希釈法:抗菌薬を段階希釈し、各濃度に一定量の菌を接種し培養する。菌の発育を阻止することができる抗菌薬最小濃度(最小発育阻止濃度:MIC)を求め、最小発育阻止濃度の値により抗菌薬の有効(感受性)・無効(耐性)を判定する。
  • 薬剤感受性検査で求められた結果の判定は、CLSI(Clinical and Laboratory Standards -Institute;米国臨床検査標準協議会)により、それぞれの薬剤によって有効範囲(ブレイクポイント)が定められている。

 

【MEMO】薬剤耐性菌

近年、様々な薬剤耐性菌が出現している。これらの薬剤耐性菌は病院内で日和見感染を起こし、抵抗力の低下した患者が感染した場合には治療が困難なため、院内感染対策上、注意が必要である。

 

以下に示す薬剤耐性菌は感染症法で「5類」に指定されているもので、MRSA、薬剤耐性緑膿菌ペニシリン耐性肺炎球菌は定点把握(定点医療機関からの届出)、VRE、VRSA、CRE、薬剤耐性アシネトバクターは全数把握(全病院からの届出)である。

 

1 . MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)

メチシリンなどのペニシリン系をはじめとしたβラクタム系、アミノ配糖体系、マクロライド系など多くの薬剤に対して耐性を示す黄色ブドウ球菌(近年、日本では減少傾向にある)

 

2 . 薬剤耐性緑膿菌

カルバペネム系、アミノ配糖体系、フルオロキノロン系の3系統すべての薬剤に対して耐性を示す緑膿菌

 

3 . ペニシリン耐性肺炎球菌

ペニシリンGに対して耐性を示す肺炎球菌(市中感染がほとんど)

 

4 . VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)

バンコマイシンに対して耐性を示す腸球菌(一旦、院内に広がると感染制御が難しい

 

5 . VRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)

バンコマイシンに対して耐性を示す黄色ブドウ球菌(日本ではほとんど検出されない)

 

6 . CRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)

カルバペネム系に対して耐性を示す腸内細菌科細菌(2014年に新しく加わった)

 

7 . 薬剤耐性アシネトバクター

カルバペネム系、アミノ配糖体系、フルオロキノロン系の3系統すべての薬剤に対して耐性を示すアシネトバクター属(一旦、院内に広がると感染制御が難しい)

 

細菌検査に関するQ&A

Q1.MRSAの検査は難しいの?

MRSAはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の略名で、多くの抗菌薬に耐性を示します。検査はウサギ血漿を凝固させるコアグラーゼ試験が陽性のブドウ球菌を黄色ブドウ球菌とし、薬剤感受性検査で抗菌薬オキサシリンまたはセフォキシチンに耐性の場合をMRSAとします(感受性の場合はMSSAと呼ぶ)。検査材料からのMRSA検索は、上記抗菌薬を含用したスクリーニング培地を用いて培養します。含有抗菌薬に耐性のブドウ球菌のみ発育するので、MRSAを選択的に検出することが可能です。検体提出から最短2日目で中間報告(MRSA疑い)、3日目で最終報告(MRSA確定)が可能です。

 

略語

 

  • BTB:brom thymol blue(ブロムチモール青)
  • MDRP:multidrug resistant Pseudomonas(薬剤耐性緑膿菌)
  • MIC:minimum inhibitory concentration(最小発育阻止濃度)
  • MRSA:methicillin-resistant Staphylococcus aureus(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
  • PCR: polymerase chain reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)
  • VRE:vancomycin-resistant Enterococcus(バンコマイシン耐性腸球菌)
  • VRSA:vancomycin-resistant Staphylococcus aureus(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版

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