血管の構造と機能|循環
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、血管の構造と機能について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
Summary
〈目次〉
血管の種類
血管は、心臓から拍出される血液を末梢に送り出す動脈、末梢から心臓に血液を返す静脈、動脈と静脈の間にあり動脈血中の酸素と栄養素を各組織に供給する毛細血管の3種類に大別できる(図1)。
血管の面積比は、動脈:毛細血管:静脈でおよそ1:700:2、全身の血液量の分布は、動脈に20%、毛細血管に5%、静脈に75%である。体循環と肺循環の血液量の比は、約3:1である。血管壁は組織学的には内皮細胞、平滑筋、線維(弾性線維と膠原線維)からなる(図2)。
血液と直接接触する血管内腔はすべて1層の内皮細胞で覆われている。
動脈系(大動脈、動脈、細動脈)
内膜(単層の内皮細胞とその下にある少量の結合組織からなる)、中膜(輪状の平滑筋と弾性線維から構成される)と外膜(結合組織からなる)の3層からなる(図2)。静脈に比べ壁は厚く丈夫で伸縮性と弾力に富む。
動脈系はどこも弾性線維がよく発達しているが、大動脈で最もよく発達し、伸縮性に富み、心筋収縮による高い圧に対応する。よく発達した弾性線維がクッションとしての役割を果たす大動脈は、空気室血管( windkessel vessel )ともよばれる。
動脈が細くなるにしたがって弾性線維が少なくなり、平滑筋が多くなる。細動脈は交感神経支配を受けており、血圧に最も影響を与える部位である(抵抗血管といわれる)。
静脈系(大静脈、静脈、細静脈)
動脈と同様3層からなるが、高い圧を受けることがないので中膜が薄く、筋や弾性線維が少ない。静脈圧は低いので血液の逆流を防ぐため弁(半月弁)をもっている。
弁は下肢の静脈に多く、筋肉の収縮を利用する筋肉ポンプの弁として働き、静脈血が心臓に戻るのを助けている。静脈は全身の血液を貯留する(75%)ので、容量血管( capacitance vessel )ともいわれる。
門脈は、消化管(胃、腸)および脾臓からの血液を集めて肝臓に運ぶ静脈である。
毛細血管〔 capillary 〕
枝分かれした細動脈と細静脈を結び、細胞のすみずみに酸素や栄養素を供給し、代謝産物を回収できるように組織の深くまで網目状に分布している。他の血管壁と異なり、ただ1層の内皮細胞と周皮細胞から構成されている(図1)。このため物質の透過性が高く、物質交換に都合よくできている。
動脈は、毛細血管に分かれるまでにしばしば隣接する動脈と相互に結合し、交通ができている。これを吻合(ふんごう)といい、仮に血管の一部に閉塞が生じても、吻合部分を通って血流を確保できるので、血行障害は起こらない。
しかし、脳、肺、腎臓、網膜、内耳のように、動脈の枝が毛細血管に分かれるまで吻合をつくらないもの(終末動脈)もある。吻合をつくらない動脈が閉塞すると、それ以下の領域に血液がとどかず、組織に変性が生ずる。
冠状血管〔 coronary vessel 〕
心筋細胞は、心臓内を流れる血液から直接酸素や栄養を摂取することができないので、心臓には細胞を養う特殊な血管が張り巡らされている。これが冠状血管(冠血管)である(図3)。
冠状動脈 coronary artery の入口は大動脈弁のすぐ上にある。血液は、冠状動脈→毛細血管→冠状静脈を経て、冠状静脈洞 coronary sinus に集められ右心房に戻る。
冠状血管が動脈硬化や攣縮(れんしゅく)などにより血流が減少すると、その部分は酸素不足に陥り、心臓部や左肩に激痛が起こる。これが狭心症である。さらに血流が極端に減少したり、閉塞すると、その血管によって養われる細胞は壊死してしまう。これが心筋梗塞である。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版