リハビリが変わる、医療が変わる【3】腎臓リハ◆腎臓病も運動で透析遅らせ予後改善
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「CKDに対する運動の在り方は、コペルニクス的転回点にある」。東北大学内部障害学教授の上月正博氏は、慢性腎臓病(CKD)に対する運動の利点が明らかになり、運動制限から運動推奨に大きく転換しつつある現状をこう表現する。(小板橋律子=日経メディカル)
リハビリが変わる、医療が変わる
腎臓リハ◆腎臓病も運動で透析遅らせ予後改善
CKD患者は運動すると蛋白尿が出やすくなるため、特に進行したCKDでは長らく安静が治療の1つと考えられていた。それが運動で腎機能が改善し得ることが示され、腎臓リハビリテーション(腎臓リハ)が普及しはじめている。腎臓リハとは、腎疾患患者に対して症状の緩和や生命予後改善のために行われるリハビリで、運動療法に加え栄養療法や精神的ケアなども含めた包括的プログラムを指す。
これまでの研究で、CKD患者では、運動習慣がない群に比べて運動習慣がある群の全死亡率が有意に低く、かつ血液透析への移行が有意に遅くなることが示されている(図5)。
図5 運動習慣の有無によるGFRステージG3~G5慢性腎臓病(CKD)患者の予後
GFRステージG3(30≦eGFR≦59)2292人、ステージG4(15≦eGFR≦29)1289人、ステージG5(eGFR<15、腎不全)2784人を前向きに解析。運動習慣がある患者では死亡率が低く、透析への移行も遅くなっていた。(出典:I-Ru Chen, et al. Clin J Am Soc Nephrol.2014;9:1183-9.)
国内でも、運動することでCKDの重症度指標である推算糸球体濾過量(eGFR)が改善することが報告されている。「運動すると蛋白尿は出るが、それは一時的なもの。長期的に見れば心肺機能が高まり、CKD患者の主要な死亡原因となる心血管系イベントの予防につながる」と上月氏。さらに、運動により腎組織の保護が促進されることも動物実験で明らかになっていると説明する。
腎臓リハビリテーション学会を立ち上げ、腎リハの研究、普及に取り組んでいる東北大の上月正博氏。
診療報酬が腎臓リハを初評価
2016年診療報酬改定は、腎臓リハを初めて評価した。糖尿病透析予防指導管理料に「腎不全期患者指導加算」(100点)を新設。これは、糖尿病性腎症の腎不全期(eGFRが30mL/分/1.73m2未満、第4期)患者に対して、腎機能維持のために必要と考えられる運動を指導した場合に算定できるもの。ただし今回、運動処方による加算が認められたのは糖尿病性腎症の腎不全期のみ。上月氏は、「より軽症の糖尿病性腎症第3期やCKDステージG3bでも加算が認められるよう、多施設で臨床研究を実施しデータをそろえていく計画だ」と言う。
今回の診療報酬改定に先立ち、日本腎臓リハビリテーション学会は「保存期CKD患者に対する腎臓リハビリテーションの手引き」を今年2月に同学会のウェブサイト上に公開。CKD患者への腎臓リハの進め方や診療報酬の加算が認められた運動処方の内容を紹介する(表2)。CKD患者への運動療法は、基本的に慢性心不全患者や高血圧患者の運動療法に準じたもので、有酸素運動、レジスタンス運動を組み合わせたプログラムを推奨する。また、安全性を担保するために、運動療法を始める前に、運動負荷試験を行うことが望ましいとする。
表2 CKD患者に推奨される運動処方(「保存期CKD患者に対する腎臓リハビリテーションの手引き」を一部改変)
さらに、運動療法の禁忌と中止基準も提示する。「運動前に医学的評価を行い、収縮期血圧が180mmHg以上、空腹時血糖が250mg/dL以上など、運動療法の禁忌となる事項を守り、安全に実施してほしい」と上月氏。治療が不十分な増殖網膜症がある糖尿病患者では、高強度の有酸素運動やレジスタンス運動、身体に衝撃が加わる運動は眼圧を上げ、網膜出血のリスクとなることも注意したい。
透析中の運動に様々なメリット
腎臓リハの効果は透析患者でも認められる。運動習慣がある患者は、運動習慣がない患者に比べて全生存率が有意に高いことが分かっている。加えて、透析中に運動すると、蛋白同化が促進され、リンなどの老廃物の透析除去効率が高まることも明らかになっている。「運動療法併用により、リンの排泄などで1回の透析時間を1時間増すのと同程度の効果が報告されている」と上月氏。そのため、運動指導を行う透析クリニックが増えている。
つばさクリニック(東京都墨田区)は透析患者に対して積極的に運動を指導する透析クリニックの1つ。2013年夏、透析中に音楽に合わせて下肢を動かす運動指導を開始した。
同クリニックでは、まず透析開始前に準備体操としてラジオ体操を行い、透析開始後約1時間たった段階で、下肢を使った運動を20~30分行っている。運動は各ベッドに設置されたモニターに映し出された映像に合わせて行う。複数のトレーナーが透析ベッドを巡回し、患者ごとに適切な強度となるようアドバイスする(写真2)。
写真2 つばさクリニックにおける運動指導の様子
個別モニターを見ながら音楽に合わせて運動。各患者に最適な内容となるようトレーナーが指導する。(写真:秋元 忍)
院長の大山恵子氏は、「画面を見ながら行うため、他の患者と自分を比べることもなく、個々の患者の体力に合った個別の運動指導が可能」と語る。音楽に合わせて行うため患者は楽しみながら実施でき、9割以上が継続しているとのことだ。
運動の内容は、同クリニックに勤務するトレーナーが考案したもの。腎臓リハビリテーション学会による手引きに沿うが、足つり予防や便秘予防を意識した内容も加えている。「運動指導前は足つり予防用の薬剤を服薬する患者が全体の14%だったが、運動指導を始めてから有意に減少し5%になった」と透析室長の内田広康氏は効果を実感する。来院当初は車いすを使用していたものの、運動指導を受け筋力が増し、車いすが不要になった例もある。
今後、運動指導が透析患者に広く指導されるようになれば、生存率の向上に加え、ADLや生活の質(QOL)の改善にも貢献するだろう。
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《3》腎臓リハ◆腎臓病も運動で透析遅らせ予後改善
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