ナースの勤務先が減る!入院ベッド大幅削減の「地域医療構想」とは|2016診療報酬改定

診療報酬改定はナースにどう影響するか【最終回】

ナースの勤務先が減る!入院ベッド大幅削減の「地域医療構想」とは

 

「地域医療構想」を知っていますか?

地域医療構想とは、病院の入院ベッドを大幅に削減することを目的とした政策です。

 

あまり大々的には報道されていない政策ですが、「入院ベッドが減る = 看護師の必要数が減る」ということなので、看護師に直接関わる重要な内容です。

 

政府はすでに、2025年までの入院ベッド数の削減目標(都道府県別)を以下のように示しています。

 

 

2015年6月16日付 朝日新聞デジタルより作成)

 

を見ると、2013年の実数から3割以上の削減が示されている地域もあります。

全体では、16万~20万床削減しようという目標です。

 

16万~20万床というと、総ベッド数の1割に相当する数です。

 

 

さて、この連載では「診療報酬改定」について解説してきましたが、2016年の診療報酬改定は、実は「地域医療構想」と表裏一体の構造となっています。

 

両者に共通する目標は、「医療費の削減」です。

医療費を削減するために、「地域医療構想」という政策で、入院ベッドと従事する医療者(医師・看護師ら)を減らそうとしています。

 

「地域医療構想」を知ることは、看護師として仕事を続けていくために重要ですので、要注意のポイントを「2016診療報酬改定」のおさらいとともに解説します。

 

 

 

「地域医療構想」とはベッドを大幅に削減すること

2015年6月に、政府が地域医療構想の「第1次報告」を発表しました。

 

その内容は、下記のように入院ベッドを大幅に削減するというものです。

 

【2013年 実数】134万7千床

【削減目標】16~20万床

【2025年 目標】115~119万床

 

全体で約1割削減」といっても、逆にベッドを増やす都道府県もあるため、3割以上の削減が課されている都道府県もあります(図)


都道府県別の削減目標はこのようになります。

 

【3割以上の削減】

富山、島根、山口、徳島、愛媛、高知、佐賀、熊本、宮崎、鹿児島

 

【2割以上、3割未満の削減】

青森、秋田、岩手、山形、福島、新潟、石川、福井、山梨、静岡、三重、和歌山、鳥取、岡山、香川、大分、長崎

 

【1割以上、2割未満の削減】

北海道、宮城、栃木、茨城、群馬、長野、岐阜、滋賀、広島、福岡

 

【1割未満の削減】

愛知、京都、兵庫、奈良

 

【増加】

東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、沖縄

 

あなたの勤務地は、どの区分でしたか?

入院ベッドを削減するということは、病院勤務の看護師の必要数が減るということ。

地域によっては「看護師が余る危機」が訪れるかもしれせん。

 

 

あなたの勤務先を減らすかは、誰が決める?

「私の地域3割削減だけど…、いつまでに、どこの病床が削られるの?」


勤務先が削減の対象になるのかどうか、看護師にとって一番気になることだと思います。

 

しかし、現状では「都道府県が決める」ということしか明らかになっていません

 


現在決まっている「地域医療構想」を都道府県で策定する具体的な流れを説明します。

 

厚生労働省「地域医療構想について」より作成)
 

1)医療機関が自主的に4種類から医療機能を選択

 

2)各医療機関が、都道府県に医療機能の現状と今後の方向を報告

 

3)都道府県は、「地域医療構想調整会議」を開き、どの病院のベッドを削減するかを検討

→「地域医療構想」の策定

 

政府から都道府県への依頼として、「地域医療構想」の策定は、法律上の期限は2018年3月ですが、2016年半ばまでの策定が望ましいとされています。


また、政府の動きとしては2015年6月に第1次報告として削減目標(ゴール)が示されましたが、実際には2016年3月10日の段階でも「地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会」(方法を決める会議)が開かれている段階です。

 

