「気管吸引後は急変に注意」というけれど、何に、どう注意すればいいの?
『いまさら聞けない!急変対応Q&A』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は気管吸引後の急変に対する注意について解説します。
成瀬暁生
高崎総合医療センター 救命センター/集中ケア認定看護師
「気管吸引後は急変に注意」というけれど、何に、どう注意すればいいの?
正しい手技で行わないと、呼吸停止や不整脈などを誘発することに注意が必要です。気管吸引は盲目的に行う侵襲的な処置であることを、常に念頭に置きましょう。
気管吸引の目的は、自力で効果的に気道浄化を行えない患者に対し、気道分泌物を除去して気道を開存させることにあります。その他、無気肺や肺炎の予防、気道抵抗の正常化、窒息や誤嚥時の対処としても、気管吸引が実施されます。
気管吸引は苦痛と侵襲を伴う処置です。不用意に行うと、気管粘膜の損傷、無気肺、低酸素血症、気管支攣縮、呼吸停止、不整脈、血圧変動などを誘発してしまいます。また、鼻腔からの気道吸引は、鼻出血を誘発することもあります。
ルーチン業務として行うのではなく、必要性をしっかりアセスメントして、患者に十分な説明を行ったうえで、SpO2値・吸引チューブの太さ・吸引圧・挿入の深さ・吸引時間に注意して、愛護的に行いましょう。
正しい手技で実施する
気管吸引の合併症には、さまざまなものがありますが、実施者の手技による人為的な合併症が少なくありません(表1)。
1 できるだけ短時間で
文献やガイドラインでは、吸引圧は20kPa(150mmHg)前後1)、吸引時間は10~15秒以内とされています。
しかし、安全な吸引時間は7秒以内を目標2)とする文献もあり、できる限り短時間で行うのが望ましいでしょう。吸引時間が長くなると、SpO2低下や低酸素血症のリスクが高まり、回復にも時間を要します。
2 挿入は気管分岐部に当たらない程度に
吸引チューブの挿入の深さには、一定の見解はありません。しかし、深すぎると気管分岐部に当たり、粘膜損傷が生じてしまいます。
また、気管分岐部より先は、解剖学的に右の主気管支に入りやすく、気管内径も10mmほどしかありません3)。そのため、気管分岐部を越えて挿入したまま吸引を行うと、吸引時の陰圧で肺胞虚脱や無気肺を招くだけでなく、吸引チューブの機械的刺激による粘膜上皮の損傷(出血)や線毛運動の低下、気管支攣縮などを引き起こすリスクがあります。
さらに、深すぎる吸引チューブの挿入は、気道刺激となります。その結果、迷走神経反射が誘発されて呼吸停止に至ったり、不整脈を引き起こしたり、血圧や循環動態にも影響を及ぼすことがあります(図1)。
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引用・参考文献
1)高橋哲也:吸引とリスク管理.理学療法学 2011;38(7):542‐546.
2)道又元裕:患者に安全な気管吸引手技.ナーシング・トゥデイ 2010;25(4):10‐15.
3)村中烈子:症例で学ぶ! 呼吸器系のフィジカルアセスメント.道又元裕 監修,重症患者の呼吸器ケア,日総研出版,愛知,2011:94.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『いまさら聞けない!急変対応Q&A』 編著/道又元裕ほか/2018年9月刊行/ 照林社