【詳報】成人肺炎診療ガイドライン2017発表|繰り返す誤嚥性肺炎・終末期肺炎に「治療しない」選択肢
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学会トピック◎第57回日本呼吸器学会学術講演会
日本呼吸器学会は4月21日、3年以上の年月をかけて作成した「成人肺炎診療ガイドライン2017」を発表した。これまで肺炎診療のガイドラインは、成人市中肺炎(CAP:community acquired pneumonia)、成人院内肺炎(HAP:hospital acquired pneumonia)、医療・介護関連肺炎(NHCAP:nursing and healthcare associated pneumonia)と、肺炎の病型ごとの3つのガイドラインが作られてきたが、それを1つにまとめて単純・明確化し、非専門の医師にとっても使いやすくすることを目指した。最大のポイントは、繰り返す誤嚥性肺炎や終末期の肺炎などに対して、個人の意思やQOLを尊重した治療・ケアを行うよう治療アルゴリズムに盛り込んだ点だ。
末田 聡美=日経メディカル
刊行されたばかりの新ガイドラインを手に講演する長崎大学呼吸器内科学の迎寛氏
同日、都内で開催された第57回日本呼吸器学会学術講演会の特別講演では、ガイドライン作成委員を務めた長崎大学呼吸器内科学教授の迎寛氏が新ガイドラインのポイントを紹介した。肺炎は日本人の死因第3位で、その数は増え続けているが、肺炎死亡者数のうち96.8%が65歳以上。「医療現場では特に、誤嚥性肺炎や終末期の肺炎への治療が大きな課題となっており、対応に苦慮してきた。QOLを重視する方針もあるのだという考え方をガイドラインで打ち出すことで、医療者や一般の人々が考えるきっかけになればよい」と語る。
新ガイドラインは25のクリニカルクエスチョン(CAP診断・治療で12項目、HAP/NHCAP9項目、予防4項目)を設定し、エビデンスと実地医療に即した推奨を掲げた。日本の肺炎診療の課題としては、耐性菌が増えている現状もあるため、薬剤耐性菌の蔓延を抑制する、限られた抗菌薬を有効に使っていく、といった視点も重視した。
CAPとNHCAP・HAPの2つに大別
新ガイドラインでは、CAP、NHCAP、HAPという患者の居場所や患者背景によって分類した3病型について、その治療方針を考えるアルゴリズムをフローチャートで示している(下図)。
図 成人肺炎診療ガイドライン2017に掲載された診療アルゴリズム
従来のガイドラインでは、CAP、HAPは重症度判定に基づいて治療方針を決めていたが、今回治療方針を検討する際に重要なポイントとして、(1)疾患終末期や老衰状態ではないか、誤嚥性肺炎を繰り返していないか(終末期・老衰/誤嚥性肺炎)、(2)耐性菌リスクを有していないか、(3)重症度が高いか、敗血症ではないか、予後不良ではないか(重症度/予後)、――の3点を提示。
「疾患終末期や老衰」の患者は、介護施設などに入所している、入退院を繰り返している、自宅では全身状態が悪く寝たきり、といった状況が想定されるNHCAP、HAPが主体で、CAPは少ないといえる。さらに耐性菌リスクについては、国内での耐性菌の頻度についてシステマティックレビューを行うと、HAPとNHCAPで耐性菌リスクは高く、CAPでは低い。
こうした結果を踏まえてCAPと、NHCAP/HAPの2つに大別して、診療の流れを提示することとした。
迎氏は、具体的にフローチャートの流れを紹介した。成人市中肺炎(CAP)への対応はシンプルで、A-DROP(肺炎の重症度分類)による重症度評価を行った上で治療場所や治療薬の選択を決定する。
医療・介護関連肺炎(NHCAP)と成人院内肺炎(HAP)の場合は、様々なファクターを考えることが必要になる。まず、原因菌や重症度評価よりも先に患者背景として「誤嚥性肺炎のリスクの判断」「疾患終末期や老衰状態の判断」について検討。「易反復性の誤嚥性肺炎のリスクあり、または疾患終末期や老衰の状態」だった場合には、「個人の意思やQOLを重視した治療・ケア」を行うこととし、患者背景を考慮することを推奨するアルゴリズムとなっている。「中には緩和ケアだけを行うケースもあるだろう」と迎氏。
一方で、「易反復性の誤嚥性肺炎のリスクあり、また疾患終末期や老衰の状態」ではないと判断した場合は、まず敗血症の有無、重症度(NHCAPはA-DROP、HAPはI-ROADで評価)、耐性菌リスク因子について判断した上でそれぞれのリスクに応じて治療内容を選択する。重症度が低く耐性菌リスクも低ければ、狭域抗菌薬治療から始めるescalation治療を行い、それ以外ならde-escalation治療を推奨している。
耐性菌リスクを検討するための指標として、今回新たに「院内肺炎・NHCAPの耐性菌のリスク因子」が提示されたのも特徴だ。(1)過去90日以内の経静脈内抗菌薬の使用歴、(2)過去90日以内に2日以上の入院歴、(3)免疫抑制状態、(4)活動性の低下(PS≧3、バーゼル指数<50、歩行不能、経管栄養または中心静脈栄養)――の4項目のうち2項目以上で耐性菌の高リスク群とした。「ただし、この指標は今後有効性を検証していく必要がある」(迎氏)。
抗菌薬でQOL低下するケースも
今回、患者背景をまず先に考える方針となった背景には、高齢者の肺炎診療においては、抗菌薬による治療が必ずしも恩恵を与えていない現状があるからだ。迎氏は、「65歳以上の肺炎診療では呼吸器専門医と非専門医の診療で予後に差がない」、「高齢者の肺炎では、寝たきり度や栄養状態など本人の状態が予後を大きく左右する」といった研究成果を紹介。さらに、高度認知症がある施設入所者で肺炎を発症した患者を対象とした観察研究では、高齢者肺炎に対する抗菌薬の投与は、生命予後は改善するもののQOLは有意に低下というデータも示された(Arch Intern med. 170;2010:1102-7)。
「高齢者の肺炎は原因菌を叩くだけでは治癒が困難であるが、そのことを患者家族も医療者も理解していない現状がある。必ずしも有益ではない医療行為により、不幸な終末期を迎えることもある」と迎氏は指摘する。
「個人の意思やQOLを重視」した診療の在り方について、新ガイドラインでは厚生労働省や日本老年医学会が先行して発表している終末期の医療やケアのあり方、意思決定プロセスに関するガイドラインを引用した形で対応している。具体的には、終末期医療のあり方について、(1)患者本人の意思決定を基本とする、(2)医療行為の開始・不開始、中止などは医師一人で判断するのではなく、多職種の医療ケアチームで慎重に判断する、(3)患者・家族の精神的・社会的な不安も含めた「総合的な医療及びケア」を行う、といったものだ。
<掲載元>
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