つまり、政策は走り出しており、ゴールは決まっているものの「道順は決まっていない」ともいえる状況です。

 


政府はなぜ、このように見切り発車で「地域医療構想」を押し進めているのでしょうか。

 

その理由は、何度「診療報酬改定」を行っても、ベッド数と医療費を大きく削減することができず、2025年に向けた医療改革が間に合わないかもしれないからです。

(詳しくは「第1回:2016診療報酬改定の全体像」)

 

診療報酬改定だけでは果たせそうにない目標を補う形で、「地域医療構想」はスタートしています。

「診療報酬改定」と「地域医療構想」はお互いを補い合う表裏一体の関係です。

 

ナースにもたらされる影響も、両者で共通しています。

 

 

ナースへの影響は「地域医療構想」「診療報酬改定」共通

・「病院勤務があたり前」の時代が終わる?

冒頭で、2013年実数(134万7千床)から、2025年には115万床までが削減目標と述べましたが、もし何の対策もとらないと、2025年には高齢化により152万床まで増えるという試算もあります。

 

そのため、実際には現状よりもかなり大幅に患者の入院が制限され、高齢者は自宅や介護施設で療養するようになるでしょう。

「115万床」という目標を実現するためには、自宅や介護施設で29万7千~33万7千人の受け入れが必要です。

自宅や介護施設でケアを受け、最期を迎える方が増えるということなので、看護師のニーズもおのずと在宅へシフトしていきます。

 

日本看護協会の試算では、訪問看護師が約15万人必要(現状では約2万人)という数も出ており「看護師といえば病院勤務」の時代ではなくなるかもしれません。

(詳しくは、「第4回:訪問看護ステーションからあなたにもお声がかかる!?」)
 

 

 

・労働環境はさらに厳しくなる?

地域医療構想により、「152万床」まで増える可能性がある病床を「115万床」まで削減するということは、これまでは普通に入院できていた患者さんが入院できなくなるということです。

 

つまり、入院できる患者さんのハードルが高くなります

 

2016診療報酬改定では「重症度、医療・看護必要度」の項目が厳しく変更されました。

 

そのため、病院はこれまでより重症の患者さんを多く受け入れようと動いています。

(詳しくは、「第2回:重症度、医療・看護必要度の見直し」)
 

重症の患者さんが今までより増えるということは、看護師の忙しさはおのずと増すでしょう。

 

 

また、病床を減らすということは、入院期間が短くなりは病床の回転率が上がるということです。

そのため、ケアはもちろん、入院時のアセスメント書類作成の業務も増えることになります。

 

増加の一途をたどる看護師のデスクワークについては、診療報酬改定で看護補助者との分担が提案されていますが、実際に入力のみをクラークが請け負うことで看護師の負担軽減になるのかはわかりません。

(詳しくは、「第3回:ナースの膨大なデスクワークは看護補助者との分担で楽になるのか?」)
 

 

 

ナースがこれからの時代を乗り切るために

診療報酬改定は単体ではなく、実は「地域医療構想」と表裏一体の関係で進行しています。

もしかしたら、都道府県の「地域医療構想」策定により、「突然、勤務先の病棟が閉鎖された」ということがないともかぎりません。

 

「ナースの就職は引く手あまただから大丈夫」と気楽に構えずに、都道府県や政府の動向に注意しながら、長いスパンでキャリアプランを考えておく必要がありそうです。

 

加えて、病床を減らし回転率を上げるということは、看護師にとってさらに忙しくなることを意味します。

 

今後、看護師の労働環境はますます厳しくなることを見据えて、訪問看護や介護施設を選択肢に入れるなど、じっくり検討することが、自分の身を守る術となりそうです。

 

(参考)

平成28年2月10日 中央社会保険医療協議会が厚生労働大臣に対して答申(厚生労働省)

地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会(厚生労働省)

病床「10年後に1割削減可能」政府目標、介護に重点(朝日新聞デジタル)

 

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