「経鼻栄養チューブの誤挿入」による事故を防ぐ、栄養剤投与前の5つの観察ポイント
鼻の穴から胃にチューブを挿入し、そこから栄養剤を投与する「経鼻胃管栄養」は、比較的侵襲が少なく簡便な栄養法と言われ、日常的に医療機関で行われています。
しかし、誤って気管や肺などにチューブを挿入し、まれに死亡事故につながることが、以前から繰り返し問題になっています。
東京都看護協会の会長で、医療安全に詳しい山元恵子さんは、「経鼻栄養チューブの誤挿入による事故を防ぐためには、挿入時の手技だけでなく、挿入前の準備や挿入後の観察など一連のプロセスが最も重要である」と論文で書いています。
その中でも、栄養剤投与前の観察が大切であるため、山元さんは看護師や介護職員が観察行動を習慣づけられるように、5つの観察項目をまとめた「まみむめも」という覚え方を提唱しています。
5つの観察項目「まみむめも」とは
栄養剤投与前の5つの観察項目「まみむめも」とは、誤挿入の兆候を発見するために、チューブの先端が胃の中に留置されているかを確認する方法をまとめたものです。
- ま:マーキング位置
- み:耳で呼気漏れがない
- む:むせ込みがない
- め:目で口腔内を見る
- も:モニターの確認・記録
チューブの留置位置を確認する方法は、現在のところ簡易な方法で確実なものはありません。そのため、複数の方法を組み合わせて実施することが推奨されています。
この5つの観察項目は、ベッドサイドで行える実行性の高いものを、覚えやすいように語呂合わせにして山元さんがまとめたもので、2016年「経鼻栄養チューブ挿入のリスクマネジメントと教育システム」をまとめた論文として発表しました。
マーキング位置のずれは誤注入のリスク
「ま」のマーキング位置の観察は、チューブを挿入し、固定する際、適切な挿入長に油性マジックなどでマーキングしておいた位置がずれているかどうかを見ることです。
マーキング位置がずれている場合、チューブが抜けかかって、チューブの先端位置が変わり、胃の中に留置されていない可能性があります。
そのまま栄養剤を投与すると、食道や気道への「誤注入」につながり、命の危険にかかわる状態となるため、栄養剤の注入を中止すべきと考えられます。
また、山元さんは、「誤注入のリスクを回避するためには、チューブを適切な長さで挿入することが大切」と言います。
※「山元恵子、佐藤博信.安全な経鼻栄養チューブの挿入長さと条件.医療機器学会誌.86(5),2016,459-466」を基に看護roo!編集部で作成
チューブを患者さんの体に当てながら計測できる場合は、鼻孔から耳たぶ、そして喉頭隆起を経て、心窩部に至るまでの長さを計測します。
山元さんは、「以前、看護の教科書では、鼻から耳、耳から心窩部と言われていましたが、その根拠は明らかではななく、それでは短いと考えられます。喉頭隆起を通過することがポイントです」と言っています。
また、側弯など体系的に問題がある場合や興奮状態の場合など計測できない際には、「身長(cm)×0.3+10」という計算式が目安になるとしました。
この計算式は、実際に鼻からチューブを挿入し、X線で留置状態を確認した15例の結果を分析し、チューブの長さと身長との関係から統計的に山元さんが導き出したものです。
耳にチューブをあて、音がしたら誤挿入を疑う
「み」は、耳にチューブの末端を当てて、呼吸音や呼気漏れがないかを観察することです。
音がする場合は、気管や肺にチューブを誤って挿入している可能性が考えられるため、栄養剤の注入を中止し、チューブの入れ替えなどを検討する必要があります。
むせ込みがある場合、チューブの絡まりやたわみを疑う
「む」は、むせ込みや咳嗽などが見られないかを観察することです。
チューブが咽頭付近で交差していたり、絡まったり、チューブにたわみがあったりすると、チューブの刺激で、むせ込みや咳嗽が起こる場合があるからです。
むせ込みや咳嗽がある場合は、栄養剤の投与を中止し、何が要因かをよく観察する必要があります。
目で口腔内のチューブが交差していないか確認
「め」は、目で口腔内を観察することです。
右鼻腔から正常にチューブが挿入されている場合は口腔内右側の中央に、左鼻腔から正常にチューブが挿入されている場合は口腔内左側の中央に、それぞれまっすぐに位置しています。
チューブが口腔内でとぐろを巻いていたり、交差していなかったりすると、チューブの刺激で咳や痰が増え、口腔内の清潔が保持されず、感染を引き起こす可能性があります。
チューブの位置に問題がある場合は、栄養剤の注入を中止し、チューブの入れ替えを検討する必要があります。
モニターで呼吸状態の変化が見られたら誤挿入の兆候を疑う
「も」は、モニター(パルスオキシメーター)でSpO2の値を確認することです。
チューブが気管や肺などに誤って挿入されている場合、呼吸状態が悪くなります。
山元さんは、「この変化のスピードは人によってさまざまですが、日頃の正常値を記録しておくと、変化に気づくことができ、正確な指標になります」と言います。
異常が見られれば、栄養剤の投与を中止し、迅速な対応が求められます。
「根拠や理由を考える必要がある」
山元さんは、2006年度の厚生労働科学研究「ヒヤリ・ハットや事故事例の分析による医療安全対策ガイドライン作成に関する研究」に携わって以降、経鼻胃管栄養の問題に取り組み続けています。
10年以上にわたる研究や啓発活動を通じ、次のように考えるようになったと言います。
「医療や看護は変化していますが、教科書がなかなか変われず、追いついていないところがあります。教科書をただ信用するのではなく、そう言われたから、そう教えられたからで終わらずに、なぜそうする必要があるのか、その根拠となるものは何かを日頃から考える必要があると思います」
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過去には、栄養チューブによる栄養剤誤投与に関連した死亡事故で、看護師が業務上の責任を問われたことがあります。
患者さんの命を守るためにも、看護師が医療事故の当事者にならないためにも、安全な手順や管理を考えていく必要があるのではないでしょうか。
※「まみむめも」のイラストは「博士論文:経鼻栄養チューブ挿入のリスクマネジメントと教育システムについて」などを基に看護roo!で作成
【イラスト/宗本真里奈、文・編集/看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo)】
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(参考)
博士論文:経鼻栄養チューブ挿入のリスクマネジメントと教育システムについて(山元恵子)
山元恵子監修.写真でわかる経鼻栄養チューブの挿入と管理.2011,インターメディカ.
山元恵子監修.経鼻経腸栄養ポケットガイド:安全な経鼻栄養チューブの管理を目指して.ジェイ・エム・エス.
山元恵子、佐藤博信.安全な経鼻栄養チューブの挿入長さと条件.医療機器学会誌.86(5),2016,459-466.
医療事故の再発防止に向けた提言(日本医療安全調査機構 医療事故調査・支援センター)
医療事故の再発防止に向けた提言 第6号「栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析」(日本医療安全調査機構 医療事故調査・支援センター)
胃管挿入時の位置確認(日本医療安全調査機構 医療事故調査・支援センター)