非の打ちどころのないリング状の点滴スタンド
【日経メディカルAナーシング Pick up】
「学会会場に展示されていた『divo』(ディーボ)を初めてみた時、デザインの斬新さに『えっ?』と目を疑った」。こう話すのは、横浜総合病院(横浜市青葉区)副院長で看護部長の桃田寿津代氏。
divo(岡村製作所)は、輸液を掛けるフック部分がリング状で、リングトップの四方にフックが付いた珍しい形の点滴スタンドだ(写真1)。
写真1 点滴スタンド「divo」(写真提供:岡村製作所)
輸液を掛けるフック部分がリング状で、リングトップの四方にフックが付いている。
リングの立ち上がりに沿わせて輸液バッグを引っ掛けられる形状になっており、看護師が輸液を吊るしやすく(写真2)、また、患者が点滴スタンドを持って歩く際の輸液バッグの揺れも抑えられるといった特徴がある。
写真2 フックの特徴
リングの立ち上がりに沿わせて輸液バッグを引っ掛けられ、吊るしやすい。
点滴スタンドといえば、T字型フックが定番だが、フック先端が病室のカーテン上部のネット部分に引っ掛かりやすく煩わしい上、輸液を3、4種類掛けるとバランスが悪くなり、持って歩く際に転倒の恐れもあるなど、使い勝手の面で何かと問題が多い。とはいえ、「点滴スタンドとはそういうもの、仕方ない」というのが医療現場の認識で、桃田氏も「フックが引っ掛からないよう、点滴スタンドではなく病室カーテンの方の見直しを過去に検討したほど」と振り返る。
divoは、そうした点滴スタンドの固定概念を覆す製品だ。
「一目見て、長年の悩みが解決できると実感した」と桃田氏は続ける。
桃田氏が注目したのは、フックの形状だけではない。divoはハンドル部分もリング状で、看護師が患者に付き添う際、二人で握れるデザインになっている(写真3)。平な面は小物置きとしても利用可能。点滴中の患者が洗面に行く際に歯ブラシセットを載せたり、看護師が点滴交換する際に輸液ボトルを一時的に置いたりと、使い勝手がいい。
写真3 divoのハンドル部分(写真提供:岡村製作所)
リング状で看護師が患者に付き添う際、二人で握れる。平な面は小物置きとして利用できる。
安全面にも配慮されており、押しやすく安定感ある5本脚の大型キャスターが付いていて転倒しにくい。ポール部分の伸縮操作は、ネジ式ではなく安全ストッパーを指で押し上げてロックを解除する方式。ワンタッチで簡単に高さ調整でき、かつネジのように自然に緩んでスタンドが下がってくることもない。
同様に、ドレーンバッグなどを掛けるフックも高さ調整が可能。「これまでは看護師手製のフックを使用していたが、患者さんの身長やドレーンの挿入部位に応じてフックの高さを自由に調整できる機能が標準装備されており、とても便利」と看護部長代理の若木新子氏は評価する。
「使い勝手と安全性、見た目の3拍子そろった点滴スタンド。非の打ちどころがない」と桃田氏と若木氏は口をそろえる。その理由として桃田氏は、「看護師の使いやすさ以前に、患者さんが安心・安全に動けるよう随所に工夫が凝らされている」点を挙げる。
患者に寄り添う看護師の想いを形に
divoを製造・販売する岡村製作所は、これまで、ナーステーブルやカルテ棚などの医療施設用什器を主に手掛けてきたが、「ホスピタリティーを重視する病院が増える中、看護師の働きやすさに加え、患者のため、というもう一歩踏み込んだ視点での商品開発を検討した結果、患者に身近な点滴スタンドが開発候補に挙がった」とマーケティング本部ヘルスケア製品部の紀平綾氏は説明する。
開発に当たっては、点滴スタンドなど医療・看護用品の研究・開発等を手掛けるメディディア医療デザイン研究所代表取締役で看護師の山本典子氏にもアドバイスをもらい、現場ニーズを徹底的に探った。
検討を重ねる中で、「医療安全と共に、患者さんにどうしてあげられるかを重視する看護師の姿勢が印象的だった」と榊原義弥氏(デザイン本部製品デザイン部第三デザイン室チーフデザイナー)は振り返る。それがそのままデザインコンセプトへとつながった。
ハンドルの形状一つとっても、患者が一人で握ることだけを想定せず、患者と介助者が一緒に持てる、患者が両手でしっかり持って歩けるなど、「患者ありき」で考えたという。結果として、現場の看護師の共感を呼ぶ製品の開発につながったわけだ。
divoの発売は2013年7月。その後も同社は現場からの要望に応え、暗闇でもスタンドが識別できるように5本脚のベースに蓄光パーツを付けた製品や、車椅子の背後にdivoを連結できるコネクターなどを発売している。
4本脚スタンドをすべてdivoに切り替え
病院で点滴スタンドを購入する場合、新築でない限りは、故障したものから順に少しずつ買い換えていくのが通例だが、横浜総合病院では昨年11月から半年間でdivoを80台購入。長年手入れしながら使っていた4本脚の点滴スタンドを、すべてdivoに切り替えた。
「老朽化した病院は簡単には建て替えられないが、患者さんが使うものだけはせめていいものを採用したいと考え、購入を決めた」と桃田氏。
divoはピンクやオレンジなど5色あり、「病棟ごとに色を変えることで、どこの病棟の物品か一目で分かる上、院内で高齢の入院患者さんが迷っている際にも、どこの病棟の方か判別しやすい」と若木氏は話す。
横浜総合病院副院長で看護部長の桃田寿津代氏(右)と看護部長代理の若木新子氏(左)
本体価格は4万8000円(税抜き)と他社製品に比べて高めだが、「従来、点滴スタンドはどれも似たり寄ったりで、だったら少しでも安いもの、という発想だったが、divoについては利便性や機能性が勝った」と若木氏は指摘する。
さらに同院では、「点滴スタンドの買い換えがきっかけで、職員が身だしなみに留意するなど、明るい清潔な職場環境づくりを意識するようになるといった、思わぬ副次効果もあった」(桃田氏)という。
(井田 恭子=日経メディカル)
<掲載元>
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