EPA外国人看護師が日本にやってくる本当の理由

この連載では、私がEPA外国人看護師と一緒に働いて感じたことやそのエピソードをお伝えし、より良い協働のために何が必要なのか、読者の皆さんと一緒に考えていければと思います。

【文:小林ゆう(看護師)】

 

外国人看護師と共に働く現場から

Vol.4 EPA外国人看護師が日本にやってくる本当の理由

EPA外国人看護師が来日している様子を表すイメージイラスト。

 

 

EPA外国人看護師が日本に来る理由

EPA看護師が日本に来る理由として、よく聞かれるのは「高収入を得られる」と「先進国の医療が学べる」の2つです。

 

【1】高収入を得られる

マリアが出身国であるフィリピンで働いていた当時の月収は、日本円にすると2万円だったそうです。

日本で看護師をすれば、20万円程稼げると考えると、フィリピンの10倍の収入を得られる計算になります。

 

「日本で1年働けば、フィリピンの10年分の収入を得られる」とマリアは言います。

 

 

【2】先進国の医療を学べる

先進国の医療を学べることも、彼らが日本で働く大きな理由です。

 

その背景には、「帰国後の就職に有利となる」という事情もあります。

 

帰国後は、「日本で勤務経験がある看護師、日本語が話せる看護師」として優遇され、病院だけではなく日系企業などからの求人も多いそうです。

 

また、フィリピンでは、在留邦人が利用するMMC(マカティ・メディカル・センター)も、帰国後の就職先として人気が高いようです。

(参考:公益社団法人日本アジア医療看護育成会アジア経済ニュース

 

 

マリアが日本に来た理由

私が一緒に働いているEPA看護師のマリアとホセ(ともにフィリピン出身)に、日本に来た理由を率直に聞いてみました。

 

まずはマリアからです。

 

EPA外国人看護師と一緒に働く著者のイラスト

マリアはなぜ日本に来たの?

 

EPA外国人看護師_フィリピン人のマリアのイラスト

日本には前から憧れてたの。

いつか住んでみたいって思ってた。

看護師ならずっと日本に住めるって知ったから。

 

 

EPA外国人看護師と一緒に働く著者のイラスト

フィリピンではどんなところで働いていたの?

 

EPA外国人看護師_フィリピン人のマリアのイラスト

マニラの総合病院

3年くらい働いた。

外来から手術室、なんでもやったよ。

その日によってやることが違うの。

日本は病棟が変わることはあんまりないけどフィリピンでは毎日変わる。

 

 

EPA外国人看護師と一緒に働く著者のイラスト

マリアの家族は何をしてる人たち?

 

EPA外国人看護師_フィリピン人のマリアのイラスト

父は会社経営してる。母は父のお手伝い。

妹が2人。家政婦いる。

 

 

EPA外国人看護師と一緒に働く著者のイラスト

家政婦!?お金持ちなのね!それなら仕送りはいらないんだね。

 

EPA外国人看護師_フィリピン人のマリアのイラスト

フィリピンでは家政婦がいること、珍しくないよー。

仕送りもしてる。

日本に来られたのも家族のおかげ。

私の仕送りで、家はもっとお金持ちになったよ!

 

 

EPA外国人看護師と一緒に働く著者のイラスト

日本に来て5年目だね。日本はどう?

 

EPA外国人看護師_フィリピン人のマリアのイラスト

楽しいけど、なにもかも高いねー。

でもそろそろ結婚したい。

彼に会えないの寂しいねー(筆者注:マリアはフィリピンに恋人がいる)

お金貯まったら帰るよ。

 

 

EPA外国人看護師と一緒に働く著者のイラスト

マリアの家はお金持ちだけど、自分の貯金もしてるの?

 

EPA外国人看護師_フィリピン人のマリアのイラスト

うん。自分のことは自分で頑張りたいから。

貯金がいっぱいあったら、結婚して子どもができたあと働かなくてすむでしょう?

 

 

EPA外国人看護師と一緒に働く著者のイラスト

今の病院の仕事はどう?

 

EPA外国人看護師_フィリピン人のマリアのイラスト

忙しくて大変。

みんな速くてついていくのが大変(筆者注:急性期病棟の業務の流れの速さについていくのが大変という意味)

もう少し、一人でできること増やしたいねー。

 

 

ホセが日本に来た理由

次に、ホセに質問してみました。

 

EPA外国人看護師と一緒に働く著者のイラスト

ホセはなぜ日本に来たの?

 

EPA外国人看護師、フィリピン人のホセのイラスト

父が体壊して働けなくなった。

日本に来たほうが稼げることを知ってたし。

弟たちがまだ小さいから僕が頑張らないといけない。

 

 

EPA外国人看護師と一緒に働く著者のイラスト

ホセの家族は?

 

EPA外国人看護師、フィリピン人のホセのイラスト

祖母と父と兄弟が6人。母は亡くなったよ。

 

 

EPA外国人看護師と一緒に働く著者のイラスト

大学卒業後、フィリピンではどんなところで働いていたの?

