患者を突き放す言葉「そんなに痛いわけない!」|患者を癒す言葉、傷つける言葉

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

増谷 彩=日経メディカル

 

高校時代に潰瘍性大腸炎を患い、自暴自棄な毎日を送るようになってしまった石井洋介氏。

 

大出血を起こし、緊急手術で救われたことから医師を志した石井氏に、患者経験から何を思い、医師として患者にどう接しているのかを聞いた(文中敬称略)。

 

 

潰瘍性大腸炎を発症したのは、高校1年生の頃だったそうですね。

石井 高校に通い始めたばかりの頃、39℃くらいの熱が続くようになりました。

 

市販の解熱薬などを飲んでごまかしていたのですが、2週間ほどその状態が続き、近くの内科を受診しました。かぜと診断されたのですが、さらに3日たっても良くならなかったので、別の病院に行きました。

 

肺炎疑いということで入院して、1カ月ほどいろんな検査をしたのですが、原因が分からず、なかなか良くならない状態が続きました。

 

ある朝、回診で医師が腹部を触ったときに痛みを感じたので伝えると、「もしかして血便が出ているんじゃない?」と聞かれ、潰瘍性大腸炎が鑑別に挙がりました。

 

自分では、結構前から便に血が混じっていることには気づいていました。血便を医師に伝えなかったのは、勝手に痔だと思いこんでいたことと、かぜのような症状と血便に関係があるなんて、当時の自分には想像もできなかったからです。

 

問診で「どんな症状がありますか?」とオープンクエスチョンで聞かれたときは、熱のことや、が出るといった、かぜにつながりそうな症状ばかりを伝えていました。

 

あの時、先生が「この腹痛は前からあった? 血便が出ているんじゃない?」と「はい」か「いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンをしてくれたことで、初めて伝えられました。

 

医師と患者のコミュニケーションではオープンクエスチョンばかりが注目されますが、自分は患者の訴えを聞くことに加え、患者から自然に出てきそうにない訴えについては、できるだけクローズドクエスチョンで絞るようにしています。

 

 

その結果、潰瘍性大腸炎と診断がつき、治療が始まりました。このとき、医師など医療者に言われて印象的だった言葉はありますか?

石井 1つ覚えているのは、「潰瘍性大腸炎」についての説明をしてもらったときに、「この病気は指定難病で……」とさらっと言われたことです。

 

説明してくださった先生は、医療費助成制度もあるし、良かれと思って言ってくれたのだと思いますが、若い自分にとって「指定難病」という言葉はインパクトが強くて、「不治の病=お先真っ暗」みたいな図式が出来上がってしまい、かなりショックでした。

 

なので、自分が医師になって潰瘍性大腸炎の患者さんに説明をする場面では、「飲めば完治するといった薬はなく、寛解期と活動期を繰り返す病気だが、寛解期をできるだけ伸ばすよう努力する。この病気を持っていても社会で活躍している人はたくさんいて、あの政治家やあのスポーツ選手もそう、僕も罹患後に医師になりました」と、未来が閉ざされたわけではないということを印象付けるようにしています。

 

潰瘍性大腸炎は若い患者も多いので、特に気を付けています。

 

それから、自分が潰瘍性大腸炎になったときにつらかったのは、食事指導でした。

 

当時の自分に説明してくれた栄養士さんはとても真面目そうな方で、「避けた方がいい食べ物」として「刺激物、油を多く使った料理……」など、かなり広い範囲で言われました。その食べ物をきっちり避けたら、精進料理くらいしか食べられないな、と思ったことを覚えています。

 

そんな指導が念頭にあると、放課後、友達とファミレスに行くことになっても、食べられるものがないんです。ピザやパスタは油が多い、食物繊維もそんなにお勧めできないとなると、サラダも適さない。コーンスープくらいしか食べられるものがありません。

 

今思えば、コーンスープも脂質が多いから、厳密には「避けるべき」と説明された食べ物に含まれるかも。とにかく、本当に食べられるものがありませんでした。

 

 

食事に行っているのにスープしか飲まない僕を、友達はおかしな目で見るのですが、多感な男子高校生ですから、自分の病気の話を友達にするのも恥ずかしい。

 

トイレに行きたくなるような病気の話ですから特に、です。

 

なので、「お金がないから節約してるんだ」と嘘をつき、ファミレスや学食に誘われたときは、何とか食べられそうなものを探していました。

 

電車通学で頻繁に途中下車してトイレに行かなければならないといったことも重なり、友達付き合いもおっくうになって、高校に行くのをやめてしまいました。

 

途中の繁華街でブラブラして時間をつぶすようになると、もう自暴自棄になり、治療もどうでもよくなって、フライドチキンなんかを食べていました。

 

その結果、病状が悪化して大出血を起こし、緊急手術で大腸を全摘出することになったのです。

 

医療は生物学的な側面と社会心理学的な側面の両輪で構成されるものなので、どちらかが0点になると共倒れになってしまうと考えています。

 

生物学的なことだけ考えれば、ストイックに食事制限をした方がいいけれど、僕の場合、食事制限によって友人関係や社会とのつながりを失い、社会心理学的な治療がうまくいかずに生きる気力自体がなくなってしまいました。

 

結果的に生物学的な治療のアドヒアランスを保つモチベーションも失われて病状が悪化してしまったということなんです。

 

今だけ我慢すれば完治するわけではなく、数十年付き合うことになるような病気の場合は特に、治療継続率やアドヒアランスを考えると、両方の兼ね合いが一番良い状態にしておいた方が、全体的な治療成績が良くなるんじゃないかと思っています。

 

 

医師になった今、このご経験を踏まえて、患者さんの生物学的スコアと社会心理学的スコアのバランスを保つために、どのような言葉を掛けられているのでしょうか?

