特定行為研修でタイムリーで効率的な看護を|第18回日本救急看護学会学術集会【学会トピック】

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第18回日本救急看護学会学術集会

2025年までに1万人の研修修了者の養成目指す

 

「今後、地域完結型の医療への変換を進めるにあたり、救急看護に携わる看護師にも、生活者としての患者や、生活の場である地域を看る力が求められるようになってきた。どこにいても患者のニーズに合った医療をタイムリーに届けるための手段の一つとして創設されたのが特定行為研修であり、医療現場では、特定行為の研修制度をもっと活用してほしい」――。

 

日本看護協会常任理事の洪愛子氏は、2016年10月29、30日に千葉市で開催された第18回日本救急看護学会学術集会の教育講演「救急看護の専門性発展へチャレンジ!特定行為研修を利用する」でこう語った。

 

日本看護協会常任理事の洪愛子氏

「医療現場では、特定行為の研修制度をもっと活用してほしい」と話す日本看護協会常任理事の洪愛子氏。

 

森下紀代美=医学ライター

 

2015年10月にスタートした「特定行為に係る看護師の研修制度」は、国が定める特定行為区分(21区分)の特定行為(38行為)について、指定研修の受講を修了した看護師が手順書に基づいて実施できるようにするための新たな制度だ。

 

「特定行為」とは、実践的な思考力や判断力、技術力を要するものとして、厚生労働省令で規定したものを指す。

 

超高齢・多死社会を迎える2025年に向けて、医療は「病院完結型」から「地域完結型」へと転換が図られているが、限りある医療資源の中で、増大する医療ニーズにタイムリーに対応していくためには、より効率的で効果的な医療体制の構築が不可欠だ。

 

多職種協働で質の高い医療を提供するために創設されたのが、「特定行為に係る看護師の研修制度」であり、一定の研修を受けた看護師は、手順書によって医師の判断を待たずに現場で患者に対応できるようになった。

 

「患者の状態に合わせてすぐ対応できるようになった」

制度開始から1年以上が経ち、洪氏は修了者の成果について発表した。これまでに約300人が特定行為研修を修了。そのうち日本看護協会では、認定看護師のみを対象に14区分の研修を行っており、39人が研修を修了している。

 

39人の大半が病院に所属しており、研修修了者からは「患者の状態に合わせたタイムリーな対応が可能になった」、「治療と生活の両面から患者にアプローチできるようになった」といった声が寄せられている。「質の高い医療を効率的に提供することにつながっていると言えるだろう」と洪氏。

 

また、修了者39人のうち14人は主に救急領域で緊急度・重症度が高い患者の初期治療に携わっている。循環や呼吸電解質などの管理において早期介入することで重症化予防を図り、的確な対応ができるようになったことに加え、在宅にも視点を拡げ、地域との連携もできつつある。

 

例えば、在宅で人工呼吸器を装着している患者の呼吸器管理に携わる、老人保健施設などからのオンコールに対してドクターカーで医師とともに対応する、在宅や老人保健施設の医療職や介護職に対して教育的な関わりを持つ、といった具合だ。

 

「特定行為研修」制度は、実施する「行為」ばかりに注目が集まりがちだが、「看護の関わりの中で特定行為も含めた医療を提供することに意義がある」と洪氏は強調する。「あくまでも看護の視点をベースに、そこから発展してその行為を行うかどうかの判断を下し、実施するところまでの一連の流れが重要だ」と話す。

 

日本看護協会は、2025年までに1万人の特定行為研修修了者の養成を目指す。「特定行為に係る看護師の研修制度」を医療現場でもっと活用し、さらなる専門性の発揮と看護師の裁量拡大を進めたい考えだ。

 

2025年に向けた看護の挑戦として同協会が策定した「看護の将来ビジョン~いのち・暮らし・尊厳をまもり支える看護」では、「緊急・重症な状態から回復することへの支援」として、急性期医療の場においても、早期の在宅復帰を目指し、暮らしの場に移行できる状態まで視野に入れた看護が重要であることが示された。

 

さらに、ビジョン達成に向けた活動の方向性の一つとして示されたのが、「『生活』と保健・医療・福祉を統合する看護職の裁量拡大」。そこには、「これまでも、ケアの領域の多くは看護職の裁量で実施されてきたが、暮らしの場での療養においては、医療的な判断や実施が適時的確になされることが、人々の安全・安心に直結する。

