妊娠前や妊娠中に打つべきワクチン、打ってはいけないワクチン

木下喬弘手を洗う救急医Taka

みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト副代表

妊婦さんのイメージ写真

妊活を始めるときや、妊娠がわかった後に接種した方が良いワクチンがあります。看護師さんなら「知ってる知ってる!」という方が多いと思いますが、それでも「妊娠前・妊娠中にワクチンって本当に大丈夫なのかな…?」と心配がある方もいるかもしれません。

 

今回は、妊娠前や妊娠中にワクチンを打つことのメリットとデメリットについて解説します。ご自身が妊娠を考えている方にも、患者さんに自信を持って説明したい方にも役に立つ知識ですので、ぜひ最後まで読んでみてください。

 

妊娠前・妊娠中にワクチンを打つのはなぜ?

そもそも妊娠中になんでわざわざワクチンを打たないといけないのでしょうか。お腹の中に赤ちゃんがいる大切な時期に、ワクチンなんか接種して余計な負担をかけたくないと思いませんか。

 

でも、妊娠とワクチン接種がセットになっているのには、ちゃんとした理由があるのです。まずは、妊娠前や妊娠中にワクチンを打つことの目的について説明します。

 

1つ目の目的は、「妊娠中に感染すると赤ちゃんに異常をきたす病気」を防ぐためです。

この目的でワクチンを接種する場合、妊娠してから接種するのでは遅いので、妊娠を計画している段階で抗体の値を測定し、足りなければワクチンを接種するのが一般的です。

 

2つ目の目的は、「妊娠中の感染症でお母さんが重症化すること」を防ぐためです。

特に妊娠後期には、子宮が肺を圧迫したり酸素需要が高まったりすることもあり、呼吸器感染症が重症化するリスクが上がります。なので、この目的で接種するワクチンは、呼吸器に感染するウイルスに関するものが多いです。

 

3つ目の目的は、「妊娠中にワクチンを接種することで、胎盤を通して赤ちゃんに抗体を送る」ためです。これにより、赤ちゃんが生まれた後の感染症の重症化を防ぐことができる場合があります。

 

妊娠前・妊娠中にワクチンを打つ目的。1)胎児の異常を防ぐため 2)母体の重症化を防ぐため 3)胎盤を通じて抗体を送るため

 

一方で、ワクチンを接種することにリスクがある場合もあります。具体的には、生ワクチンです。理論的には生ワクチンに含まれる弱毒化されたウイルスが胎児に移行する危険性があります。このため、妊婦への生ワクチンの接種は原則禁忌とされています。

 

ではここからは、3つの目的それぞれのワクチン例についてご説明します。

 

1)胎児の異常を防ぐためのワクチン

先天性風疹症候群という病気をご存知でしょうか。風疹に対する免疫が十分でない女性が、妊娠初期に風疹ウイルスに感染することで起こる病気です。3大症状は先天性心疾患、難聴、白内障です。先天性風疹症候群の当事者の方がみなさんに知って欲しい想いを綴られたnoteがありますので、ぜひ読んでみてほしいと思います[1]

 

先天性風疹症候群の発生数は、風疹の流行と関連があります。日本では2012〜2014年に風疹の流行があり、45例の先天性風疹症候群の届け出がありました。近年は少し落ち着いており、2019〜2021年は6例にまで減少、2021年第3週以降は幸い届け出がありません[2]

 

妊婦さんが風疹に感染するのを防ぐためには、女性が妊娠前にワクチンを接種しておくことだけでなく、すべての人に抗体検査や予防接種の機会を提供し、社会全体で風疹のリスクを下げることが重要です。

 

多くの自治体では、妊娠を希望する女性や妊婦の同居家族に対して、風疹の抗体検査を無料で行っています。

特に、1978年度(昭和53年度)までに生まれた男性は公費で接種する機会がなく、1962~1989年度(昭和37〜平成元年度)に生まれた女性・1979~1989年度(昭和54年度〜平成元年度)に生まれた男性も、接種回数は1回だけで、風疹の抗体が不十分な可能性があります[3]。該当する方には、ぜひ一度、風疹の抗体価を測定し、必要に応じてワクチン接種を検討していただきたいです。

 

年齢別の風疹の予防接種状況の図

 

また、風疹ほど発生リスクが高いわけではありませんが、免疫のない妊婦が妊娠中期に水痘に感染すると、先天性水痘症候群を起こすことがあります。先天性水痘症候群は、生まれてくる赤ちゃんに四肢低形成や眼症状、神経症状をきたすことがあり、こちらも予防が大切です。

 

なお、風疹ワクチンや水痘ワクチンは生ワクチンなので、妊娠中に接種することはできません。妊娠を希望する段階で接種した上で、接種後約2カ月間は避妊することが勧められています。ただし、実際にはワクチン接種が原因で先天性風疹症候群や先天性水痘症候群が起きたという例は報告されておらず、妊娠に気づかずにワクチンを接種したとしても問題ないと考えられています[4]

