循環動態の悪い患者さんに、褥瘡予防の体位変換を行ってもよい?|褥瘡ケア

『エキスパートナース』2017年3月号<バッチリ回答!頻出疑問Q&A」>より抜粋。
循環動態の悪い患者さんの褥瘡ケアについて解説します。

 

芦田幸代
大分県看護協会研修部臨床看護研修部長

 

循環動態の悪い患者さんに、褥瘡予防の体位変換を行ってもよい?

 

循環動態が悪い患者さんは褥瘡リスクの高い患者さんでもあり、予防を心がけることが必要です。
10°ほどの側臥位やギャッチアップでも、持続した圧迫が同一部位に加わるのを防ぐため、効果があります。

 

〈目次〉

はじめに

生命の維持のために、循環動態安定がいかなる処置よりも優先されるべきなのは言うまでもありません。しかし、循環動態がよくない患者さんの体位変換でも、思ったほど循環動態には影響を与えないことが多いのです。まず、その患者さんの状態をアセスメントする必要があります。

 

また、10°の側臥位やギャッチアップであっても“持続した圧迫が同一部位の皮膚に加わらない”ことで、褥瘡予防には効果があります。

 

循環動態のよくない患者さんへのアセスメントポイント

荷重側肺障害から循環変動が起きている場合は、状態に注意しながら体位変換を行ってもよい

例えば荷重側肺障害で呼吸状態が悪く、そのために循環変動が起きているのであれば、呼吸状態が改善すると循環が落ち着く場合があります。腹臥位にして酸素化がよくなると考えられる場合は、医師と相談し、状態に注意しながら体位変換してよいと思います。

 

体位を変更している間やその直後は、ある程度の循環動態の変化はどうしても生じてしまいますが、それに驚き、すぐに体位を戻すのではなく、その体位で安定するのを待つことも必要です。

 

しかし、どうしても体位変換ができない患者さんの場合もあります。

 

急性期の患者さんは、浮腫や末梢循環不全など褥瘡発生のリスクが高い

急性期の患者さんは、手術の侵襲により、回復過程の傷害期に細胞外液がサードスペースへ移行し、血管内は脱水となります。その一方で、皮膚は浮腫を起こすことが多くあります。そして浮腫は、褥瘡を発生する因子となります。

 

さらにICUに入室する患者さんは、生命の危機状態にあり、循環障害・呼吸不全・腎不全・栄養障害や代謝障害を生じており、全身管理を必要とされます。心臓など重要な臓器に血流量を保とうとし、皮膚や筋肉の血流量を減らすため、皮膚そのものの機能が低下している状態です。そのため、組織の耐久性が低下し、褥瘡が発生しやすいのです。

 

循環動態が悪い患者さんはカテコラミンを使用していることが多く、これも末梢の血管を収縮させることから、褥瘡発生因子の1つとなります。

 

 

褥瘡予防の具体策

褥瘡ができた場合は、栄養状態や免疫力も低下しているため皮膚の生理機能が破綻をきたし、創傷治癒過程が進みにくくなります。また、褥瘡は短時間で悪化しやすく、治癒までに時間を要することが多いでしょう。

 

そのため、褥瘡の予防が重要な意味をもちます(図1)。

 

図1体位変換ができない場合の褥瘡予防の具体策

体位変換ができない場合の褥瘡予防の具体策

 

高機能マットレスの使用

循環不全・呼吸不全などがあり、知覚の低下や自力体位変換ができない急性期の患者さんの場合、高機能マットレスを使用すると褥瘡発生が少なくなるという報告があります。

 

高機能マットレスとは、厚さが15cm以上あるもので、体圧分散の程度も仰臥位30°、側臥位30°、頭部挙上しても20mmHg以下であるマットレスのことをいいます。このマットを使用することも重要です。

 

しかし、高機能マットレスを使用しても、毛細血管圧(およそ32mmHg)以上の圧迫が同一部位に持続することや、低圧でも圧迫が除去されることなく持続されると、組織の不可逆的な細胞障害を起こします。そのため、体位変換が必要となります。

 

圧迫が加わっている部位に枕などの工夫を

仰臥位の場合、圧迫が加わりやすい骨突出部である「仙骨部」「踵部」「後頭部」「肩甲骨部」「肘部」等に褥瘡ができやすくなります。頭の位置を左右に変えることや、圧のかかっている部分を10°程度でも体位変換することで、除圧は可能です。“少しだけでも”という思いで実施している10°程度の体位変換は、褥瘡予防の観点では意味があることなのです。

 

そのほかに、頭部にはウレタンマットを使用すること、踵部には下肢全体に枕を置き、浮かすことで除圧できます。四肢の位置を少しずつ変えることや、マットレスを手で押し下げるという方法もあります。

 

スキンケアと足浴で血流の改善を

皮膚の脆弱な人には皮膚の清潔(清拭や洗浄)とその後の保湿などのスキンケアが褥瘡の予防になります。

 

末梢の循環不全のある場合は、足浴を行ったり、綿の靴下・オルソラップなどを下肢に巻いたりすることで血流の改善にもつながります。足浴は、足だけでなく全身の血流量を増やすという報告がされています。心理面でもリラックスできるので、積極的に取り入れてもよいでしょう。

 

急性期の体位変換は「2時間ごと」?

循環動態の悪い患者さんは動脈の毛細血管圧が下がり、心不全などの患者さんは静脈の毛細血管圧は上がるため、血流が悪くなります。

 

体位変換の時間は原則的には2時間といわれていますが、血流が悪い患者さんでは2時間経つ前に体位変換をしたほうがよい場合があります。

 

骨突出部位を観察し、2時間して発赤が見られたら、その部位に褥瘡発生の危険があります。そのため、2時間経つ前に体位変換をしたほうがよいことになります。つまり、褥瘡の予防には皮膚の観察が重要なのです。

 


[文献]

  • 1)藤川由美子,寺師浩人,真田弘美:褥瘡発生率と治療コストからみたICUでの低圧保持用上敷きマットレスの使用評価.日本褥瘡学会誌 2001;3(1):44-49.
  • 2)一般社団法人日本褥瘡学会編:褥瘡ガイドブック―第2版 褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)準拠.照林社,東京,2015.
  • 3)佐伯由香:第7章足浴.菱沼典子,小松浩子 編,看護実践の根拠を問う 改訂第2版,南江堂,東京,2007:91-101.
  • 4)真田弘美 編著:EBN思考の褥瘡ケア.日本看護協会出版会,東京,2002.
  • 5)徳永恵子,永野みどり 編著:救急・集中治療における褥瘡・創傷ケア.メディカ出版,大阪,2001.

 


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P.65~66「循環動態の悪い患者さんに、褥瘡予防の体位変換を行ってもよい?」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2017年3月号/ 照林社

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