看護師のタスクシフト計画! タスクシェアから始めよう
前回に続いて、今回も「働き方改革」の話をします。
タスクシフトは各業種「やって良いことの範囲内」で
山形の病院で、臨床工学技士が参加した手術において、執刀医の指導のもとに皮膚縫合を複数回行ったということがニュースで報じられていました。
健康被害は確認されていないということですが、これは医師法違反になります。
「医師の負担軽減のための業務分担と理解し、医師法に違反する行為との認識はなかった」と、その臨床工学技士は語っているようです。やりたかったことは業務分担、タスクシフトですね。方向性としては社会で目指す方向なのかもしれませんが、超えてはならない一線というのがあります。
いくら医師の指示とはいえ、患者に侵襲を加えるようなことは、基本的に他業種には許されていません。やって良いことの範囲でどこまでタスクシフトするかというのが大事です。
(ちゃぶ台返しをするようで気が引けるのですが)一応個人的な考えを書いておきます。
医師が目の前にいるのに、臨床工学技士が縫合した方が医師の負担が減るのかと言ったら、そんなことはないんじゃないかとは思います。自分でやった方が早いし綺麗だし、患者負担にもならないはずです。
臨床工学技士がやった方が早いし綺麗だし、患者負担にならないのであれば、その執刀医は医師としてほかにすべきことがあるのでは…(しらんけど)。
というわけで、それぞれの業種でどんなことができて、どんな風にタスクシフトできるのか、具体的に日々の業務に落とし込む方法を一緒に考えていきましょう。
タスクシフトは「医師の負担を減らすため」ではない
まず大事な点を共有しておきます。
1)タスクシフトはタスクシェアから始める
2)タスクシフトは徐々に行う
3)タスクシフトの目標は患者の健康増進のためだと心得る
タスクシフトということで、「今日から○○の業務に医師は携わりません」とか、「今日から看護師は〇〇いたしません」みたいなことをすると、とてもじゃないけど業務は進まなくなります。場の雰囲気も悪化します。
まずは業務の共同化(タスクシェア)をしつつ、シフトできそうなものからシフトしていくのが吉です。そして、その過程はゆるやかに行う必要があります。
「1see 1do 1teach」というスローガンを聞いたことがあるでしょうか?
「一回見たら次はやって、やったら次は教える」のだという、体育会系全開脳筋爆発スローガンです。
まぁ無理ですよ。だんだんと業務を移行していき、「もうそちらでやってもらって大丈夫ですよね?」という土壌を作ってからシフトしないと、無責任に仕事を放り投げるだけになります。
そして、何のためにタスクシフトをするかですが、これは医療従事者の都合のためではなく、患者さんの健康増進のためです。
医師の負担を減らすことが最終目的になると、きっと失敗します。
医師が長時間労働して誰が困るかというと、患者さんなのです。それが出発点です。タスクシェアして、できるならタスクシフトしてというのは、最終的に患者さんの利益にならなければ、やる意味が乏しくなります。
目標を見誤ると、手段が目的化しかねませんので、長期目標を見据えて、着実に歩みましょう。
各業種のタスクシェア/シフトできる「業務」
さて、それでは各業種と医師、看護師(看護roo!ですから特に看護師)がどの業務をどのようにタスクシェアできるのかを考えてみましょう。
看護師の業務は「療養上の世話」と「診療の補助」に大きく分けられます。
診療の補助は包括する範疇が広く、放射線照射や侵襲度の高い絶対的医行為以外の多くの医行為を補助することができます。
結構線引きが曖昧ですが、どこまでを看護師が請け負うかという線引きをしていく作業が、まさにタスクシェアにつながるのではないかと思います。
診療放射線技師とタスクシェア
看護師は放射線を照射することはできませんが、診療放射線技師はそれができます。この点は法的に引かれた線引きなので、それ以外の業務でタスクシェアできるものを考えます。
医師や看護師が行っている、造影CTやMRIを撮像する前の検査の説明や問診、被曝や磁場の影響に関する説明と同意書の取得はぜひともタスクシェアしたいところです。
医師や看護師でなければならないことはないですし、しっかりした書面を準備すれば、診療に関わるどのような業種であっても可能なはずです。
多業種で一緒に説明書や同意書を作成するのが第一歩と考えます。そうすることで、造影剤に対するアレルギー反応への対応や、事前の内服薬調整(メトホルミンを中止しておく、緊急時は一時内服を止める)などが、多業種にも深く理解されていくのではないかと思います。