 

2)母体の重症化を防ぐためのワクチン

妊娠中に感染することによって妊婦さん自身が重症化することがあり、これを防ぐためにワクチン接種が勧められている場合もあります。代表的な病気はインフルエンザと新型コロナウイルス感染症です。

 

妊娠中にインフルエンザにかかってしまうと、妊娠していない患者に比べて入院率が高く、また自然流産や早産、低出生体重児が増加することが知られています[5,6]。インフルエンザワクチンは、妊婦においてもインフルエンザの予防に有効です[7]

 

日本で妊婦に対して使用されているインフルエンザワクチンは不活化ワクチンなので、これを接種することで生きたウイルスが胎児に移行することはありません。米国疾病対策予防センター(CDC)は、「これまで何百万人もの妊婦がインフルエンザワクチンを接種しており安全性に問題はない」としています[8]。インフルエンザワクチンはすべての方におすすめですが、特に妊娠女性は流行期の少し前にワクチン接種を済ませておくことが大切です。

 

同じように、新型コロナウイルス感染症も妊婦にとっては重症化リスクの大きな病気です。例えば、妊娠中に新型コロナウイルスに感染すると、非感染者に比べて集中治療室入室のリスクが5倍、死亡のリスクが22倍になるという報告があります[9]

 

新型コロナワクチンも生ワクチンではないので、接種しても胎児にウイルスが移行することはありません。動物実験では妊娠中に接種しても赤ちゃんに悪影響が見られないことが確認されていますし、ヒトでの市販後調査でも早産や低出生体重などの頻度は変わらないことがわかっています[10]。このため、妊娠している方も新型コロナワクチンの接種が推奨されています[11, 12]

妊婦さんのイメージイラスト

 

3)胎盤を通じて抗体を送るためのワクチン

最後に、胎盤を通じて抗体を送り、乳児を感染症から守るためのワクチンについてもご紹介します。百日咳のワクチンが代表的ですが、最近これにRSウイルスに対するワクチンが加わりました

 

生後6カ月未満の乳児が百日咳に感染すると、時に致死的になることが知られています。妊娠中にワクチンを接種することで、胎盤を通じて胎児に抗体が移行し、乳児期に百日咳に感染しても重症化を防ぐことができることがわかっています[13]。このため、米国CDCは妊娠27週〜36週の間にTdapという成人向けの三種混合ワクチンの接種を勧めています[14]。残念ながら、日本では今のところ妊娠中の百日咳ワクチンは、海外から輸入している医療機関で自費で打つしかないのが現状です。

 

このほか、厚生労働省は2023年11月、新生児や乳児のRSウイルスによる肺炎の重症化を防ぐ妊婦向けワクチンの製造販売を了承しました。RSウイルスはほぼすべての子供が2歳までにかかると言われており、時に重症化したり亡くなることもある厄介な病気です。

 

このRSウイルスに対するワクチンは、お母さんが妊娠中に接種することで、胎盤を経由して胎児に抗体を送ることが目的です。これにより、生まれた赤ちゃんが重症化するリスクを、生後3カ月以内で82%、生後半年以内で69%も下げることができるとされています[15]。副反応についても、接種部位の痛みや頭痛筋肉痛など一般的なものがほとんどであり、大きな心配はありません。

 

ただし、統計学的な検証は行っていないものの、早産の割合がワクチン群で5.7%、プラセボ群で4.7%と、ワクチン群で若干高かったこともあり、米国食品医薬局(FDA)は妊娠32週〜36週の間に接種することを勧めています[16]

 

なお、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症のワクチンでも、妊娠中にワクチンを接種することで胎盤を通して胎児に抗体が移行することがわかっています[17,18]。これらのワクチンを接種すると、生まれてくる赤ちゃんにとってもメリットがあることは知っておいて損はないでしょう。

赤ちゃんのイメージイラスト

 

おわりに

今回は妊娠とワクチン接種の関係性について解説しました。妊娠していたり妊娠を計画したりしているからこそ打った方が良いワクチンについて、しっかりとした知識を身につけ、ご自身や患者さんにとって最適な判断をしてもらえたらと思います。

 

 

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参考文献

 

執筆

木下喬弘(手を洗う救急医Taka)

みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト副代表。こびナビ(CoV-Navi)副代表。外傷専門医、公衆衛生学修士。2010年大阪大医学部卒。大阪の救命救急センターで9年間勤務した後、2019年にハーバード公衆衛生大学院に入学。日本のHPVワクチンに関する医療政策研究で2020年同大学院卒業賞を受賞。『みんなで知ろう!新型コロナワクチンとHPVワクチンの大切な話』(ワニブックス)など。TwitterInstagramYouTube

 

編集:烏 美紀子(看護roo!編集部)

 

 

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