ナースが知らない「重症児ケア」の4つの問題|2016診療報酬改定【6】
診療報酬改定って、看護師にはカンケイないと思っていませんか?
2016年4月1日に行われた診療報酬改定では、「2025年問題」や「超高齢化社会」への対策が大きく取りざたされています(詳しくは「2016診療報酬改定の全体像」)。
そのような状況で、あまり知られていませんが、実は「小児」、特に「重症児」の分野にも大きな動きがあります。
小児や重症児のケアに直接関わることがなくても、現場のナースとしておさえておくべき内容をまとめました。
診療報酬改定はナースにどう影響するか【5】
ナースが知らない「重症児ケア」の4つの問題
重症児のケアにどんなイメージを持っていますか?
「めちゃめちゃ忙しそう」「扱う疾患が多くて大変そう…」など、「子どもが好き」という気持ちだけでは務まらない厳しい現場、というイメージが強いのでは、と思います。
この大変そうな現場のイメージ以上に、「重症児ケア」は4つの大きな問題を抱えています。
4つの問題とは、「1)重症児の増加、2)疾患の多様化、3)長期間のケアが必須、4)医療費が高額」ということです。
今回の診療報酬改定では、この4つの問題に包括的に対応するための変更がなされました。
◆4つの問題とそれぞれの対応策
【1】重症児の増加:受け入れ医療機関を増やす
【2】疾患の多様化:多様な疾患に対応
【3】長期間のケア:訪問看護ステーションでの受け入れを強化
【4】医療費が高額:削減のため「継続的で包括的なケア」「多職種連携」を評価
上記の対応を行うため、「病院」「在宅」それぞれと、相互をつなぐ「退院支援」すべてが包括的に変更されました(図1)。
図1 「4つの問題」に対応するための改定点
詳しくみていきましょう!
◆目次
【1】受け入れ医療機関を増やす(病院)
●背景:重症児が増加している理由
「重症心身障害児」は、2008年時点のデータで3万8千人いるといわれています。
この数は、年々増加しています。
その理由として、実は「日本の新生児救命率が世界一」ということが挙げられます。
日本では、新生児1,000人中の死亡者は1人であり、これは、米国の4人、英国の3人、ドイツの2人に比べても少なく、世界一の救命率です(2014年時点)。
とても喜ばしい反面、救命できたもののさまざまな障害が残る子どもたちの数は、増加しています。
そこで、重症児を受け入れる医療機関を増やすため、診療報酬が改定されました。
●診療報酬改定点:受け入れ医療機関を増やす
◆新設
「小児入院医療管理料 重症児受入体制加算」
2,000円(1日あたり)
この加算は、「小児入院医療管理料」(表1)というキホンの報酬にプラスして、「1年で10件以上重症児を受け入れた場合」は「1日あたり2,000円の加算がもらえる」というものです。
以下の【a】~【c】の場合に、加算がとれます。
表1 小児入院医療管理料
金 額 |
小児科常勤医師 |
看護師 |
【a】21,450円 |
1名 |
「15対1」 以上※ |
【b】30,060円 |
3名 |
「10対1」 以上 |
【c】36,700円 |
5名 |
「7対1」 以上 |
【d】40,760円 |
9名 |
「7対1」以上 |
【e】45,840円 |
20名 |
「7対1」以上 |
※「15対1」とは患者15人に対して看護師1名の配置ということ。「10対1」「7対1」も同様の考え方。
このように、今回の改定では【a】から【c】の「医師・看護師ともに人数が少ない病棟」に対してのみ加算がついています。
【4】【5】のように、医療者数・収入ともに多い病棟でなくても、重症児を受け入れてほしいというメッセージだといえます。
つまり、「重症児を受け入れる医療機関を増やす」ことが狙いです。
【2】多様な疾患に対応(病院)
●背景:疾患が多様化している理由
先ほど、「日本の新生児救命率は世界一」だと述べました。
そのため、以前は救命できなかった複雑な「先天性心疾患」や、「気管や食道の重度の先天異常」「重度の消化管の先天異常」などの子どもたちが救命され、長期生存できるようになりました。
このように、重症児の疾患が多様化している状況に対応するため、診療報酬が改定されました。
●診療報酬改定点:「先天性心疾患」を指定疾患に追加
「新生児特定集中治療室管理料等」とは、患者さんが新生児特定集中治療室(NICU)等に入院している間にもらえる報酬のことです。
1人の患者さんにつき最大で10万円以上(1日につき)など、手厚い報酬体制になっています。
この高額の報酬を得られる入院日数には「21日まで」という限度があります。
しかし、「指定された疾患」では、「35日までの延長」が可能です。
