その症状、もしかしたらハチ刺傷かも?!|キケンな動植物による患者の症状【8】
嘔吐や気分不良など、中毒症状を訴えて来院する患者の中には、まれに「え?これが?」と驚くようなものが原因の場合があります。
この連載では、外来などで比較的遭遇する確率の高い意外な原因について、特徴的な症状や気を付けておきたいポイントなどについて説明します。ぜひ、看護師の皆さんには「あれ?もしかしたら○○が原因?」と疑える力(知識)を身に付けていただければと思います。
守田誠司
東海大学医学部付属病院 外科学系救命救急医学講座教授
〈目次〉
- ハチ刺傷とは?
- ハチ刺傷による死亡者数
- ハチにまつわるアレコレ
- ハチ毒の成分
- ハチ刺傷の病態
- ハチ毒自体の中毒症状
- アレルギー反応による症状
- ハチ刺傷の処置・治療法
- ハチ毒自体の中毒症状の処置・治療法
- アレルギー反応による症状の処置・治療法
- ここがポイント!
ハチ刺傷とは?
ハチ刺傷とは、ハチに刺されて受傷した総称です。
ハチは節足動物門・昆虫網ハチ目に分類される昆虫で、日本にも約5,000種類が生息しています。近年では生息域が都市部にまで広がり、日本中どこでも被害に遭遇する可能性があるので注意が必要です。
ハチ刺傷による死亡者数
ハチ刺傷自体の総数は統計がないため、詳細な数は不明ですが、救急外来などでは珍しくはないため、相当数の被害があると考えられます。
しかし、ハチ刺傷による死亡数は厚生労働省の人口動態調査で報告され、毎年20人前後の死亡報告がされています(表1)。
ハチ刺傷による死亡者は男性に多く、ほとんどがスズメバチによるアナフィラキシーが原因と考えられています(図1)。また、死亡者は、山林などの医療機関が遠い場所で被害にあった方が多いとされています。
図1スズメバチによるアナフィラキシー
ハチにまつわるアレコレ
ハチ=刺す?
「ハチ=刺す」というイメージが強いですが、実は多くのハチは刺しません。日本では、約5,000種類のハチのうち、刺すハチは、たった4種類(スズメバチ科、アシナガバチ科、ミツバチ科、マルハナバチ科)と言われています。
刺すのは雄?
「人を指すのは雄のハチだけ」というのを聞いたことはありませんか?実は、ハチの「針」は産卵管が変化したものなんです。そのため、雄が刺すことはありません。スズメバチは攻撃的な性格で非常に危険ですが、そのほかのハチは巣などを刺激しなければ刺してくることは少ないとされています。
ハチは1回刺すと死ぬ?
「ハチは1度刺すと死んでしまう」と聞いたことありませんか?実は、スズメバチやアシナガバチは何度でも刺すことができ、刺した後に死んでしまうことはありません。逆にミツバチやマルハナバチの針は返しが付いており、抜けづらい構造のため、刺した後に振り払われたりすると針や毒胞などの器官がちぎれてしまうことが多いため、刺した後に死んでしまうことが多いのです。したがって、ミツバチやマルハナバチによる刺傷の場合には、刺された患部に、針や毒胞が残っていることが多く、それらを除去しなければ、体内へ毒を送り続けることになってしまいます。
ハチ毒の成分
ハチ毒の主たる成分は酵素類(ホスホリパーゼ、ヒアルウロニダーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、エステラーゼなど)、低分子ペプチド類(メリチン、キニンなど)、アミン類(ヒスタミン、ドーパミン、セロトニンなど)で構成されています。
ハチ刺傷の病態
ハチ刺傷による症状は、ハチ毒が体内に入り、ハチ毒自体の中毒症状とアレルギー反応による症状の2種類に大別されます。
ハチ毒自体の中毒症状
ハチ毒自体の中毒症状として、局所では発赤・腫脹・疼痛などが出現しますが、数時間~数日で消失します。このタイプが1番多いと考えられますが、一度に多数カ所を刺されると、ハチ毒による細胞毒性で全身倦怠感などの全身症状が出現し、重症例では臓器障害を起こし、死亡例も報告されています。 そのため、10カ所以上の刺傷例では血液検査などを行い、長時間の経過観察や入院治療が推奨されています。
アレルギー反応による症状
ハチ毒に対するアレルギー反応の大多数はアナフィラキシーです。アナフィラキシーとは特定の抗原に対するⅠ型過敏症アレルギー反応で、ハチ刺傷ではハチ毒が抗原となります。ハチ刺傷による死亡例の多くはアナフィラキシーによると考えられています。
ハチ刺傷の処置・治療法
ハチ刺傷は、刺傷部位の観察を行い、針が残存していないかの確認が必要になります。もし、針が残存しているようであれば、鑷子などで除去を行います。
ハチ毒自体の中毒症状の処置・治療法
局所の発赤・腫脹・疼痛など
基本的には経過観察となりますが、症状が強い場合には抗ヒスタミン薬の投与や鎮痛剤の使用を考慮し、患部を冷やすことが除痛につながります。
多数カ所の刺傷例、全身症状など
多数カ所を刺傷された、また全身倦怠感などの全身症状が見られる場合は、輸液を行い、血液検査を実施する必要があります。基本的には入院で治療・経過観察が推奨されます。経過で臓器障害などが出現していれば、対症療法を行う必要がありますが、特異的な治療はありません。
アレルギー反応による症状の処置・治療法
アナフィラキシーに準じた治療を行います。アナフィラキシー症状がある場合には、ただちにエピネフリンの投与を行います。基本的には筋肉内注射で投与し、部位は筋肉量の多い大腿四頭筋外側が推奨されています。
ここがポイント!
アナフィラキシーの喉頭浮腫は急速に進行するため、嗄声など出現する場合には早期に気道確保が必要となります。アナフィラキシーは症状改善後、12~24時間程度で同様の症状が出現することがあるため、経過観察入院が必要となります。
[Design]
ロケットデザイン
[Illustration]
山本チー子