知ったかぶりで抗癌剤の副作用を語るべからず|シリーズ◎癌治療医が癌患者になって気付いたこと(2)

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

<シリーズ◎癌治療医が癌患者になって気付いたこと>

 

金沢赤十字病院副院長の西村元一氏に聞く

知ったかぶりで抗癌剤の副作用を語るべからず

昨年3月、の噴門部にステージ4の腫瘍が見つかり、「治療をしなければ余命は半年」と宣告を受けた西村元一氏(金沢赤十字病院副院長)。インタビュー後半では、患者が医療者に聞きたい情報は何かを聞いた。

 

聞き手:加納亜子=日経メディカル

 

西村元一

西村元一(にしむら げんいち)●1958年金沢市生まれ。83年金沢大医学部卒。金沢大病院などを経て、2008年に金沢赤十字病院第一外科部長に就任。09年から現職を兼務。13年から、がん患者や医療者が集うグループ「がんとむきあう会」代表を勤めている。

 

――医師が患者に副作用を説明するときには、文献で学んだり医療者同士の話を基に伝えている医療者がほとんどです。これまで癌治療医として、患者に伝えていたことと、実体験で異なる点はありましたか?

異なる点だらけでした。例えば、医師の立場だったときには抗癌剤の副作用を「味が薄くなる」「味が感じなくなる」と説明していました。味覚障害が出た患者には「味を濃くして食べるしかない」「一時的なものだから」などと、あたかも知っている、経験したことがあるかのようなアドバイスをしていました。

 

ですが、実際に体験してみると、味がしなくなるという感覚とは全く違うことが分かり、その大きなギャップに衝撃を受け、反省しました。言ってみれば、コーヒーを飲もうとしたときに、無意識に想像する味と口に入ってきた味が全く違い、おいしく感じられず心地が悪い、という感じでしょうか。

 

副作用の現れ方は個人差が大きく、その感じ方もまちまちです。なので、患者によって「味が薄くなる」とか「感じなくなる」と表現は分かれるのだと思います。そして、その表現が指すものは本人にしか分かりません。 

 

患者の言葉を自分の疑似体験にする

――医師が患者から「経験したことないのに」「他人事だからそう言える」と言われてしまうケースもあると聞きます。

はい。それは仕方がないことです。医師は副作用を体験できないですから。とはいえ、経験がなくても患者が治療を始める際にどんなことが起こるかを想定し、伝えなければなりません。味覚障害が出たときに備えて対処法を示すなど、投薬前や投薬中の患者の不安を和らげるのは医師の責務です。

 

ですが、医療者がもっともらしく説明したところで、患者にメリットはありません。経験したことのないことを分かっているフリをして伝えるよりも、「どういうものかは経験したことはないから分からない」と正直に前置きをした上で、「ある患者さんはこう表現しているし、他の方はこう表現していました」と伝えたり、「ある患者さんはこんな症状が出たと話して、こんな対処をしていました」というように伝えればよかったのだと反省しています。

 

患者としては、副作用そのものの説明もほしいですが、どちらかといえば、副作用が出たときにどう対応しながら生活をしていかなければならないのか、ということをより知りたいと思っています。

 

――そういった指導をするには、やはり文献情報とは異なる知識と経験が必要になりますね。

電子カルテに味覚障害プラスと登録するだけで終わっていては、こうした患者指導はできません。患者がどのような副作用を感じているのか聞き出すコミュニケーションが大切になります。「物がまずくなってしまった」といった言葉でもいいですし、どういった味覚障害があるのか、どんなものなら食べやすいか、無理なく(おいしく)食べられるのかという視点で患者に尋ね、患者の言葉で伝えてもらうようにする。それに対するケアを考え、なおかつそこで得られた患者の言葉を医療者の経験にして次の患者に生かしていく必要があるのだろうと思っています。

 

医療者はつい、患者が食べた量、痛みのスコアといった値に注目してしまいます。食べない理由は食欲以外にあるのかもしれないし、痛みを10段階のうちどこかと聞かれても、答えようがないのが実際のところです。

 

