ナースの膨大なデスクワークは看護補助者との分担で楽になるのか?|2016診療報酬改定【5】

診療報酬改定って、看護師にはカンケイないと思っていませんか?

「実は現場に直結していますよ~」という部分をわかりやすく解説します。

 

診療報酬改定はナースにどう影響するか【5】

ナースの膨大なデスクワークは看護補助者との業務分担で軽減するのか?

 

「私は書類作成をしたくて看護師になったんじゃない…!」

デスクワークに割く時間のあまりの多さに、一度はこんなふうに思ったことがあるのではないでしょうか。

 

この状況を解消するため、2016年4月1日に施行された診療報酬改定では、「看護師と看護補助者の業務分担の推進」が重要項目として挙げられました。

 

【ナースへの影響】

◆デスクワークの一部を看護補助者に任せられるようになった。

 

詳しくみていきましょう!

 

 

◆目次

 

 

【改定内容1】看護補助者に事務作業を任せられるようになった

これまで、看護補助者が実施できる業務内容は以下の4つに限られていました。

 

1.療養上の生活の世話(食事、清潔、排泄、入浴、移動等)

2.病室内の環境整備

3.ベッドメーキング

4.看護用品および消耗品の整理整頓などの業務

 

しかし、今回の改定で、5つめとして、

「病棟内において看護師が行う書類・伝票の整理・作成の代行、診療録の準備等の業務」

が可能になります。

 

「事務業務」の看護補助者による実施が可能になったことが大きな変更点です。

変更の目的は「看護職員が専門性の高い業務により集中できるようにすること」とされています。

 

一見、とても役立つ内容に思えますが、実際の現場にはどのような影響があるのでしょうか。

 

 

【改定内容2】事務作業ができる看護補助者は入院患者200人に対して1人

今回の変更で、看護補助者が事務作業を行うにあたり、義務づけられた条件があります。

 

【義務づけられた条件】

1)看護補助者のうち、「主として事務的業務を実施する看護補助者」に当たる者を特定する

2)事務的業務を実施する看護補助者は、患者200人に対し1人以下で配置する

 

1)は、勤務時間数のうち事務作業が 5 割以上を占める看護補助者を、「主として事務的業務を行う看護補助者」としてカウントするということです。

 

2)は、事務作業をする看護補助者は、「入院患者200人に対して1人」より多いとNGということです。

(※時間単位での申請も可能であり、入院患者が200人より少ない病院でも看護補助者に事務的業務を委託することは可能)

 

この人数を「看護師1人あたり」に換算してみるとどうでしょうか。

たとえば、「7対1看護配置」(1人の看護師が7人の入院患者を受け持つ)病棟では、約30人のナースに対して1人の看護補助者より多いとNGという計算になります。

(※勤務中の換算では、200人の入院患者に対して看護師約30名、その時間帯に事務作業を行っているとカウントされる看護補助者は1名)

 

看護師1人あたりの負担軽減という意味では、大きな改善にはならない可能性があります。

 

 

【背景】なぜ看護補助者の人数に上限が設けられているのか?

ここまでで、「看護補助者は多いほうがいいはずなのに、どうして制限するんだろう…」と思いませんでしたか?

 

国はもちろん、各病院における看護補助者の人数を増やすことを推奨しています。

その証拠として、以前から「看護補助加算」や「急性期看護補助体制加算」などの項目が設けられており、看護補助者の人数が多いほど、病院の収入が増える仕組みになっていました。

 

しかし実際には、どこの病院も看護補助者の採用には苦戦しています。

そこへきて、今回「事務作業」を行えば看護補助者とみなすことができるようになったので、すでに病棟で働いているクラークを看護補助者とみなす動きが出ると予想されます。

 

事務作業だけを行うクラークの採用を積極的に行ったために、「看護補助加算」が算定できるという本末転倒な仕組みにならないように、「200対1」という制限が設けられています。

 

ナースにとっても、本来の看護補助者の業務である「療養上の生活の世話」や「物品管理」「清掃」などの業務をしてくれる人がいなくなるのは困りものです。

そのため、事務作業を行う看護補助者の人数には制限が設けられています。

 

 

【影響】一番困っている「看護記録」の負担が軽減されるかはグレーゾーン

また、「事務作業」として追加になった内容にも疑問が残ります。

「書類・伝票の整理・作成の代行、診療録の準備等の業務」ということですが、具体的には何を指すのでしょうか。

 

看護師として、特に負担を軽減したい事務作業は「看護記録の作成」かと思います。

 

たとえば、患者が入院してきたときのナースの事務作業は、要約しても以下のように膨大です。

1)入院時の初期情報の収集と記録

(栄養/排泄/活動・休息/知覚・認知/自己知覚/役割関係/セクシャリティ/コーピング・ストレス耐性/生活原理/安全・防御/安楽/成長・発達 等)

2)家族情報の収集と記録

3)「転倒・転落アセスメント」「褥瘡発生リスクアセスメント」のチェックリストに沿った情報収集と記録

4)「退院支援スクリーニング」として、退院する際に必要な情報収集と記録

5)看護計画の立案と記載

6)看護必要度のチェックと記録

7)入院診療計画書の作成

(急性期病院(400床以上)の病棟を想定した例)

週刊医学界新聞 第3172号より作成)

 

これらの記録のため、看護師には膨大なデスクワークが課せられています。

 

この負担の軽減が期待されますが、看護補助者が可能な内容は「診療録の準備」とされており、具体的な内容は「院内規程」で定めることとなっています。

 

看護記録に付随する業務をどれだけ看護補助者に依頼できるのか、施設により幅が出ることが予想されます。

 

 

【おわりに】本当にナースの現場のための改定なのか

上に挙げた7つの事務作業のなかでも、「褥瘡発生リスクアセスメント」や「退院支援スクリーニング」などは、診療報酬を得るために行われているものです。

診療報酬を得るための書類作成に、看護師のパワーが割かれています。

 

今回の改定で、実際にどれだけデスクワークが軽減するのかは施設の方針によりますが、俯瞰でみれば、「病院が診療報酬を得るために診療報酬が改定された」ともいえます。

 

何より、事務作業を行う看護補助者を特定するために、「“事務作業に費やした時間の記録”というデスクワークが増える」という結果にもなりかねません。

「患者さんのケアにもっと時間を割きたい」というナースの願いが叶うまでには、遠い道のりかもしれません。

 

(参考)

平成28年2月10日 中央社会保険医療協議会が厚生労働大臣に対して答申(厚生労働省)

平成28年度 診療報酬改定に関する Q&Aその1(PDF)(日本看護協会)

診療報酬改定で4月から看護現場はこう変わる|インタビュー(日経メディカルAナーシング Pick up!)

井部俊子 著:看護のアジェンダ〈第136回〉入院時のチェック(週刊医学界新聞 第3172号、2016年4月25日、医学書院)

 

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