生理痛は当たり前じゃない!痛みの原因と軽減する方法を婦人科医が解説

「生理痛があっても病院に行かない」が多数

皆さんは、生理(月経)痛ありますか?

 

「痛みはあるけど、大したことないかな」「もっとひどい人に比べたら、私のは生理痛に入らないかも」…よく聞く返答です。

 

「特にひどい生理痛はないです」は、裏を返せば「生理の時の痛みは、あって当たり前」という認識が一般的ということなのではないでしょうか。

 

実際、生理の時に何らかの症状があるという方は多いと思います。

 

以前、女子大学生を対象に行った調査1)では、「生理痛がない」と答えた人は16%にとどまりました。(そのほかの調査でも大体8割前後の方が、月経期間中に何らかの症状があると答えています)

 

また、その調査で「生理痛がある」と回答した84%のうち、対処法としては、「市販の薬(鎮痛剤・漢方薬)を飲む」という回答が63%で最も多く、そのほか、「体を温める」「マッサージやストレッチをする」などの自宅でできることが回答に上がりました。「何もせず、我慢する」と回答した人も17%いました1)

 

 

つまり、ほとんどの方が市販薬の服用や自宅でできるセルフケア、痛みを我慢するなど、病院に行かずに自分で対処していたのです。

 

病院を受診し、鎮痛剤・低用量ピル・漢方薬などの処方薬を内服している人は、全体の1割程度でした1)

 

また、生理痛の重症度が上がるほど、QOL(生活の質)が下がるという当然のデータもあります2)

 

忙しくて婦人科を受診する暇がない、治療費が心配という方も中にはいらっしゃると思いますが、「たかが生理痛」「みんなも痛いって言っているし」「生理痛は病気ではないから、わざわざ病院に行くほどでもない」と、軽くみたり、こういうものなのだと受け入れてしまっている方が多いのではと推測します。

 

しかし、仕事やプライベートのさまざまな機会を損失したり、大切な若い時期の一部を生理痛に苦しむというもったいないことになってしまっている人が多いのではないでしょうか。

 

生理痛の原因は?病気の可能性も?

生理痛の原因は、子宮内膜が剥がれ落ちる時に、プロスタグランジンという物質が出され、さまざまな臓器の平滑筋という筋肉が収縮することで起こると考えられています。

 

そして、生理中は、下腹部や腰の痛みだけではなく、お腹が張った感じや吐き気、食欲の低下、下痢頭痛など、体の色々な場所に症状が出ることがあります。

 

また、身体的な症状だけでなく、疲労感や脱力感、イライラしたり落ち込んだり、不安になるなど精神的な症状を伴うことも多くあります。

 

月に一度このような状態になるだけでも、生理って本当に大変。
これが女性の体に生まれた宿命なのか…と思ってしまうかもしれません。

でも、生理痛は「あって当たり前のもの」「女の宿命」ではないのです。

 

健康な場合、生理の際に痛みは感じません。
つまり、痛みを感じる時点で何らかの病気が隠れている可能性があります。

 

日常生活に何らかの支障をきたす生理痛は「月経困難症」と呼ばれ、それだけで病的な状態とされています。

 

月経困難症は、原因となる明らかな病気があるかどうかで2つに分類されます。

 

1機能性月経困難症

一つ目は機能性月経困難症と呼ばれ、明らかな病気はないけれど、子宮が未熟なためや、子宮口が狭いために生理中に痛みを起こすものです。

 

2器質性月経困難症

もう一つは器質性月経困難症と呼ばれ、子宮筋腫や子宮内膜症、先天的な子宮の形態異常など、子宮や周辺臓器に病気を伴っているために起こる月経困難症を言います。
生理痛がある方の多くは、子宮内膜症があります。

 

子宮内膜症の原因はまだはっきりとは分かっていませんが、月経血の逆流が原因ではないかと言われていて、次の方は発症のリスクが高いと言われています。

 

  • 初経が早い人
  • 頻繁に生理がある人
  • 経血の量が多い人


また、現代では昔に比べて出産の年齢が上がり、1人の女性が産む子供の数も減りました。

そのため、生涯の月経回数が昔に比べて激増しています。

 

100年くらい前は人生で50回くらいだった月経回数が、450回くらいになったと試算されています。

そのため、月経血の逆流が原因とされる子宮内膜症も激増しています。

 