改定前の「指定された疾患」は、「先天性奇形等」を中心とする以下の疾患でした。
【改定前:指定されていた疾患】
先天性水頭症、全前脳胞症、二分脊椎(脊椎破裂)、アーノルド・キアリ奇形、後鼻孔閉鎖、先天性咽頭軟化症、先天性気管支軟化症、先天性のう胞肺、肺低形成、食道閉鎖、十二指腸閉鎖、小腸閉鎖、鎖肛、ヒルシュスプルング病、総排泄腔遺残、頭蓋骨早期癒合症、骨(軟骨を含む)無形成・低形成・異形成、腹壁破裂、臍帯ヘルニア、ダウン症候群、18トリソミー、13トリソミー、多発奇形症候群。
今回の改定で、その指定された疾患に「先天性心疾患」が追加されることとなりました。
【追加:先天性心疾患】
カテーテル手術・開胸手術・人工呼吸器管理・一酸化窒素吸入療法・プロスタグランジンE1持続注入を実施したものに限る。
疾患の多様化に対応できる体制となってきています。
【3】訪問看護ステーションで重症児の受け入れを強化(在宅)
●背景:在宅でも継続的なケアが必要
重症児は、入院中だけでなく自宅へ帰ったあとも「常に・継続して」高度な医療ケアが必要となります。
在宅医療でも重症児をカバーできるように、診療報酬が改定されました。
●診療報酬改定点:機能強化型の訪問看護ステーションで、重症児の受け入れを促進
◆変更
「重症児の受け入れ」によっても、訪問看護ステーションの収入が増えるようになった。
「機能強化型」の訪問看護ステーションを知っていますか?
簡単に言うと、「人数が多く」「収入が多い」訪問看護ステーションのことです(詳しくは「訪問看護ステーションからあなたにもお声がかかる!?」を参照)。
今回の改定で、普通のステーションから「機能強化型」に変更するための条件として、「重症児を受け入れている実績」が評価されることになりました。
「機能強化型」に変更すると、計算上は、1月あたり約60万円の収入増です。
「機能強化型」に変更したい訪問看護ステーションや、今以上に「重症児の受け入れ」に注力するステーションを増やす狙いがあります。
【4】「継続的で包括的なケア」「多職種連携」を強化(退院支援)
●背景:「継続的で包括的なケア」と「多職種連携」は、医療費を大幅に削減するというデータが
ところで、「2016改定の全体像」として、「医療費を削減する」という目標がありました。
しかし、ここまで見てきたように、「重症児ケア」は報酬を増やす方向にシフトしています。
その背景には、報酬を増やしケアを充実させることで、逆に医療費が削減できるというデータがあります。
小児の在宅医療支援において、多職種連携による継続的で包括的なケアは、医療費を42%削減し、子どもの救急受診と入院頻度を半分に減らすことが示された。
(『Journal of the American Medical Association』,p.2640-2648,Vol.312,No.24,2014)
つまり、多職種による、病院・在宅を横断した「継続的で包括的なケア」は、最終的には、医療費を大幅に削減する、ということが明らかになったのです。
そのため、「多職種連携」「継続的で包括的な実施」を促進させることにより、医療費全体を抑制する狙いで、診療報酬が改定されています。
●診療報酬改定点:「継続的で包括的なケア」「多職種連携」を評価
◆新 設
「退院支援加算3」
12,000円(退院時1回)
この加算は、NICUからの退院に向け、以下の要領で退院支援を行った場合に算定できます。
1)【7日以内】に退院困難な要因を有する患者を抽出する
2)【1カ月以内】に退院支援計画に着手
3)【多職種のカンファレンス】の開催
4)退院後も【24時間連絡がとれる体制】をとる
5)計画のみでは加算がとれず、【計画から退院まで一貫した支援】によってはじめて算定できる。
これによって、退院に向けた迅速な対応と、退院までの一貫した支援が促進され、「多職種連携」による「継続的で包括的なケア」につながると考えられます。
つまり、上記のデータを実践することとなり、医療費を削減できる見込みがあります。
まとめ
このように、病院・在宅・退院支援を包括的に改定することにより、冒頭に挙げた4つの問題「1)重症児の増加、2)疾患の多様化、3)長期間のケアが必要、4)医療費が高額」を解消する狙いがあります。
今後、ますます増える重症児の状況や、国の方針について、現場のナースとして知っているとよさそうです。
(参考)
平成28年2月10日 中央社会保険医療協議会が厚生労働大臣に対して答申(厚生労働省)
前田浩利:小児在宅医療の現状と問題点の共有(PDF)(厚生労働省)
重症心身障害児施設に関連する説明資料および要望事項(PDF)(日本重症児福祉協会)
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