 

将来的には、地域において人々が安全に安心して療養出来ることを目指し、常に人々の傍らで活動する看護職の、医療的な判断や実施における裁量の拡大を進める」と記載された。

 

洪氏は「療養の場が暮らしの場に移行することを考えると、安全で安心な医療を確保するには、チーム医療の推進役となる看護職が裁量を拡大することが重要だ。それぞれの活動場所で期待される役割を踏まえ、看護の専門性がさらに発揮できるよう、特定行為研修を受講していただきたい」と訴えた。

 

特定行為研修で看護の専門性をより高める

講演では、現在、特定行為研修がどのような体制で行われているのかについても紹介した。

 

特定行為は、2014年に改正された保健師助産師看護師法において、「診療の補助行為の一つ」と位置付けられている。特定行為は現在38行為21区分とされ、いずれも判断や技術の難易度が高く、これまで以上に安全に医療を提供するためには、研修を受けることが不可欠だと考えられているものだ。

 

保助看法には、「特定行為の明確化」と「手順書により特定行為を行う看護師への研修の義務化」が新たに盛り込まれた。

 

特定行為の内容としては、「気管カニューレの交換」などのドレーンカテーテルに関する項目に注目が集まりがちだが、行為の内容は多岐に及び、薬剤の投与や調整、栄養や水分管理、血糖コントロール、循環動態の管理など、さまざまな場面に対する医療行為が含まれている。特定行為の範囲は、今後見直される可能性がある。

 

現在、「特定行為に係る看護師の研修制度」における研修は、全国の指定研修機関28施設で行われている。
就業しながら受講できるよう、講義・演習は印刷教材やメディアを利用した遠隔教育を活用。受講時間は、全ての特定行為区分に共通する「共通科目」を315時間以上、特定行為区分ごとに異なる「区分別科目」を15~72時間以上となっている。
実習は、全国の指定研修機関28施設のいずれかで受けることになるが、受講生の所属施設でも環境が整えば実施は可能とされている。

 

日本看護協会では、特定行為研修を春期と秋期で2コース行っている。各期の定員は認定看護師の有資格者100人。実績を重ねた認定看護師がその専門性を基盤に実践能力をさらに発展させることを目指す。

 

この研修を行う3年間は日本看護協会による認定看護師教育が休講となる予定だが、その後は特定行為研修を認定看護師教育に取り入れたモデル教育プログラムも検討していく方針だ。

 

救命救急センターには救急看護認定看護師の配置を

救急看護領域の専門資格としては、日本看護協会が認定している救急看護認定看護師、急性・重症患者看護専門看護師もある。
洪氏は、専門看護師・認定看護師の現状についても紹介した。
救急看護認定看護師の登録者数は2016年7月現在で1115人。登録者数が多い(51人以上)都道府県は、東京、神奈川、愛知、大阪、福岡で、認定看護師の教育機関があることが影響しているとみられる。一方で、救急看護認定看護師が全くいない都道府県はないが、10人以下と少ない県も11県ある。

 

急性・重症患者看護専門看護師の登録者数は210人(2016年1月現在、2016年の審査は現在進行中)となっている。急性・重症患者看護専門看護師は、47都道府県の全てにはいないのが実状で、9県では全くいない。

 

救急看護認定看護師、急性・重症患者看護専門看護師は、いずれも9割以上が病院に所属している。所属部署としては、救急看護認定看護師では救命救急センターが38.9%と最も多く、外来、ICU・CCU・HCUなどが続く。急性・重症看護専門看護師ではICU・CCU・HCUなどが44%と最も多く、救命救急センター、病棟などが続く。救急看護認定看護師の半数が500床以上、急性・重症患者看護専門看護師の半数が700床以上の病院に所属している。

 

課題も明らかになっている。救急看護認定看護師制度の設立の背景には、「三次救急の施設にこそ必要」とされたことがあるにもかかわらず、全国の救命救急センター283施設のうち、20施設には救急看護認定看護師がいない。さらにこの20施設のうち、急性・重症患者看護専門看護師がいるのは6施設のみで、14施設にはどちらもいない現状がある。こうした状況を改善するため、洪氏は該当する施設に人材の育成と配置を働きかけたいという。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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