というのは私も、術後の痛みなどの副作用を医療者にうまく伝えることができませんでした。医療者がうまく伝えられないのですから、一般の人が伝えられるわけがありません。そう考えると、これまで患者にはかなり酷なことを求めていたのだと反省しています。

 

患者が症状をどのように感じたかを表現した言葉は非常に貴重な情報となります。患者としても感じたことをそのまま医療者に伝える方が難しくないですし、その人の言葉を基に前後を比較すれば症状の変化も見やすくなります。もちろん、それを後で医療者がスコアに置き換えてもよいでしょう。

 

医療者には、患者と接点を多く持とうとする心掛けと、患者の言葉を引き出す技術が欠かせません。患者の体験談を、自分の疑似体験にすることが、その後の信頼向上にもつながるのではないかと思っています。

 

医療者が気付かない患者の孤独

 

 

――患者として入院しているときに感じたことはありますか?

今はチーム医療が進み、様々な職種のスタッフが治療に関わっています。専門的な知識を持ったスタッフにより、治療やケアの水準が上がったのは非常に良いことだと思います。その半面、関わるスタッフが多いと、誰が自分の症状をどこまで知っているのだろうと違和感や不安を感じることも少なくありませんでした。

 

昔はベテランの看護師が病棟全体を大まかに把握していて、ちょっとした情報もスタッフ間で共有していました。外来も同様で、長い間通ってる患者の情報は共有できていました。つまり、情報収集に長けたベテラン看護師が患者と医療者の関係を取り持つといったことが自然に行われていたのだと思います。今は医療者の仕事の分業が進み、こうした役回りの看護師が減っています。

 

――それぞれの医療者が、こまめに情報共有をする必要があると。

はい。仕事の分業が進むのは医療者の勤務環境を考えれば良いことなのですが、患者の状態を全体的に捉える人がいなくなっていることは大きなデメリットだと思っています。加えて、1人の医療者が患者に接する時間が短くなり、信頼関係を築きにくくなっています。結果として、患者に関わり続けるのは医師1人になってしまい、医師への期待がものすごく高まるのでしょう。

 

入院中の患者は特に孤独を感じるものです。孤独感が強いほど、患者や家族の不満は強まるのかもしれません。だからこそ、ちょっとしたことであっても、逐一コミュニケーションを取ろうとすることは非常に大切なのです。難しい話ではなく、とりとめのない世間話でいいのです。

 

もちろん、医療者に時間の余裕はないでしょう。医師と患者がそれぞれの立場で不平・不満を主張しても解決できる問題ではないでしょう。互いの不満を強めないためにも、対話をする機会を少しでも多く設けて、医療者と患者がお互いの境遇をわかり合う必要があるのです。

 

怪しいものに手を出す「心情」は受け入れてほしい

――互いに歩み寄る姿勢を持つことで、患者が本当に必要な医療を受けられるようにもなりますね。

今は情報があふれています。その中には効果が怪しい治療法もたくさんあるし、「抗癌剤は不要」といった主張もあります。人間は弱いので、症状が重篤なほど現実から目を背けたくなるものです。治療も同様に、楽な方へ楽な方へと考えがちです。治療をしなくてもいいといった考えに行き着いてしまう人もいるでしょう。

 

受け持ちの患者にちゃんとした治療を受けてもらいたいと思うのであれば、患者が適切な治療を受けられるように、医療者が繰り返し話をしなければなりません。副作用は起こってしまうけれど抗癌剤治療をしなければならない理由を説明したり、怪しい物に手を出そうと迷っている様子があれば、「それよりも、こういった治療の方が十分効果がある」と、やんわりと否定していく。

 

患者は生きたいという想いが根底にあるからこそ治療を受けます。生きるため、治すために何をするか、どこまですれば後悔がないかという判断をするために、医療者と関わっているのです。その期待に応えるために、患者とコミュニケーションを重ねていく必要があるのです。

 

