マイナンバーで医療の情報連携も始まる…のか?|個人番号カードと健康保険証の一本化案も

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10月に始まる社会保障・税番号制度(マイナンバー制度)の番号通知。懸念や批判をメディアが強調する中、さらに厚生労働省室長補佐が制度に関する収賄で逮捕されるなど、波乱含みのスタートとなった。

医療や介護の分野では将来的に、マイナンバーのインフラを活用し、マイナンバーとは別の番号(医療等ID)を使って情報化を進めることが打ち出されている。その手始めとしてまずは、医療機関の窓口で個人番号カードを使い、医療保険資格をオンラインで確認する仕組みの検討が進んでいる。 

(増谷 彩=日経メディカル)

 

医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会

写真 医療や介護などの分野における番号制度の具体的な制度設計や取り扱いのルールについては、「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会」で検討が続いている

 

マイナンバー制度は、社会保障や税、災害対策など異なる分野の個人情報を1つの番号(マイナンバー)に紐付け、効率的に管理するためのもの。マイナンバーは、住民基本台帳に登録されている全ての人に、重複しない12桁の番号が付与される。2016年1月の運用開始を前に、2015年10月5日からマイナンバーの通知が始まった。 

 

個人の特定を正確に

マイナンバー導入のメリットとして政府がまず挙げるのは、行政機関が個人を正確に特定できるようになることだ。これまでは基本4情報と呼ばれる「氏名、住所、生年月日、性別」で個人を特定していたが、氏名には重複や漢字の読み間違い、住所には変更などがあるため、特定が困難となることがあった。

 

持ち主が分からない国民年金や厚生年金の納付記録が大量に見つかった、いわゆる「宙に浮いた年金」問題は、個人の特定が困難であることに端を発している。

個人を正確に特定し、所得や資産、行政サービスの受給状況などを把握できれば、税金や保険料の不払い、年金や生活保護の不正受給などを防止できる。その一方で、本当に必要な状況の人に対し、適切な支援がされるようになると政府は説明している。

 

次に、マイナンバー制度では国や地方の公的機関が保有する個人情報をマイナンバーと紐付けて管理するため、公的機関同士のやりとりが効率的になるとされている。

例えば、これまでは役所での手続きに必要だった住民票や納税証明書といった添付書類が不要になる可能性がある。手続き自体を簡略化したり、廃止することも可能だ。

 

このように行政手続きが簡素化すれば、行政の情報照会が迅速化、効率化するだけでなく、個人の負担軽減と利便性向上にもつながる。さらには、個人向けサイト「マイナポータル(情報提供等記録開示システム)」が新設され、自分の年金記録や納税状況を確認したり、行政機関からの通知を受け取れるようになるという。

 

個人情報が芋づる式に漏れることはない?

とはいえ、強く懸念されているのが、個人情報の漏洩だ。この点については、マイナンバーから全ての個人情報が芋づる式に漏れるということはないと政府は説明している。

 

行政などのマイナンバーを利用する機関が情報をやり取りする際に用いるのはマイナンバーそのものではなく、利用機関ごとに異なる機関別符号。例えば、機関Aが保持している個人情報はA用の機関別符号で管理され、その符号がマイナンバーに紐付く。機関Bも同様に管理する。機関Aと機関Bで情報を共有する場合、両者の符号は異なるため、機関別符号Aから機関Bで管理している個人情報に行き着くことはできないとしている。

 

利用機関同士の情報連携を行う際に、機関別符号Aと機関別符号Bを突合したり、情報の照会に対して提供を許可するのが、コアシステムの「情報提供ネットワーク」だ。2つの符号の持ち主が同一人物であるということが分かるのは、全ての機関別符号をマイナンバーで紐付け、集中管理する情報提供ネットワークのみとなる方針だ。 

 

マイナンバーの利用範囲には医療機関は含まれない

医療や介護、健康分野においても、番号制度を導入すれば、救急受診時や災害時でも診療情報や服薬履歴など多くの情報を収集でき、高齢者の多剤投与を防ぐ手段にもなることなどが期待されてきた。

 

今回導入されるマイナンバーの利用範囲は、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(マイナンバー法)の第九条で厳格に規定されている。

医療に関連する用途としては、予防接種の履歴管理や、健康増進法に基づくメタボ健診などの事業、母子健康法に基づく保健指導や健康診査、医薬品医療機器総合機構(PMDA)による副作用救済や感染救済の給付手続き、精神障害者保健福祉手帳の交付や診察・入院措置に関する事務など。それぞれの主務省令が定めた場合に指定された「利用者」(行政や公的機関など)が使用できる。

 

こうした用途を見ると、医療機関でマイナンバーを使う機会は今のところ想定されていない。ただし、マイナンバーと基本4情報、顔写真を記載した個人番号カードは、医療保険資格のオンライン確認のために、医療機関でも使用することになりそうだ。

 

「個人番号カード」で医療保険資格をオンライン確認

医療保険のオンライン資格確認も、前述のマイナンバー法の利用範囲には含まれていない。医療や介護などの分野では、病歴や服薬履歴などが機微性の高い情報であるため、所得情報などと安易に紐付けされないようマイナンバーとは異なる番号またはデジタル符号(「医療等ID」と呼ぶ)を設ける方針だ。その活用方法については、現在も厚労省の研究会で議論が続いている。