低用量ピルの使用などで生理痛は改善できる


これまで、生理痛を主訴に産婦人科を受診しても、超音波検査などで明らかな器質疾患が見つからなければ「器質性月経困難症ではないから、病気ではない。痛み止めなどで様子を見るといい」と言われ、対症療法のみとなることが多くありました。

 

しかし、子宮内膜症は腹腔鏡で見ないと分からないものも多く、機能性月経困難症だと思っていても、実は器質性月経困難症だったというケースも多いのではないかと言われています。

 

そのため現在では、機能性、器質性に関わらず、低用量ピルをはじめとしたホルモン治療が行われるようになってきました。

 

痛み止めはプロスタグランジンの合成を阻害するものですが、ホルモン治療は、排卵を抑えたり子宮内膜が作られるのを抑え、月経そのものを軽くする治療です。

 

避妊薬のイメージが強い低用量ピルですが、月経困難症に対する治療薬として一部が保険適用薬となり、LEP(low dose estrogen progestin)とも呼ばれています。

 

また、痛みの緩和だけでなく、飲み方によって生理の時期をずらしたり、頻度を3〜4カ月に1度に減らしたりすることも可能です。

痛みだけでなく出血量が減ることも多く、貧血の改善が期待できます。

また、子宮内膜症の治療や予防にもなります。

 

40歳以上の方や、肥満、喫煙、前兆を伴う偏頭痛などによりエストロゲン(女性ホルモン)が入っている製剤が使いにくい方には、黄体ホルモンのみの製剤もあります。

ホルモン治療も、初経を迎えたら始めても大丈夫なので、10~50代まで生理痛の治療が可能です。

 

また、子宮内黄体ホルモン放出システム(IUS)と言って、子宮の中に入れて5年に渡って黄体ホルモンがゆっくり出てくる生理痛の治療薬もあります。

しばらく妊娠を考えていない方、毎日薬を内服するのが難しいという方、受診間隔が少ない方がいいという方におすすめです。

妊娠・出産の経験がなくても大丈夫です。

 

なお、器質性月経困難症で子宮内膜症や子宮筋腫などがある場合、軽いものであれば同じようにホルモン療法を行いますが、状態によってより強力なホルモン治療を行ったり(用量の多い黄体ホルモンやGnRH製剤など)、外科手術を行う場合もあります。

 

痛ければ早めに受診を。自分の体を後回しにしないで!

このように生理痛は、あるのが当たり前ではありません。

 

そもそも生理が若いうちから何百回も来ることは、子宮内膜症のリスクとなり、QOLの低下だけでなく不妊や悪性腫瘍のリスクも上がります。

今や生理痛は個人だけでなく、企業や国家レベルの問題となっています。

 

排卵や子宮内膜の発育を止めて、子宮を休ませるようなホルモン療法で生理を軽くする選択肢があることを知っていただき、自分の体のことを後回しにせずに婦人科を受診していただきたいです。


私は多数の生理痛の患者さんの診察をさせていただいていますが、生理痛にわずらわされなくなった方が「治療をして本当に快適になりました。もっと早く治療をしていれば、いろんなことを諦めずにすんだのに…」と診察室で涙されることもあります。

 

いつからでも遅くはありませんが、少しでも早く知っていただきたいです。

 

性交経験のない方は内診でなくお腹の上からの超音波で診てもらえますし、不安な場合は受診前に病院に確認してから行くとより安心です。

 

ぜひ時間を見つけて婦人科にご相談ください。
 

 

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執筆

丸の内の森レディースクリニック院長宋美玄(ソン・ミヒョン)

産婦人科医 医学博士、丸の内の森レディースクリニック院長。
1976年兵庫県神戸市生まれ、大阪大学医学部医学科卒。2010年に出版した『女医が教える本当に気持ちいいセックス』がシリーズ累計70万部突破の大ヒットとなり、各メディアから大きな注目を集め、以後、妊娠出産に関わる多くの著書を出版。“カリスマ産婦人科医”としてメディア出演、医療監修等、女性のカラダの悩み、妊娠出産、セックスや女性の性など積極的な啓蒙活動を行っている。2児の母。

 

編集:宮本諒介(看護roo!編集部)

 

 

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