「37.8度は発熱ではない」EPA外国人看護師と日本人看護師の感覚はどこが違うのか
この連載では、私がEPA外国人看護師と一緒に働いて感じたことやそのエピソードをお伝えし、より良い協働のために何が必要なのか、読者の皆さんと一緒に考えていければと思います。
【文:小林ゆう(看護師)】
外国人看護師と共に働く現場から【3】
EPA外国人看護師と日本人看護師の「熱がある」感覚の違い
ホセにとっての「発熱」
◆母国で2年の看護師経験をもつホセ
フィリピン出身のホセは、今年(2017年)の春に看護師国家試験に合格したばかり。
そのため、先輩看護師の補助役として業務をスタートしました。
今はまだ「補助」ではありますが、母国で2年看護師として働いた経験から、ホセは仕事にだいぶ自信をもっているようです。
看護助手の頃からフットワークが軽かったホセは、資格取得後も率先してナースコールを受けたり、食事介助やトイレ介助を行っています。
まだ完全に患者さんを任せることはできませんが、バイタル測定などは、先輩ナースの受け持ち患者数人を担当していました。
◆午前と午後、ホセが測ったバイタル
ある日の朝。
私が受け持っていた患者さんの検査時間が重なり、手が離せなかったため、ホセにAさんのバイタル測定を依頼しました。
Aさんは、開腹術後2日目、腹腔ドレーンが入っている患者さんです。
私の職場では、通常、37.5度以上の発熱があった患者さんは「発熱者」として次の勤務帯に申し送りをしています。
前の勤務(夜勤帯)からは、発熱の申し送りはありませんでした。
午後になって、「熱がある患者さんがいる」とホセから報告を受けました。
「38.4度で、顔が少し赤い」と。
その際、朝の測定時にも「37.8度あった」と報告されて青ざめました。
私「なぜ午前中のうちに報告がなかったの?」
ホセ「アサ ネツナカッタ」
私「37.8度…熱あったよね?」
ホセ「ネツナイ、フィリピンノビョウインデハ ネツナイ、ネツガアルノハ38ドカラ」
私「……(ここは日本ですけど?)」
ホセが37.8度でも「熱はない」と判断したことから、午前の報告がなかったため、患者さんの観察が遅れてしまいました。
本来ならば、ドレーン刺入部の観察やその他の自覚症状の有無、呼吸音や尿量、性状など、発熱の原因と推測される点を観察する必要がありました。
◆自分は怒られるようなことはしていないのに
青ざめる私を見て、ホセも驚いたようです。
「自分は何も怒られるようなことはしていないのに」と。
その後、よくよくホセに話を聞いてみたところ、ホセが勤務していたフィリピンの病院では、37.5度以上38.0度未満は微熱、38.0度以上が発熱として扱われていたとのことでした。
数値だけ見ると日本と大差はないように思いますが、「微熱は問題ない」と判断してしまうことでリスクが生じます。
Aさんは術後であり、ドレーンが入っているので、発熱から一番恐れることは創感染です。
このような「アセスメント→判断」ができず、熱に関して注視ができなかったことが問題になります。
その時初めて、ホセは当院で行われている「発熱者の申し送り(37.5度以上)」に以前から疑問を感じていたと言いました。
「疑問を感じていたなら早く言ってよ!」とその時ナースセンターにいた誰もが突っこんだ瞬間でした…。
初めのうちは「フィリピンではー」と口癖のように言っていたホセでしたが、この一件からその言葉はあまり口にしなくなりました。
母国での2年の看護師経験が、日本で活きる場面と、逆にリスクを生みかねない場面があります。
これは、ホセだけでなく共に働く私たちが、共通認識としてもっていなければならないことです。
私たちの常識は世界共通ではない
看護師には、単なる「熱の有無」を確認するだけでなく、「熱があることから何が考えられるのか」「そのほかの観察ポイントは何か」を瞬時に判断し、「どのようなことに気をつけなければいけないのか」をアセスメントしていく能力が必要です。
こういったアセスメント能力は、出身国が違っても、同じ看護師の資格保有者として取得していかなければいけません。
そのためには、まず基準を知ってもらうところから、指導をしなければならないのです。
母国で看護師としての経験があっても、日本では新人指導と同じように、それぞれの考え方・基準を伝えていく労力が必要です。
ホセの常識も、私たちの常識も、世界共通ではないのです。
また、数値だけで判断するのではなく、そこからどのような状況が予測されるのか、そのほかに観察しなければいけないことは何なのかなど、瞬時に判断できるようになるために、共に訓練を積まなければなりません。
日本国内でも曖昧な発熱の定義
日本国内でも、37度台は微熱で、38度以上から「熱がある状態」と判断する病院もあります。
診療科の違いや患者さんの年齢、既往歴などの背景によっても、その定義は微妙に変化すると思います。
測定した時間帯によっても異なりますよね。
私の職場では発熱は37.5度以上とする基準が設けられていて、
- 熱が出始めている患者さんや高熱が続いている患者さんの熱型に気をつける
- 微熱が続いているような患者さんに注意する
- 薬剤の効果を判断する材料とする
- 異常の早期発見
などの目的から、各勤務帯で発熱している患者さんが申し送られています。
ただ、基準だけを見ていればいいのではなく、患者さんの主観のバラツキも考慮に入れなければなりません。
私は、自分自身がめったに熱が出ない体質なので、「37.8度」の発熱でも、まいってしまって重病人のようになるでしょう。
「私の平熱は35.5度くらいだから、36.8度だなんて、あぁ熱があるわ」と慌てる方もいます。(中高年の女性患者さんに多いように思いますが)。
こういった方が、「37.8度」の数字を見たらどんなに大騒ぎすることでしょうか。
そのような場面で、ホセが「ダイジョーブ、ネツハナイネー」と言ってしまわないように、足並みを揃えていかなければなりません。
足並みを揃える作業が必要
私が勤務する急性期の病棟は、常に業務に追われ、手術や検査も多く、いつも時間との戦いになります。
そのような状況で、EPA看護師に指導をし、お互いの認識を確認し、足並みを揃えることは容易ではありません。
共に働くためには、お互いの時間と努力が必要なのです。
ホセが一人前になるまで、まだまだ時間はかかりそうです。
【文】小林 ゆう
関東在住。総合病院で勤務する傍ら、看護師ライターとして執筆活動をしている。子育てに奮闘しながらも趣味のライブやダイビングに熱を注ぐ40代。
【イラスト】明(みん)
看護師・漫画家。沖縄県出身。大学卒業後、看護師の仕事の傍らマンガを描き始める。異世界の医療を
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