 

その活用法の1つが、オンライン資格確認だ。

現在検討されているのは、個人番号カードに搭載されたICチップ内に、オンラインで医療保険資格を確認するための電子証明書を格納すること。医療機関の窓口に設置したカードリーダーに個人番号カードをかざし、電子証明書を読み取って、保険者に対しオンラインで資格情報の照会・確認を要求する。保険者は電子証明書を資格情報と紐付けて管理(資格確認サービス機関に委託)しており、要求があった医療機関に対し資格情報を表示するなどの仕組みが検討されている。

 

医療保険資格のオンライン確認の流れの例(厚生労働省作成資料より一部改変)

図1 医療保険資格のオンライン確認の流れの例(厚生労働省作成資料より一部改変)

 

個人番号カードは、本人の申請によって交付されるICカード。マイナンバーが裏面に印刷されているので自分の番号を証明できるほか、本人確認の際の公的な身分証明書として利用できる。表面には本人の顔写真が掲載されているため、医療機関でのなりすまし受診も防止できると考えられている。

 

さらに、オンラインで迅速に保険資格の確認ができるようになるため、厚労省は「情報の書き取りミスや被保険者証の確認ミスが回避されるようになる。事務の効率化や過誤請求の縮減ができる」と話す。このオンライン資格確認については、「自治体などでの情報連携が稼働する2017年7月以降、できるだけ早期に開始したい」(厚労省)としている。

 

個人番号カードのイメージ(厚生労働省の資料より)

図2 個人番号カードのイメージ(厚生労働省の資料より)

12桁のマイナンバーが印刷されるのは個人番号カードの裏面(右)。 

 

カードに記載のマイナンバーを見たら違法

ここで注意しなければならないのは、医療機関の窓口でマイナンバーを尋ねたり、個人番号カードを見てマイナンバーを書き写したりすることは法律で禁止されているという点だ。窓口で職員が患者のマイナンバーを視認したり、カルテなどに記載すれば違法となる。

 

厚労省「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会」構成員の石川広己氏(日本医師会常任理事)は、「予防接種の履歴管理にはマイナンバーを用いるが、接種時の問診内容とマイナンバーを合わせて管理するようなことは法律で禁止された行為」と強調する。

 

日本医師会常任理事の石川広己氏

「IDを用途ごとに分け、1つの番号から全ての医療情報が芋づる式に漏洩しないようにしたい」と話す日本医師会常任理事の石川広己氏。

 

自分以外のマイナンバーを見てもよいのは、あくまでもマイナンバー法に示された「利用者」のみ。カードリーダーを操作する職員などが偶発的にマイナンバーを目にしてしまうことを回避するため、裏面に記載されたマイナンバーを見えないようにするカードケースの配布や、横からマイナンバーを見ようとしても視認できないような工夫をすることなどが検討されている。

 

医療保険資格のオンライン確認が稼働した次のステップとして、医療機関や介護事業者間の連携などにも医療等IDを活用するという青写真を厚労省は描いている。 

 

地域のネットワークで医療等IDが活用されれば、「病院での検査結果をかかりつけ医にフィードバックしたり、救急受診時、他の医療機関で行われていた診療情報も確認できるようになる」と厚労省は展望する。情報の活用に関して本人の同意を取得する必要はあるが、長期間の追跡研究や複数の医療機関のレセプトデータを集めた大規模なデータの分析もできるようになり、医学の発展や医療提供体制の整備などに役立てることも期待されている。

 

他に、医療等IDの利用場面として想定されているものの1つに、2016年1月から始まる「全国がん登録」がある。異なるデータベースの情報は、不用意に突合すればプライバシー侵害の恐れがあるため、情報連携は容易ではなかった。医療等IDの仕組みがあれば、癌登録やレセプトデータベースなどのデータそれぞれにIDを振ることで安全に突合できるようになる可能性がある。 

 

医療等IDについては、用途や機関別に複数のIDを発行し、必要に応じて各IDを突合できる仕組みとする方向で検討されている。「医療情報は、精神疾患や婦人科系疾患、遺伝情報など他人に知られたくないものが多い。IDを用途ごとに分けることで、1つの番号から全ての医療情報が漏洩する危険性を下げたい」(石川氏)。さらに「利用者」の不安を軽減するため、「必要なときに番号を変更できることが担保されたIDにする必要がある」と話す。

 

6月に閣議決定した日本再興戦略では、「医療等IDは2018年から段階的に運用を開始し、2020年までには本格運用する」とした。また、その1カ月前の5月に開催された産業競争力会議課題別会合では、安倍晋三首相が「全国の病院や薬局で、個人番号カードを1枚提示するだけで健康保険の確認や煩雑な書類記入がなくなるようにする。また、お薬手帳も電子化することで一本化する」と発言。

日本再興戦略でも、医療保険のオンライン資格確認と合わせて、個人番号カードを健康保険証として利用できるようにすることを提案しているが、こうした使用方法については厚労省の研究会で議論が続いている。2015年末までに一定の結論をまとめる予定だ。 

 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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