これって風疹? 見逃しを防ぐ診療ポイントとは|後頸部のリンパ節腫脹のチェックを

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

聞き手:三和 護=編集委員

 

風疹患者が増え続けている。首都圏を中心に感染が広がっており、全国的な感染拡大も懸念される状況だ。風疹に対する抵抗力の低い人が30~50歳代の男性で増えていることから、専門家の間からは、2013年大流行の再来を危惧する声も上がっている。感染拡大を阻止するためにはどうずればよいのか――。

 

国立国際医療研究センター国際感染症対策室医長の忽那賢志氏に、特に成人の風疹を見逃さないための診療のポイントを聞いた。

 

国立国際医療研究センター国際感染症対策室医長の忽那賢志氏の写真

 

―― 風疹患者の報告数が、2018年第33週までに184人と、2016年と2017年の年間患者数を超えました(図1)。今は首都圏中心の流行ですが、いずれ全国に広がっていくと懸念する声も出ています。先生はこの状況をどのように見ていますか。

 

図1 2018年の風疹患者報告数の推移(国立感染症研究所のデータを基に作成)

 

忽那 2013年大流行の再来を危惧しています。このときは、1万4344人の患者が報告され、45人もの先天性風疹症候群が確認されました。風疹はワクチンで防げる感染症ですが、残念ながら接種率が上がっておらず、特に30~50歳代の男性で風疹に感受性のある人(抵抗力が弱い人)が増えていますので、感染拡大のリスクは高いと考えています。

 

―― 2013年の大流行から5年も経ち、風疹患者の診察経験がない医師が増えています。そのような医師が救急や外来で風疹が疑われる患者に遭遇する可能性が高まっているわけですが、どのような考え方で診察に臨めばいいのでしょうか。

 

忽那 現在の流行は成人が中心ですので、成人風疹の診療のポイントをお話しします。まず大切なのは、風疹の臨床経過(図2)を押さえておくことです。感染して8日目あたりからリンパ節腫脹が始まり、2週間後には上気道症状と発熱が出現し、皮疹が出てきます。その後、関節痛が出るという流れです。

 

図2 風疹の臨床経過(忽那氏による。写真1~3も)

 

―― 成人の風疹の場合も3徴は、発熱、皮疹、リンパ節腫脹と考えてよろしいのでしょうか。

 

忽那 その通りです。特に、後頸部のリンパ節腫脹は特徴的です(写真1)。診察では、まず首の後ろを触ることが大切です。

 

写真1 成人風疹に特徴的な後頸部のリンパ節腫脹(矢印部分に特徴)

 

―― 皮疹はいかがですか。

 

忽那 写真2が風疹の典型的な皮疹です。顔面や頸部から体幹に急速に広がる、癒合しない淡い皮疹です。

 

ただし、成人の風疹の場合は、皮疹が非典型的なことがありますので、注意しなければなりません。教科書には「癒合せず色素沈着を残さない」という特徴があると記述されていますが、これは小児の風疹の場合です。成人では必ずしも当てはまらないのです。写真3のように、圧迫しても消退しない紫斑だったり、癒合した皮疹だったりすることもあります。

 

写真2 風疹の典型的な皮疹(顔面頸部から体幹に急速に広がり癒合しない淡い皮疹)

 

写真3 成人に見られる風疹の非典型的な皮疹 上:圧迫しても消退しない(紫斑) 下:癒合する皮疹

 

―― ここまでくれば風疹と疑っていいのでしょうか。

 

忽那 風疹のワクチン接種歴を確認することが重要です。母子手帳などの記録に基づいてワクチン接種歴を確認します。患者さんは母子手帳を持参することはまずないですから、実家に電話してもらうこともあります。ワクチン接種歴がない、あるいは不明であれば、風疹疑い例として最寄りの保健所に届け出て、確定診断をしてもらいます。

 

―― ワクチン接種歴があった場合は、風疹以外を考えるということになりますか。

 

忽那 皮疹の状態によっては、麻疹との鑑別が困難な場合も多いですから、風疹ワクチンの接種歴があるという情報は鑑別にも役立ちます。

 

―― 確定診断は保健所で行うのですね。

 

忽那 PCR法や風疹のIgMを検査することで、確定します。IgMは外注検査でも可能です。ただし、臨床経過の図にありましたが、風疹のIgMは発症から数日は偽陰性のこともありますので注意が必要になります。大切なのは、臨床症状で風疹を疑った時点で保健所に連絡をすることです。

 

―― 目の前の患者さんが風疹の疑い例だった場合、治療はどうしますか。

 

忽那 風疹には特異的な治療法がありませんので、対症療法で症状を和らげることが中心です。また、多くの患者さんは症状が軽度なのですが、2013年の流行では1万人当たり3例の割合で重症者が出ていますので、重症化にも注意する必要があります。例えば、頭痛が続くとか、意識がもうろうとするとか、や痰など肺炎症状が続くとかいった場合は、重症化へ向かっていると捉え、入院加療を考えるべきです。

 

―― 治療後、患者さんは自宅で安静することになりますか。

 

忽那 小児であれば学校保健安全法に従いますが、成人の場合もそれに準ずることになります。学校保健安全法では、風疹の場合、発疹が消失するまで出席停止となっていますから、社会人も同様に発疹が消失するまでは出社停止となります。

 

―― 院内で風疹の感染を広げないために注意すべき点は何でしょうか。

 

忽那 風疹の場合は、飛沫感染あるいは接触感染ですので、マスクの着用が必要です。診察中もそうですが、待合室でも上気道症状がある患者さんにはマスクをしてもらうべきです。

 

―― 最後に、患者さんが女性であった場合の留意点を教えてください。

 

忽那 女性の場合は先天性風疹症候群のリスクがありますから、特に妊娠している場合は、専門の医療機関への受診を勧めてください。繰り返しになりますが、風疹はワクチンで防げる病気です。

 

ただし、妊娠中は風疹含有ワクチンの接種は受けられず、受けた後は 2カ月間妊娠を避ける必要があります。女性は妊娠前に2回、風疹含有ワクチンを受けてください。そして、妊娠出産年齢の女性や妊婦の周囲にいる人もワクチンを接種するようにしてください。

 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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