美容目的の医療用保湿剤、処方制限見送りも審査強化へ

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河野紀子=日経ドラッグインフォメーション

 

医療用保湿剤が美容目的で使用されているとして健康保険組合連合会が同剤の処方制限、保険外しを提案した。これに対し学会は、治療で必要とする患者に大きな不利益を生じかねないと反発。落とし所は「審査強化」だった。

 


 

保湿塗り薬の処方急増『お得に美肌』情報拡散、困った」──。昨年10月30日付の東京新聞に、こんな見出しが躍った。

 

2018年度診療報酬改定に向けて健康保険組合連合会がレセプトデータを分析したところ、ここ数年でヒルドイド(一般名ヘパリン類似物質)を中心とした医療用保湿剤の処方量が急増していることが判明。

 

ヒルドイド(一般名ヘパリン類似物質)の写真

 

「雑誌やインターネットで『美肌になれる』などと紹介されて広まり、公的医療保険の適用により低料金で入手できることから、化粧品代わりに求める女性が増えたことが背景とみられる」と報じた。

 

健保連はこの分析結果を基に、美容目的で「皮膚乾燥症」のレセプト病名によって、医療用保湿剤を単剤処方されている患者が増加している可能性があるとして、他の外用薬や抗ヒスタミン薬と同時に処方されていなければ保険適用外とするなどの処方制限や、中長期的には保険適用から外すことを提案した。

 

これに対し日本皮膚科学会は10月末、会員に対して適正処方に努めるよう求めるとともに、「保湿剤による治療を必要とする患者に大きな不利益を生じかねない」などとして処方制限に反対する旨の要望書を、厚生労働大臣、日本医師会長、健保連会長宛てに提出した。

 

ヒルドイドの製造販売元であるマルホも、「適正使用に関するお知らせ」と題する文書を発表。

 

患者が自己判断で治療以外の目的で使うと、適切な効果が見込めないだけでなく、副作用が発現するリスクがあるとして注意喚起する事態となった。

 

処方量は制限されないが……

厚生労働省は11月の中央社会保険医療協議会総会で、この「保湿剤問題」を論点に挙げた。ビタミン剤やうがい薬、湿布薬など、過去の診療報酬改定で対象になった医療費適正化の事例を説明。

 

ヘパリン類似物質の処方量の分布を提示し、2016年度の処方回数は、25gチューブで4本程度(100g程度)以下が多かったが、1回で10本(250g)以上処方されているケースもあったと説明した。

 

中医協委員で健保連理事の幸野庄司氏ら支払側委員は、安易な処方に対する制限や、原因の追及を厚労省に求めた。

 

一方、診療側委員からは、必要な患者に不利益を生じないような仕組みを求める声が続出した。

 

特に皮膚科専門医である日本医師会常任理事の松本吉郎氏は「メーカーや学会から注意喚起が出ているので、しばらく様子を見るべきだ」と強調した。

 

中医協総会が2018年2月7日に開催され、2018年度診療報酬改定案を厚生労働大臣に答申した。医療用保湿剤の適正処方については付帯意見の中で、引き続き検討する旨が明記され、今改定では処方量に具体的な制限は盛り込まれることはなかった。

 

東京都内のある皮膚科勤務医は、「一時は処方量を制限されるのかと不安だったが、そうならずにほっとした」と胸をなで下ろす。

 

だが、これまで通りとはいかない。医科向けの改定項目で、血行促進・皮膚保湿剤のヘパリンナトリウム(商品名ヘパリンZ)とヘパリン類似物質(ヒルドイド他)の処方に関する要件が見直されたからだ。

 

具体的には、(1)美容目的などの疾病の治療以外を目的としたものについては、保険給付の対象外である旨を明確化する、(2)審査支払機関において適切な対応がなされるよう周知する──といったもの。

 

厚労省に近い関係者からは「2月に行われるレセプト審査から、適正処方がなされているかどうか厳しく見られることになる」との声が聞こえてくる。

 

審査の内容は非公開だが、「患者の疾病はもちろん、必要な塗布範囲に基づいた処方量であるかどうかといった部分までチェックされると思っていた方がよい」(関係者)という。

 

既に、レセプト審査の対策として、「1枚の処方箋につき200gまで」などと、処方の目安を自主的に制限する病院も出てきている。

 

医療用保湿剤の美容目的使用に関する報道は鎮静化したものの、医療現場への影響は今後も注視していく必要があるだろう。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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