石井 食事指導の点でいうと、あれはダメ、これもダメと言うだけではなく、もう少し限定的な指導をするようにしています。

 

例えば、この前セカンドオピニオンで僕のところに訪ねてきてくれた患者さんは、潰瘍性大腸炎と診断されて半年くらいの方だったのですが、顔色がかなり悪く、「もうとにかく体がだるくてやる気が起きないんです」と言っていました。

 

最初は病状をうまくコントロールすることができずに悩んでいるのかと思っていたのですが、よくよく聞いてみると、体調が悪化することへの恐怖から食事指導を必要以上に遵守し、「刺激物や油ものを過剰に避けて、素うどんばかりを食べ続ける生活をしていた」とのことで、「これから一生こうなのかと思うと、もう死んでもいいかもしれないとまで思う」と話してくれました。

 

そこで、まずは「食べたいものを食べていい。病気の症状が悪化した時に薬を調節するのは僕の仕事ですから」と伝えました。

 

その上で、「普段は気にせず食事をしていいけれど、病状が悪化する予兆があったら、刺激物や油ものを控えてください」と言いました。

 

悪化する予兆というのは、熱が出るとか、脈が速くなるとか、腰痛が出るといったことです。そうした予兆が表れたら、自分で食事制限をしたり、活動期の治療を早めに開始するために受診してほしい、と説明しました。

 

「この制限が一生続くのか」という絶望を、「ここぞというときにあらかじめ把握している手を打てば、増悪が避けられる」というポジティブな考え方に変え、自分で病気を制御できる感覚を持ってもらうのが狙いです。

 

その患者さんは、その後調子もよく、フルドーズだった5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤を3分の1くらいまで減らせました。今も「食欲があって、つい食べ過ぎてしまう」とうれしそうに報告してくれます。

 

僕は病気になったとき、自分の人生に制限をかけて、一度諦めてしまった感覚があるので、自分の患者さんには、できるだけ希望を捨てず、道を一緒に探したいと思っています。

 

「病気がなかったら、何がしたい?」と質問すると、本当はやりたいが我慢していることを教えてくれる患者さんもいます。

 

先日は、「本当は海外で働いてみたいけれど、生物学的製剤など高額な医薬品を使っていることもあり、特定疾患医療費助成制度が使える日本を出られない」という大学生の患者さんがいました。

 

海外に働く知り合いなどにいろいろ聞いてみたところ、海外でも職につければ保険が使える会社もあると分かりました。

 

病気があると、本当に簡単に諦めてしまいがちですが、その大学生が次回来院した際には、「諦めなくてもいいかもしれないよ」ということを伝えたいと思っています。

 

 

先生は医師になってからも、何度か入院・手術を受けられています。潰瘍性大腸炎になった高校生の頃とは違い、既に医師としての知識がある中で、医師や医療者に伝えられて不安になった言葉やうれしかった言葉はありますか。

石井 僕は大腸全摘後、一時は人工肛門を付けていたのですが、後に小腸肛門につなぎなおすJ型回腸嚢肛門管吻合術を受けて、人工肛門を外しました。その手術の影響で、医師になってからも入院・手術を受けなければならなくなったことがありました。

 

医師になってからの入院で一番印象的だったのは、術後、出血が起きたので麻酔なしで緊急内視鏡をしたときのことです。

 

術後ということもあり、内視鏡がすごく痛くて、痛み止めを使ってほしいと訴えたんですが、医師に「そんなに痛いわけない!」と言われました。

 

いやいや、すごく痛いんです。

 

確かに、自分も消化器外科医として患者さんを診ているとき、「そんなに痛いかなあ?」と思うこともありましたが、自分が感じている痛みを他人に否定されるのはすごく腹立たしいことだと実感しました。

 

この経験から、痛みは本人にしか分からないと改めて思い、すごく入念に、具体的に聞いてアドバイスするようになりました。

 

痛み止めを積極的に使いたい人もいるし、できるだけ薬を使わない範囲で苦痛を取りたい人もいる。痛みに敏感でありながら、その人の希望に合わせられる医師になったと自負しています。

 

そんなに痛みを伴うことはないと思う手技でも、「これは痛くないから」とは絶対言いません。「触られている感覚が気持ち悪い人もいるし、痛かったらすぐに言ってくださいね」と伝えています。

 

医療者が何気なく発した言葉でも、患者にすごく大きい影響を与えることがあります。自分の言葉1つひとつが患者にどう受け止められたのか、きちんと考えることを忘れないようにしたいと思っています。

 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

Aナーシングは、医学メディアとして40年の歴史を持つ「日経メディカル」がプロデュースする看護師向け情報サイト。会員登録(無料)すると、臨床からキャリアまで、多くのニュースやコラムをご覧いただけます。Aナーシングサイトはこちら

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