――あくまで医療者は患者が悔いなく生きるためのサポート役であるべきと。

生きたい、治したい思いがあるからこそ、医療者とうまくコミュニケーションが取れないと、「飲めば癌が治る水」や効果が不明瞭なサプリメントといった怪しい+αの治療に進んでしまう人がいるのです。これを医療者は知っておくべきでしょう。そんな心境の患者が「良い」と思っているものを医療者が頭ごなしに否定してしまえば、「生きたい」「治したい」という想いすら否定されたように受け止めてしまい、かえって隠れて続けられてしまう可能性もあります。非科学的な+αの治療を黙って行われれば、抗癌剤など治療に重要な薬剤の効果に悪影響を及ぼすリスクも高まってしまいます。

 

また、そういったものを家族や親戚から勧められている人もいるので、真っ向から否定したくてもできない、無理に否定できないと板挟みになる患者もいます。なぜ効果が科学的に示されていないものを「良い」と思っているのかといった個々人の背景を踏まえて諭していかなければならないと思うのです。そうしたときにはある意味逃げ道というか、落としどころとして、治療に影響を及ばさない範囲で容認するという手もあります。本人が悔いが残らないよう、納得できる医療を行うのが医療者の本分だと思うからです。

 

怪しいものはしっかりと否定してあげつつ、患者の「生きたい」「治したい」という気持ちは大切にする。医療者にはそういう思いで患者と接してほしいと願っています。

 

こうしたことを考えると、医療者としては正直にいろいろなことを話し合える関係を築くことと、目の前の一人一人の患者が不幸な結果にならないようにどうすればいいかを常に考えることが非常に重要かなと思います。

 

医療者と患者をつなぐ架け橋に

――それで医療機関の外で医療者と患者が話す場を設けたのですね。

医療者と患者の関係を少しでも良くするための架け橋として、医師であり患者である私が何かできないかと考え、交流の場として「金沢マギー」を立ち上げました。その後、2016年6月にはNPO法人「がんとむきあう会」を設立し、12月には活動拠点として「元ちゃんハウス」を開設しました(詳細は“がんとむきあう会”のウェブサイト)。 

 

癌の宣告を受ける前に、在宅医療を推進していく目的で、地域の医療機関や医療者と関わる機会をいただき、地域の医療環境はある程度把握できていました。加えて、私自身が癌患者になり、白衣を脱いで一市民として他の癌患者とある程度対等に話す生活を送るようになってから、生活の中で患者側が何を感じているのか、どんなことに不安を抱いているのかといったことが身に染みて分かるようになりました。

 

医療者と患者で、こうした情報を共有することは、おそらく自分にも役に立ちますし、今後の医療者・患者関係の構築にもつながるのではないかと思って取り組みを始めました。

 

取り組み自体は、2008年から英国ではじまったマギーズキャンサーケアリングセンターの取り組みを参考にしています。今年10月には東京でもマギーズ東京が立ち上がっていますよね。

 

治療を受けている医療機関から一歩外に出て、第三者的な医療スタッフや同様な立場の癌患者と話す機会は貴重です。家族の中でフラストレーションを溜めて息が詰まることのないようにするためにも不安や不満を発散するはけ口も欠かせません。治療を受ける身となって実感しました。

 

こうした私の想いに同意していただけた方々を中心に様々な方の支援をいただき、金沢マギーは、地域の癌患者と家族、友人、専門職など様々な方が癌と向き合って語らう「場」になりつつあります。今の医療現場では、患者の話を看護師が2~3時間も聞き続けるわけにはいかないですから、医療機関と金沢マギーで役割分担をしながら地域で癌患者や家族を支えられたらと思っています。

 

多くの癌患者やその家族、友達が自由に訪れ、くつろぎながら、思いのままの時間を過ごし、医療者に聞けない疑問や不安を解消できる場として、発展していってほしいと望んでいます。そして、金沢マギーの取り組みや考え方がさらに広まり、認知症など他疾患の患者にも同様の取り組みが展開されることを願っています。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

Aナーシングは、医学メディアとして40年の歴史を持つ「日経メディカル」がプロデュースする看護師向け情報サイト。会員登録(無料)すると、臨床からキャリアまで、多くのニュースやコラムをご覧いただけます。Aナーシングサイトはこちら

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