多業種が理解できるようになると、患者さんの様子がおかしい場合などに気づくための有効なチェックポイントが増えることになり、リスクがより少なくなるはずです。
臨床検査技師とタスクシェア
超音波検査や心電図検査など、一般によく行われている検査の事前説明や実施は、臨床検査技師にもタスクシェア/シフトがしやすいかと思います。
意外と知られていない点が、MRIと眼底検査かもしれません。こちら、実は臨床検査技師も行うことができます。
また、臨床検査技師は輸血業務に大きく関わることができます。
なかなか医師の時間が取れない時に、輸血に関する十分な説明を行ったり、輸血製剤の管理、前後の感染症の管理をしたりすることができます。これも、多業種で説明書や同意書を作成していくのが第一歩かもしれません。
現在、当院にはMRIがありませんが、建築中の新病院ができたら導入する予定です。臨床検査技師、診療放射線技師、看護師、医師で協議しながら上手に運用していこうと考えています。
臨床工学技士とタスクシェア
臨床工学技士は医療機器の専門医療職ですが、透析室での業務に従事することが多いでしょうか。
医療機器の保全をするほか、手術室やカテーテル室での器械出し、内視鏡室での投薬以外の補助、集中治療室での人工心肺装置の管理など、今では関わる業務は多岐にわたります。
投薬、静脈ルート確保など、看護師にしかできない業務は看護師に集中させつつ、その他の業務を臨床工学技士に上手にタスクシフトできる可能性を秘めています。
2021年には手術室や集中治療室では静脈路確保も含めてルートの整理も可能となりました。
医療機器の管理のマニュアルや使用方法を多業種でまとめつつ、さまざまな場でイニシアチブを発揮してくれることを個人的に期待しています。
薬剤師とタスクシェア
薬剤師しかできない業務は、調剤です。
ただ、医師が自ら処方した薬剤を調剤することは可能で、それを補助するという建て付けで看護師も調剤に関わることがあります。
看護師は「療養上の世話の一環」で投薬の場面に居合わせることが多いですが、本来は薬剤師が適切な服薬ができているか、剤形は適切かなどを、都度確認するのが望ましいです。
新たに投薬を始める場面などでは、できる限り看護師と薬剤師とで一緒にラウンドして評価すると良いかもしれません。
「余計にお互いの時間を使うだけじゃないか」と思われるかもしれませんが、最初はそうなってしまいます。その後、どこまでをそれぞれの領分で行うか線引きをしていく必要があります。
また、薬剤師業務を看護師が上手にシェアしつつ、よりスムーズな医療提供につなげるために、薬剤師として自身がいない時間の業務に目配せをしてもらえると良いのではと思います。
当院でも夜間中心に看護師が薬剤の準備をする場面があります。そういうときのために、よく使う処方をまとめておいたり、さまざまな剤形を用意しておくといった「目配せ」をしておいてもらえると、看護師にとっては薬剤の準備の時間を短縮しつつ、より安全に寄与できるのではないかと思います。
***
というわけで、具体的なタスクシェア→タスクシフトの方策を考えてみました。が、前述の通り、急には体制を変えられませんし、一時的に業務が増えてしまうことにもなります。
また、なかなかタスクシフトは進まないのですが、タスクシフトを進めたい人は現場にいない人の場合が多く、そういう人には「タスクシフトには労力が必要である」という視点が欠けているような気がしています。
ただ、上手にやれば必ず患者さんのためになるはずですから、みんなで少しずつ元気を集めて、自院に合った体制を見つけてほしいと思います。
なお、当院もまだ発展途上です。色々挙げた例の中にも当院で行えているものと、これから目指したいものが混在しています。温かく見守ってください。
あと、救急救命士が救急外来で働くことも増えてきました。これはこれで大きなテーマなので、またの機会に触れたいと思います。
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薬師寺慈恵病院院長薬師寺泰匡
富山大学卒。初期臨床研修中に日本の救急医療の課題や限界に触れつつ、救急医療の面白さに目覚め、福岡徳洲会病院ERで年間1万件を超える救急車の対応に勤しむ。2013年から岸和田徳洲会病院の救命救急センターで集中治療にも触れ、2020年から薬師寺慈恵病院に職場を移し、2021年1月からは院長として地方二次救急病院の発展を目指している。週1回岡山大学の高度救命救急センターに出入りして、身も心もどっぷり救急に浸かっている。呼ばれればどこにでも現れるフットワークの軽さが武器。呼んで。
編集:林 美紀(看護roo!編集部)
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