 

EPA外国人看護師、フィリピン人のホセのイラスト

病院。

でも初めから、3年働いたら日本に来るって決めてた。

 

 

EPA外国人看護師と一緒に働く著者のイラスト

日本語はどうやって勉強したの?

 

EPA外国人看護師、フィリピン人のホセのイラスト

大学の時に自分ではじめて、日本のアニメを見ながら勉強したよ。

そのあとEPA看護師候補生になって、日本に来てから半年間、日本語の勉強したけど、その頃には話せるようになってたな。

 

 

EPA外国人看護師と一緒に働く著者のイラスト

日本に来て3年目だね。日本はどう?

 

EPA外国人看護師、フィリピン人のホセのイラスト

夏は暑いね。冬は寒いし。

初めて東京に行ったときは人がいっぱいでびっくりしたよー。

あ、あと新幹線とかSLとか駅が面白いね。

いろんな電車が見られるのが楽しい。

美味しい食べ物もいっぱいあるけど、もう少し安かったらいいのに。

 

 

EPA外国人看護師と一緒に働く著者のイラスト

病院の仕事はどう?

 

EPA外国人看護師、フィリピン人のホセのイラスト

日本に来て3年目でやっと試験に合格できたよ。

その前に2回落ちたから。期間内に合格できてよかった。

(筆者注:ホセは来日後、3度の国試受験を経験。3度目となる今年〈2017年〉の看護師国家試験に合格している)

 

まだわからないことも多い。

日本語ももっと勉強しなくちゃ。

 

仕事は楽しいけど、いつも寂しい。家族に会いたいよ。

でも僕が頑張らなくちゃいけないし、5年くらいは頑張りたいよ。

日本で頑張るとフィリピンに帰ってから良い仕事ができる。

 

 

ホームシックに負ける人が続出

EPA看護師の受け入れ開始後、当院では、ホームシックに負けて帰国してしまう人が続出しています。

 

家族や恋人と遠く離れ、食べ物や文化、習慣など、何もかも違う土地で生活する大変さは、当事者でないとわからないことでしょう。

 

その他には、

 

・仕事内容が不満

・滞在期限内に看護師国家試験に合格できなかった(この場合は滞在ビザが切れるため、本人の意思とは無関係に帰国)

・合格しただけで満足

 

…などを理由に退職し、帰国していきました。

 

たしかに、日本語を覚えながら働き、資格取得の期限を気にしながら、勉強の日々が続くことを想像するだけでも逃げ出したくなります。

 

EPA外国人看護師が、日本語を勉強している様子を表現したイラスト

 

来日前は夢や希望を抱いていても、いざ現実を突きつけられると帰りたくなってしまう気持ちも、わからなくはありません。

 

 

「候補生」として来日しても、すぐに働けるわけではない

EPA(経済連携協定)で受け入れている「外国人看護師」は、あくまで看護師候補生です。

 

母国で看護師として働いていた経験があっても、日本で看護師国家試験に合格するまでは、日本国内で「看護師」として働くことはできません。

そのため、資格を取得するまでは「看護助手」として就業することになります。

 

各国での厳しい審査を勝ち抜き、晴れて「候補生」として日本に来ても、すぐに仕事ができるわけではないのです。

 

 

安易に“この制度は失敗だった”と言われたくない

さまざまな生活背景のもとに、日本にやってくる彼ら。

来日理由も十人十色です。

 

夢と希望を抱いてやってくる彼らですが、現実は厳しく、ホームシックと戦いながら生活をすることは、たやすくありません。

 

そのため、候補生の時点で帰国してしまうパターンも減らないのでしょう。

 

EPA看護師の定着の低さは、制度開始時からずっと続いている課題です。

だからこそ、メディアなどで「この制度は失敗だった」と言われてしまうのでしょうね。

 

しかし頑張っている彼らや、日々の指導を行っている私たちにとっては、安易に失敗だったと言われたくないというのが本音です。

 

看護師の離職率の高さは外国人に限ってのことではありません。

2025年問題を控え、医療現場の人員確保は深刻な社会問題でもあります。

現場で働く私たちは、日々「何ができるのか、何をするべきなのか」を考えていかなければならないと思うのです。

 

(参考)

厚生労働省:インドネシア、フィリピン及びベトナムからの外国人看護師・介護福祉士広報車の受け入れについて

朝日新聞デジタル:外国人看護師・介護士、難しい定着「もう疲れ果てた」(2016/9/18掲載)


【文】小林 ゆう

関東在住。総合病院で勤務する傍ら、看護師ライターとして執筆活動をしている。子育てに奮闘しながらも趣味のライブやダイビングに熱を注ぐ40代。

 

【イラスト】明(みん)

看護師・漫画家。沖縄県出身。大学卒業後、看護師の仕事の傍らマンガを描き始める。異世界の医療をファンタジックに描いたマンガ『LICHT-リヒト』1~3巻(小学館クリエイティブ)が好評発売中。趣味は合気道。

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